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死神様のご機嫌いかが?  作者: 椎名皇
『ツイていなかった』二つの出会い
5/5

ケース5.新米探偵

 翌日・・・とはいえ、ほとんど一睡もしていない。

 どこかの死神とかいうバカがやらかしてくれたせいで、片付けで寝る時間が取れなかったのだ。

 そのバカはというと・・・。


【すぅ・・・すぅ・・・。】

「はぁ・・・こいつはこいつで勝手に寝てやがる。窓から突き落としてやろうか。」

【すぅ・・・うぅん・・・・・すぅ・・・。】

「・・・・ふん。」


 侑斗は毛布を持ってきて、死神に背中にそっと被せた。

 季節はもう秋の真ん中だし、朝はけっこう冷え込む。

 それから、朝の支度を整え、侑斗は学校へと向かった。




「ふぁぁぁ~~・・・・。」

 

 あくびが勝手に出る。我慢なんてしようとするだけ無駄だ。

 あくびを注意されたのは本日5回目だ。

 そのたびに大して仲が良くも無いクラスメイトに注目されるのだから、たまったものじゃない。

 やっとこの時間が終われば帰れる・・・。


 最後の授業時間の時に、侑斗は考えていた。

 この学園の3年生である、聖のことについてだ。


 そういえばこの学校の3年生に七海さんがいる・・・って所長さん言ってたな・・。

 あんなに美人なら話題になってもいいと思うけどな。

 ・・・気になるし、気の弱そうな奴にでも聞いてみるかな。


 授業終了後、教室に残っていた、いかにも気の弱い男子生徒を捕まえて話を聞いた。


「七海聖さん?誰それ?」

「いや、3年生にいるらしいんだけど・・・。」

「3年生かぁ、あんまりよく知らないけど、そんな人聞いたことないよ。」

「・・・そっか、ありがとう。」


 あれだけ美人なのに、よく噂が経たないもんだ。

 まぁ学年が違うから仕方が無いことなのかもしれないが。

 気にはなったが、これ以上残るのも面倒だし、なにより事務所へいかねばならない。

 侑斗は事務所へと向かった。




 事務所で侑斗はありえない光景を見た。


「どうも。」

「うぃっす。書類持ってきたか、秋山。」


 昨日と同じように、所長が出迎えてくれた・・・が。

 そこで妙な違和感に駆られる。


「はい・・・・って、どうしたんですか所長さん?」

「何がー。」

「いや、口調や姿勢とか色々と・・・。」


 口調も男っぽくなってるし、机に突っ伏しているし。

 どう見ても昨日見た所長とは全然違っていた。


「ああ、すまんな。もうお前はここの事務所の一員だからな、これがあたしの本性だよ。」

「え・・・えと・・その・・。本性・・・なんですか。」

「あー、だって昨日までのお前は『お客様』だろ?でもお前は今日から『部下』だし。」

「はぁ・・・なるほど・・。あ、書類持ってきました、どうぞ。」

「おう、ご苦労。」


 事務所に入ったのはいいが、自分の居場所がない。

 どこにいればいいかわからず、オロオロするだけの侑斗に所長が一言。


「キョロキョロするな。昨日と同じ場所でも座ってろ。」

「は、はいっ。」

「ふーん・・・。(何か護身に使えること)ってとこの欄に書いてある、『我流』ってなんだ?」

「いや、剣道と合気道がカッコいいと思いまして、見様見真似でやってたぐらいです。」

「それって、素人じゃねぇか・・・。」

「いやぁ、カッコいい奴って真似したくなるじゃないですか。」

「・・・・それは否定しない。」


 侑斗が興味をもったものは数多くある。

 友達と遊ばないでずっとそれら練習を行い、極めようとしていたくらいだ。

 確証はないが、すこしくらいは役に立つと思っている。


「それに、特技の欄にある『ピッキング』ってなんだ?」

「いやぁ、鍵開けれたら便利じゃないですか。見様見真似で会得しちゃいましたよ。」

「・・・・お前、案外使える奴かもな。」


 侑斗が小学生の頃、鍵を忘れて家に入れなくなったことがあった。

