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LUNASEA同タイトル小説

FATE

作者: 皐月 沙羅

 神、それはまだ地上にいた。正確に言えば、神の出張所が地上にもあった。その頃の話。

 神は、人々の人生を作り上げる役目を担っていた。この男はいつ生まれ、どんな風に育ち、死んでゆくか、すべてが神により決められる。1つの命が生まれる前日に、神からのお告げが風と共にやってくる。風が過ぎ去り、舞い落ちた木の葉に、その者の人生が綴られている。人々はそれを受け入れ、書いてあるように生きる。たとえ迷っても出張所には神がおり、行き先を指南してくれる。それ以上のこともそれ以下のことも神はしない。その微笑みに人々は安心して、ただそれに従う。迷うことなく、疑問も感じずに・・・。生まれた命が、翌日に失われるような人生であっても、皆「運命」として受け入れる。

しかし、1人だけ疑問を抱く若者がいた。神から付けられた名を「セージ」といった。彼は健康な青年に育ち、畑仕事をして妻と5人の子どもと暮らし、女子どもを守るために炎の燃えさかる我が家に飛び込み一生を終える「運命」となっていた。周囲の人たちは口々に、名誉ある死を与えられておまえは幸せ者だと言った。18になる若者には、それはよく理解できないことだった。彼の母親は彼を産むと同時に死ぬことが「運命」であった。母親の人生が書かれた木の葉を見つけた若者は、それを握りつぶしていた。

木の葉は、曲がることも破れることもなく、すぐにもとの形に戻った。「運命」は変えられない。そのことを証明するように。

過去に変えた者はいない。変えようとした者もいない。「運命」とは変えられぬものなのだ。

それが、この世界の普通のことだった。

 若者セージは、皆に今のままで良いのか聞いて回った。もっと他の人生を生きてみたくないのか?

与えられた人生をそのまま歩んで幸せなのか?と。ほとんどの者は、セージを奇異の目で見た。困った顔をする者、神への冒涜だと怒りだす者もいた。それでも、迷いの顔を見せた者もいた。そんな者たちが集まり、徐々に疑問を持つ者たちが増えていった。セージはその者たちの先頭に立ち、「運命」を変えようとしていた。

 妻と子どもは、運命通りとなっていたが、畑仕事はせず、人を助けることができる医者を志した。町の医者のもとで働きながら学んでいった。彼の父親は、セージのすることに対して何も言わなかった。

セージは28歳で、町の医者の代理ををまかされるまでになっていた。セージはたくさんの人を救った。

それでも彼に感謝する者は少なかった。怪我にしろ病気にしろ、「運命」によって助かるかどうかは決まっているのだから。

 

 セージが緊急で呼び出された先は、自分の家だった。家は炎に包まれていた。妻と子どもは助け出され、彼の父親だけが見当たらなかった。皆で必死に水をかけ、炎を消そうとしていた。熱気で熱い。

ゆらり、炎の中から人影が現れた。父親だった。全身に火傷を負い、セージの前で息絶えた。

 何かがおかしいと、セージは思った。「運命」に逆らったせいで、こうなったのだろうかと考えた。「運命」に逆らうことが悪いことなのだろうか。「運命」を受け入れることが良いことなのだろうか。

セージは、父親の手の中に木の葉が握られているのを見つけた。木の葉だけは、少しも燃えた様子がなかった。セージは父親の木の葉を見て愕然とした。それは、セージの人生だった。人生であるはずだった。

セージに与えられた「運命」のはずだった。

「女子どもを守るために炎に立ち向かい一生を終えよう」

その木の葉の下に重なるようにしてもう一枚、木の葉を見つけた。木の葉の真ん中あたりの言葉が目に飛び込んできた。セージは再び愕然とした。

「青年になり、疑問を抱きながらも人を救う者になろう」

セージは横たわる父親を見つめ続けていた。


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