ケース3.死神様降臨
死神様登場
【そう、あたしは死神。あんたが気に入って、ここに居座ることにしたのさ。】
突然家に現れた死神と名乗る女性。
まったくなにが何なのか侑斗にはさっぱりわからない。
「死神・・・って言われても・・。なんで俺なんかのところに・・・。そもそも死神って何だよ?」
【死神は死神さ。人間じゃない、でもまぁ姿かたちは人間になることはできるぞ。】
「いやいや、そういうことじゃなくて・・・。わけがわからない・・・。」
【ふむ、おかしな奴だねぇ。ま、別にあたしはあんたのところに住み着くだけだから、気にすんなよ。」
えーと、状況を整理しよう。
家に帰る→ドア開ける→玄関に赤髪の女性→死神と名乗る→混乱中
↑今ココ
さっぱり意味がわからない。
死神と名乗る女性は、今もだるそうに侑斗を眺めている。
「そうですか・・住み着く・・・・って!!ちょ、まっ、冗談だろ?!」
【めんどくさい人間だね。あたしが住み着くって言ってんだから住み着くんだよ。】
「おまっ、住み着くって言ったって第一、見ず知らずのお前なんか住ませるかよ。」
【まぁ拒否されたところであたしは勝手に住み着くからいいけどな。それよりいいのか?家族が待ってるぞ、さっさと居間に行って顔見せてやりなよ。」
「んなこと言ったって、知らない奴がいるんだぞ。いけるわけがないだろ。」
【ああ、うるさいな。わかったよ、これでいいんだろ?」
すると、死神と名乗る女性の姿が跡形も無く消えてしまった。
侑斗は自分の目を疑った。
一瞬で人が消えるなど、信じられない光景だった。
「き、消えた?マジックか何かか?!」
【だから言っただろ、あたしは死神だって。姿かたちはお前以外には見えないし、声だってお前以外に誰にも届くことは無いんだよ。」
「・・・・何か悪い夢でも見てるんだな。ありえないし・・・トッポ食べたら寝よう。」
侑斗は青白い顔をして、居間のドアを開けていった。
誰も居なくなった玄関に、声が響く。
【なかなか面白い奴だな。さてと、部屋に戻りますか。】
時刻は8時半を過ぎたあたり。
家族は帰りが遅くなったにも関わらず、普通に侑斗を出迎えた。
かなり遅めの夕食を食べながら、侑斗はそれに違和感を感じていた。
赤髪の女性についてたずねても、「アニメの見すぎじゃない?」だの「何その髪の色、痛すぎ。」だの参考にもならない言葉ばかりが返ってくる。
つまり、家族はあの死神とか言う女を見ていない、ということになる。
これ以上聞いても何も得られないと悟った侑斗は、部屋に戻ることにした。
ガチャ!
【よー、おかえりー。遅かったじゃん。お前って飯食うの遅いタイプか?】
「・・・・・嘘だろ。」
部屋に戻ると、ベッドの上には広げられたポテトチップスの袋。
それをおいしそうに食べながら、漫画を読む先ほどの変な女。
しかも侑斗のベットの上で。
「なんでまたここにいるんだよ・・・。警察呼んでいいか?」
そうだ、さっきは思考停止してたけど、こういうときは警察呼べばいいじゃん。
なんでそれに気づかなかったんだろう。
さっそく侑斗は携帯を取り出し、110番に通報しようとしたが・・・。
【お好きにどーぞ。あたしは誰にも見えないってさっき言わなかったっけか?」
「お前まだそんなこと言ってんのか?そんなのありえるわけないだろ。」
【ったく、親切に言ってやってんのに・・・わかった、どうすればいいんだ?】
「いますぐここから出て行け。」
【そうじゃないだろ。あたしが他の人間から見えないことを照明するんだろ?出て行くわけないだろ、あたしが住み着くって言ってんだから。】
どうやらどれだけ言ってもこの変な女は出て行く気はないらしい。
侑斗はため息をつくと、諦めたように声を出した。
「まぁいきなり俺の前から消えたという事実もある。何かのマジックだろうけど、いちおう誰にも見えないのか試しては見よう。その代わり、もしも見えたら即警察呼ぶからな。」