 そんな時に助けてくれたのが、たまたま通りかかった、鍵屋さん。

 彼は親切にも、侑斗の家の鍵を無料で開けて、去っていった。

 そんな彼に感動した侑斗は、さっそく練習を始め、1ヶ月で習得し、大体の鍵は開けれる程になった。


「よし・・・受理っと。これでお前も正式にここのメンバーだ。」

「ありがとうございます、頑張ります!」

「ここの事務所はあたしと聖の他に2人いる。2人とも仕事で出て行っているが、会った時は自己紹介しておけよ。」

「了解です!・・・・すいません、お菓子食っていいですか?」

「はぁ・・・好きにしろ。そこの戸棚に入ってる。」


 言われた場所を見てみると、たくさんのお菓子がそこにあった。

 侑斗に言わせればまさにここは楽園である。


「トッポにぷっちょに、ブラックサンダーまであるじゃないですか!すげぇ、どれから食おう!」

「食いすぎるなよ?(昨日たくさん買っておいたけど無くなりそうだな・・・・。)」

「善処します。」


 お菓子を食いながら、置いてあった推理小説を読む。

 今のところ仕事は入っていないようで、所長も暇そうにしている。


 そのまま20分くらい経っただろうか。

 事務所のドアが開いた。

 

「あら?秋山君と姉さんだけかしら。」

「おう、そんなところだ。仕事も入ってないしなぁ。」

「あ、どうも・・・。」


 中に入ってきたのは、聖だった。

 侑斗の学校の女子生徒と同じ制服を着ている。

 やはりこの人は俺の先輩なんだなぁ・・・と侑斗は改めて認識した。


「秋山君、仕事もしないでお菓子ばっかり食ってるなんて、いい身分ね。」

「え、いや・・・だって仕事もないし。」

「仕事ならここにたくさんあるでしょう?私がどれだけ忙しいと思ってるの。」


 そういって聖は、自分のデスクを指差す。

 しかし、侑斗は何を言われているのか、よくわからなかった。


「えと、この仕事はあなたの仕事じゃ・・・?」

「だから手伝いなさいと言ってるのだけど?そこで無意味にお菓子を消費している暇があるならね。」

「は、はい!すぐに手伝います!」

「・・・・聖に頭が上がらないんだなぁ、あいつ。」


 こういった成り行きで、急遽聖の仕事を手伝うことになった侑斗だった。

 頼まれた仕事は、浮気調査の結果を書類に‘綺麗’に書き写すこと。

 その程度ならばすぐに終わるであろうと思われたが・・・

 

「汚い字ねぇ。こんなフランス語かドイツ語みたいな字、誰が読めるのよ。書き直しね。」

「うぅぅ・・・だったらパソコンとか使えばいいのに・・・。」

「何か言ったかしら?」

「いいえ、何も!」


 ・・・先ほどから、こんなペースである。

 侑斗にとって、字を綺麗に書くなんて、本当にどうでもいいことだったので、もちろん字は汚い。

 対する聖の字は几帳面でバランスが取れた字であり、とても読みやすい。

 そんな聖から見れば侑斗の字に合格点をあげることはできなかったらしい。


「はぁ・・・本当に使えないわねぇ・・。」

「うぅ、すいません。」


 あまりにも侑斗と聖のぎくしゃくぶりが見ていられなかったのだろう。

 所長がこんな提案をし始めた。


「まぁまぁお前ら、親交を深めるためにも今日はどっかで茶でも飲んで来い。経費から落としてやるから。」

「あら、お気遣い感謝するわ。行きましょう、秋山君。ただでお茶が飲めるわよ。」

「い、いいんですか?」

「おう、いいぞ。ただし、会話くらいしっかりしろよ?」

「はい、頑張ります。」


 聖は機嫌よく、侑斗は緊張したそぶりで事務所を出て行った。



 少し街中を歩いたところにある喫茶店。

 この前の事件が起きた場所とは違うが、落ち着いた雰囲気であるところはどちらも同じだった。

 聖がここが良いと言い、侑斗も異論はないのでここに入ることにしたのだった。


「なかなかいい雰囲気の店ね。こういうの、嫌いじゃないわ。」

「そうですね。俺もけっこう好きです。」


 ゆったりとしたBGMが店内を流れる。

 決して華美になりすぎず、落ち着いたダークトーン調の内装だった。

 

