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あいらぶゆー

僕が泣いていた。

また僕の両親に何か言われたのかもしれない。

励まそうと近寄ると、僕は睨み付けてきた。

首を傾げる。

やがて僕はしゃくり上げながら、言う。


「お前さえ居なければよかったんだ!」


どうしてそんな事を言うんだろう。

僕の為に居るのに、そんな事を言われたら何処に行けば良いの。


「俺のコピーの癖に!俺より劣ってるはずだろ!それなのになんで俺を超えるんだ。

お前のせいで、お前のせいで!お前がいるからっ!」


僕は辺りにあったクレヨンを握って投げ付けてくる。

気に入らないと何か物をぶつけるのが癖。

でもいつものかんしゃくとは、ちょっと様子が違う。


「お前は俺のコピーなんだ…だから俺のほうが偉いんだ!おい、そうだろ?…そうって言えよ!!」


またクレヨンが何本か飛んでくる。

僕は引きつって笑っていた。


「はははっ!お前はただのコピーなんだ。コピーだ。コピーだ。コピーのくせして……お前なんか、嫌いだ!お前なんかいらない!!」


目を見開く。

…そんなの嫌だ。

でも僕は笑いを止めずに叫び続ける。


「お前なんかいらない!俺の邪魔するお前なんかいらない!いらない!いらない!いらないんだ!いらない!いらない!嫌いだ!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!」


白いシャツが、色とりどりに汚れる。

二人で使ってきたクレヨンが、一つ残らず折れていた。

壊れた僕の心から、嫌いと紡がれていく。

だから、窓から飛び降りた。

僕がよく、いらない物を窓から捨てていたから。


僕が嫌いなら、いないほうがいいんだ。



『お兄ちゃんのこと、好き』


『お兄ちゃんは、好き?』


じゃあ僕じゃない誰かに好かれたら、どうすればいいんだ?

生きれば良いの?何の為に?







「お兄ちゃん、起きて」


目を開ける。白い光が眩しい。

ゆっくり焦点があっていく。

じわりじわりと顔の輪郭が浮かび上がり、記憶神経が稼働する。


「お兄ちゃん…分かる?シミルだよ」


喉が空気を含んでいく。

肌に熱が通うのが分かり、鼓膜が音を捕らえる。

息と共に声を出してみる。


「し、みる……?」


瞳が映す女性は、記憶に残るシミルとは違う。

でもどこかシミルに似ている雰囲気。


「そうだよ、お兄ちゃん。

シミル、頑張ったよ。

…もう一度、お兄ちゃんに会うために」


どこかのベッドに寝かされている。

やわらかい日差し、暖かい風。

僕だけ置いて、世界が変わったような空気を感じた。


「ぼ、くは……」


記憶を呼び起こす。


薬、煙、そして気が遠くなって…どうなったんだろう。

ここは天国だろうか。クローンも天国があるのかな。

シミルという女性は、笑った。


「訳は後で教えてあげる。

今は…お兄ちゃんに会えて、嬉しいや」


笑い方が、シミルと同じだった。

姿形が変わっても、同じ笑顔で僕の傍に座っている。

僕は手を伸ばして、女性の頭を撫でる。

くしゃりと長い髪を指に絡めた。

彼女は目を見開いて、涙が溢れていくのを止められないようで。


「ごめんね、お兄ちゃん…」


ふわりと体を寄せて抱きついてくる。

されるがまま抱き締められたけれど、僕はその震える背に手を回した。…自分から。


あの煙は僕を殺す煙だった。

僕が布をかぶせなければ、シミルもろともガスの影響を受けていたらしい。

動かなくなった僕の体をクローン専用蘇生機に入れ、長い時間をかけて生体反応を待っていたのだという。


その間、シミルは頑張った。

…父親を説得し、政府を説得し、マスコミから国民に説得した。

クローンの人間性を認めるべきだと。

まだ国民全員が考えを改めたわけではない。

だが少しずつさざ波のように、クローンを道具として生み出す傲慢さを批判する研究者の声は上がっている。

きっかけになったのだ。


世界が変わりはじめている。


「シミルはお兄ちゃんが好き。

私と同じように、お兄ちゃんがいつか誰かを好きになれる日がくるよ」


答えられない。僕は口を閉じて黙る。

どうすればいいんだろう。


「僕は…コピーだ。シミルが好きなのは、僕じゃないかもしれない」


この体もこの声もこの考えも、この心さえも、僕の物じゃないとしたら。

好きになっても偽物なら、嫌いになっても偽物なら、なにをしても。…それでもシミルは言い続けるのか。


強い口調で、僕を指差すシミル。


「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだよ。

同じ顔と姿を持った人が何十人いても、シミルのお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけ。

私にとってはね。それにユガミさんだってそうだよ。

これからもっとそういう人が増えていくんだよ」


あっさりした答え。


そんな事を言っても、僕が僕だという…保証はない。 

証拠はない。

血のつながりもない。

誰も認めない。

――でも僕は、信じたかった。

信じてみたかった。だって僕はあの時も

……死にたくなかった。


「ありがとう、シミル…」


僕を好きでいてくれる人がいる。これから僕に出会う人がいる。

僕をまた嫌いという人がいる。


まだ答えは出ないけれど。


「いいよ、これからいっぱいわがままきいてもらうもの!」


一人でも僕を好きといってくれる人がいることが、嬉しいから。


それが、いまは生きる理由。


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