【あいよ。方法はまかせるよ。どうせ無駄だろうから・・・・クックック。】
「・・・・ついて来い。」
侑斗は死神と名乗る女性を連れ、居間へと戻った。
気になるのは、この女の妙な余裕。
どうせ見つかるのに、もしも見つかってしまったら警察を呼ばれるのに・・・・
なんでこんなに笑っていられるんだろう。
「母さん、こいつ知ってる奴?」
「・・・はぁ?あんた何言ってるの?友達いないから透明人間と友達になったのかしら?」
【ほら見ろ。あたしは見えないって言ってるだろ?ここで脱いでやってもいいぞ?】
「やめろ!!そこまでする必要はない!」
【冗談だよ、脱ぐわけ無いだろ。】
「・・・侑斗、いきなりどうしたの?気でも触れたの?病院行く?」
「・・・なんでもないよ。そう、俺は友達いないから透明人間と友達になったんだよ。」
「そう、でも見えないからその人は知らないわ。優華にも紹介してやりなさい。」
「わかった、サンキュー母さん。」
「おい、優華。俺の友達を紹介しよう。赤い髪の田中さんだ。」
ソファーに寝そべってテレビを見ている女の子に声を掛ける。
背が低く、まるで小動物のような愛くるしさをもつ少女。
侑斗の3つ下の妹で、名前は優華という。
黙っていれば、かなり可愛くて抱きしめたくなるような妹だが・・・
「は?・・・頭大丈夫?いや、前から思ってたけど一度精神科行く事お勧めするよ。」
「い、いや・・・冗談。冗談だから・・・もうやめてくれ。」
「冗談でそんなくっだらないこと言うんだ。ギャグセンスの欠片もないね。まじでつまんねーわ。」
「いや、ほんとすまん。謝るから・・・。」
「大体赤髪の田中さんとか、アニメの見すぎだろキモオタ。寒いんだよ。」
「すいません!すいません!」
【フルボッコだな、お前。妹に頭が上がらないのは兄の宿命なのかねぇ。」
「うるせぇ!ほっとけ!」
「あぁ、痛い痛い。透明人間さんとお友達ですか、いい友達もったねぇ~。」
「う・・・これも冗談だから!・・・じゃあな!」
顔から火が出るような気分で侑斗は自室へと逃げた。
母さんや妹にこれほどまで叩きのめされるとは・・・。
このやり取りから得たもの。
この女は普通の奴ではないという確信。
声も聞こえず、姿も見ることはできないというのはおそらく事実。
現にあの2人にはものすごく馬鹿にされたし。
得たものもあれば失ったものもある。
家族の俺へ対する評価だ。
今回の件でたぶんがた落ちした。
「こんなこと試さなきゃよかった・・・・。」
【だから言っただろ。無駄だって。あたしが死神って信じてくれたか?】
「死神っていうけど、お前は普通の人間じゃないことはわかった。質問がある。お前が俺のところへ来た本当の理由について聞かせてもらいたい。」
【気に入ったんだよ、ただそれだけ。】
「気に入って、俺のところへ来て、何のメリットがあるんだ?」
【さぁね。おもしろそうなことがたくさん起きそうだから・・・かな?」
「・・・・わかった、どうせこれ以上聞いても無駄だな。・・・よし。」
いきなり立ち上がった侑斗は、ベッドの上にいる死神の元へ歩いていく。
【ん?何か用か?って・・・なんだお前!倒れてくるな!」
「うーん・・・・zzz・・・。」
死神のほうへいきなり倒れた侑斗は、そのままベッドに倒れこんだ。
死神が実体を消したのだ。消さなければ色々とまずかったのだろう。
【びっくりした・・・。案外、器がでかい奴なのかもな。普通見ず知らずの奴がいたら寝れないだろ。】
「・・・・・zzz。」
【まぁ、いいか。こいつは明日から日常を失うんだ。今日くらいゆっくり休めってな。】
「・・・・・zzz。」
【これも死神の役割なんでね。恨まないでくれよ。それじゃ・・・。】
別れ際、ぐっすりと眠っている侑斗の頬に軽くキスをし、死神は飛び去っていった。
ゆれたカーテンの隙間から月明かりが部屋に差し込んでいた。
【せいぜい・・・頑張りな、侑斗。】