「あ、店員さん。コーヒー一杯とスイーツは・・・そうねぇ、イチゴロールケーキを一つ。」

「それじゃ、俺もコーヒーと・・・チョコレートケーキを。」

「かしこまりました。」


 店員が去っていく中、聖が侑斗に話しかけてきた。


「そういえば・・・その制服、あなた私と同じ学校ね?」

「そうですね。俺は2年生なんで、七海さんの後輩ですね。」

「・・・七海さんじゃわかり辛いわ。姉もいることだし聖さんでいいわ。」

「あ、了解です。これからよろしくお願いしますね、聖さん。」

「・・・よろしく。」


 その後も、他愛も無いことを話していたら、コーヒーが運ばれてきた。

 侑斗はいつもどおりコーヒーにシュガースティックを10本投入した。

 すると、聖が顔をしかめて口を開いた。


「ちょ・・・あなた、それ何本目よ?」

「え?7本目ですけど。俺、いつもコーヒーにシュガースティック10本入れてるんですよ。」

「糖尿病になるわよ?少しは自重しなさい。」

「不思議なことに、身体は17年生きてきた今までずっと健康なんですよねぇ。」

「・・・・信じられないわ。」


 その後もチョコレートケーキにシュガースティックを投入しようとする侑斗を聖は止めた。

 私と飲食する時はすこしくらい自重しなさいといわれて、侑斗は落ち込んでいた。


「あなた・・・やっぱり変わっているわね。」

「いえ、普通に生きてきた普通の高校生ですけど?」

「自覚がないのね・・・はぁ。」

「でも、聖さんだって変わっていますよ。高校生なのに探偵やってるし・・・。」

「私だって色々あるのよ。別に変わってなどいないわ。」


 色々あるといっておいて、変わってないって言うのか・・・。

 けっこう聖さんも謎がありそうだよなぁ。

 あ、謎といえば・・・。


「そういえば、疑問だったんですけど、なんで聖さんって学校で全然噂流れてないんですか?」

「どういうこと?噂なんか普通流れないじゃない。」

「いや、普通こんな綺麗な人いたら、噂くらい流れても不思議じゃないと思うんですけど・・・。」

「なっ・・・!綺麗って・・・・・からかってるのかしら?止めなさい。」


 綺麗といった瞬間、取り乱す聖さん。

 顔がもの凄く真っ赤なのは気づいているだろうか。


「いや、普通に俺が出会った中ではものすごく綺麗なほうでしたよ。それで、理由教えてくれませんか?」

「だから止めなさいって言ってるのに・・・。・・・・これ。」

「ん?」

 

 聖がバッグから取り出したのは、銀縁の眼鏡。


「この眼鏡・・・度が入ってないですよ、伊達眼鏡ですか?」

「そう、学校では大人しくしてるから・・。不用意に目立つと、仕事もやり辛くなるし。」

「なるほど、そういった理由があったんですね。」

「そんなことどうでもいいでしょうに・・・。」


 少し不機嫌になりながら、聖はコーヒーカップを手に取った。

 侑斗はそんな様子にも気づかずに、話を続けた。


「聖さんは探偵初めて長いんですか?」

「・・・そうね、もう5年になるかしら。最初は姉についていくだけだったけどね。」

「へぇ・・・。」

「あなたは完全に新米だし、まずは慣れることね。」

「うぅ・・・了解です。」


 こうして30分くらい店にいた後、会計を済まして2人は別れた。

 聖さんとは少し打ち解けたことができた気がするし、上出来かな?

 少し嬉しさが顔に出ていた侑斗だった。


 


 喫茶店から出た侑斗を捉える二つの瞳。

 燃えるような紅色の瞳が、侑斗を見つめる。


【・・・さて、始まりだね・・・・・。あたしがここにいる以上、お前は避けて通れない道だ・・・。毛布、とても暖かかった・・。ふん、せいぜい頑張りなよ。】


 その直後、侑斗の携帯電話が鳴り響いた。

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