あいへいとゆー 5
僕のベッドの上に二人で座り、じっと目を合わせる。
でもシミルはすでに泣きそうな顔でうつむいていた。
「…シミル、正直に答えてくれ。
おまえの両親は、大統領なのか?」
「………ちがうもん」
「…じゃあなんでテレビにおまえが映ってるんだ?」
「……しらないもん」
シミルを探すために報道番組は特集まで組まれている。
ユガミからまだ連絡はないが、昼には居場所が割れるだろう。
この国で一番偉い地位にいる人間。僕の生涯で関わりのない人間だと思ってた。
この国で一番いい暮らしをしているのに、どうしてこんな所に――クローンの部屋なんかに、居たがるんだろう。
「…とにかく、帰る場所があるなら、ここにいつまでも置いとくわけにはいかないよ」
「やだ!お兄ちゃんといっしょにいる!」
涙声で僕にひっついてくるシミル。
…否、既に泣いていた。
意味が分からない。
シミルは何を嫌がるんだろう。家族がいる、居場所がある。
それは全て僕にはないもので、親も一生持つことはできない。
ただのコピーだから。
それなのに、オリジナルのくせにどうしてそんなに居場所を嫌がるんだろう。
苛々、していた。たぶん嫉妬だ。
「シミルは人間だろ。
僕と違ってちゃんと帰るところがある。
それなのに…意味が分かんないよっ」
シミルのクローンだっているかもしれない。
そのクローンはシミルが存在するために存在している。
なのに、なにを、欲張りだ。
無意識に、突き放すような口調になった僕。
シミルはひっついたまま、激しく泣く。…苛々、する。
「…何でそんな泣いてんだよ!」
「だって!シミル、」
シミルは僕の裾をつかんだまま、叫ぶように言う。
「シミル、お兄ちゃんのこと、すきなんだもん!」
シミルは赤い目をしていた。
「お兄ちゃん、シミルのこと、たすけてくれたもん!」
頬も紅潮していた。
「やさしくあたまくしゃくしゃしてくれるお兄ちゃんがすき!
お兄ちゃんといっしょにねたい!
ずっとお兄ちゃんといっしょじゃなきゃやだ!
シミル、お兄ちゃんがすきなんだもん!」
精一杯声を上げて、涙が続く限りシミルは泣く。
僕と会ってから泣いたり駄々こねてばっかり。
僕はうんざりする反面、嫌じゃなかった。
嬉しかった。
こんなに駄々をこねて、
こんなに泣いて、
こんなに困るくらい僕を好きと言ってくれる人はいない。
言われたことがなかった。
「シミルのこと、きらい?」
抱きついて、涙を目にいっぱいためて。
僕は答えられない。
シミルは答えられない質問ばかり、僕にする。
自分の事も好きか嫌いか分からないのに。
…なんとも感じてないのに。
そっとシミルの髪をくしゃりと撫でるしかできない。
「…シミルは、お兄ちゃんのことすきだよ」
言葉に詰まる僕。
シミルは顔を僕の胸に埋めた。
この世に僕を必要としてくれる人がいるだなんて。
でもシミルは人間。かつ大統領という富裕層のトップ。
社会的に一緒にいることはできない。
友達だって駄目だ。許す人はいないだろう。
「お兄ちゃ―――『ヒビキ!見つかったぞ、抵抗するな!』
ユガミの声。
電話ではなく緊急用の家内通信機。
…見つかった?
…誰に?
追い詰められた時の直感は、当たる。
窓ガラスが割れる音。
部屋に何かが投げ込まれる。
煙…
…催涙ガス!
僕はすぐにシミルを抱き締める。
ガスを吸わせてはいけない。
ベッドのかけ布団を滑る手で持ち上げ、抱き締めたシミルにかぶせる。
すぐにガスは僕の体に回ってきた。
否、催涙じゃない…
これは…
これ、
は…
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
声が遠くなる。
でもシミルを抱く手を離すことはしない。
寄り掛かるように、僕は意識を手放した。




