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死神様のご機嫌いかが?  作者: 椎名皇
『ツイていなかった』二つの出会い
2/5

ケース2.一般高校生の限界

 助けてもらった彼女と共に、侑斗はただ歩いていた。

 15分ほど歩いただろうか、目の前に現れたのは一つの建物。

 といっても見た目ただのオンボロな小屋だが。


「なぁ、ここか?」

「ええ、そうよ。ここに入るの。」

「こんなボロ小屋にか?ここはいったい何なんだよ。」

「あら、ボロ小屋とは心外ね。まぁいいわ、入ればわかることだし。」


 彼女はそう言うと、一人で小屋へと入っていった。

 しばらく待っても応答はなかった。


「勝手に入って来いってことか・・・。」


 このまま入りもせずに帰ったら申し訳ないし、入ることにした。



 外から見てもわかったが、中はかなり狭いし、埃っぽかった。

 掃除が行き届いておらず、ゴキブリとかいるんじゃないかと疑ってしまう。実際天井に蜘蛛の巣が張り付いてたし。

 デスクが4つ。大量に散らかった資料やファイル。

 満杯になったゴミ袋が5つほど放置されている。


「いらっしゃい。どう、快適そうでしょ?」

「あ・・・ど、どうも・・・。」


 中に入って辺りを見回す俺に話しかけてきたのは、所長と書かれたデスクから座ったまま話しかけてきた女性だった。所長席に座っているのだから、きっとこの人が所長なのだろう。何のかはわからないが。


「ふふっ・・・冗談よ。さて、私がここ、七海探偵事務所の所長、七海渚というの。よろしくね。」

「あ、どうも。秋山侑斗です・・。ここが、探偵事務所・・・。」

 

 まさか自分が探偵事務所に来る機会があるなんて、誰が思うだろうか。

 少なくとも、これまで平和に過ごしてきた侑斗にとっては考えられないことだった。

 

「それで・・あなたに質問があるのよ。」

「は、はぁ・・・なんでしょう?」

「私、何歳に見えるかしら?素直に答えて頂戴。」

「え?!えーと・・その・・・。」


 いきなり訳のわからない質問をしてくる所長さん。

 こういうとき、素直に答えればいいのか、おだてまくればいいのか。

 侑斗は所長の顔立ちなどをまじまじと見つめた。

 整った顔。切れ長の瞳。ショートカットの髪形。なによりも・・・・。

 グラビアアイドル並のグラマラスなスタイル。この人座ってるけど胸のでかさは立たなくてもわかる。

 ・・・冗談抜きで21か22くらいにしか見えない。ものすごく若く見える。


「えと、21歳か22歳くらいに俺は見えたんですけど・・・。」

「ふふふ・・・さすがは私。まだまだ現役ね、-5歳とか胸を張っていいんじゃないかしら・・ブツブツ。」

「あのぉー・・・俺、帰っていいっすか?」

「ちょちょ、ちょっと待った!私はまだあなたに用があるの。そこに掛けて待っていて頂戴。」


 どうやらまだ話は続くらしい。

 所長が指示した場所へ座り、話を待つことにした。

 

 2分後、お茶と菓子を持ってきた所長が席に着いたところで、話が始まった。

 侑斗はさっそくお菓子に手をつけていた。手に持ったのはポッキー。


「口に合うようでよかったわ。それじゃ、単刀直入に聞くわ。あなた、喫茶店で殺人事件が起きた時、現場にいたでしょ?」

「・・・はい。」

「私ね、あの事件の調査をしてるのよ。事件が起きた際、現場に私も居たしね。」

「調査・・・?警察の方か、何かですか?」

「警察・・・ではないわね。私は、探偵よ。」


 もしかして、倒れた店員さんに駆け寄った女性はこの人だったのかもしれない。

 探偵・・・だったのか。


「それでね、事件の時に現場にいた人を出すわけには行かなかったのよ。その場にいた全員が怪しいからね。でも、そんな中・・・あなたが逃げ出した。」

「・・・・・・。」

「あとはわかるわね?私はあなたが犯人ではないと思っているけど、何か情報も持っていると読んだわ。だから話を聞くために妹を使ってあなたをここに連れてきたのよ。」


 言い終わった後、所長はコップに入ったお茶を飲み干した。

 しばしの沈黙の後、所長は口を開いた。


「さてと、聞かせてもらうわ。情報を持っているか、いないか。持っていないのであれば現場から逃げた理由も答えて頂戴。」


 にやにやしながら侑斗の目を見て聞いてくる所長さん。

 隠し通せそうもないので、侑斗は素直に白状することにした。

 ・・・けっこうこの理由はしょうもない気がするけど。


「俺、推理小説とか大好きでして・・・けっこう事件とかにも興味があったんですよ。さすがに現実で人が死んだところを見て、ショックでしたけどね。」

「そうね・・・辛かったと思うわ・・・。」

「それでも、何か力になりたいと思って、自分にできる範囲で色々調べてました。」

「あれ?でも私は被害者の傍にいたし、死体は調べられなかったと思うけど?」

「ええ、だから自分にできる範囲で、です。」


 そこで侑斗はポッキーの箱を新しく開け、また取り出して食べ始めた。

 5本ほど食べた後、話を続けた。


「情報を持っているっていうか・・・実は俺、なぜ店員さんが死んでしまったのか、どういう経緯で死んだのかがわかってしまったんです。色々調べていたらですけど。」

「な・・・本当かしら?!私だってまだ捜査中なのに・・・。ごほん・・・気にしないで、続けて頂戴。」

「トリックっていうか、ごく単純だったんですけど、答えは導き出せました。ところが・・・。」

「何か問題が発生したのね!それで現場から動かざるを得なかったのね!」


 やばい、所長さんの視線が眩しすぎる。

 侑斗は自分が現場から離れた理由を言うべきか言わないべきか迷っていた。

 なんかここまでくると申し訳ない気分になってしまう侑斗だった。

 しかし逃げてばかりもいられない。こればかりはごまかしようもない。


「ええ、俺にとっては大問題でしたよ。おやつが切れてしまいましたからね。」


 はっきりと告げた。

 これこそが侑斗が店を出た最大の理由。

 人にとっては本当にどうでもいいことだが、侑斗にとってはかなりの問題である。

 

「そうよね、それなら仕方ないわよね!・・・・えっ?・・・・おや・・・つ?」

「はぁ・・・だから言いたくなかったんですよ。おやつが切れて帰るとかみっともなすぎるでしょう?」

「は、はぁ・・。おやつ・・・ね。・・・って・・・嘘でしょ?!」

「何がですか?俺はピンチだったんですよ。おやつなきゃ始まらないじゃないですか。」


 自信満々でそう答える侑斗に、所長は頭を抱えた。

 コップを思いっきり握り締めている。

 侑斗は相変わらずポッキーを食べ続けている。


 

「ちょっと・・・あなた、私に言った理由と違うじゃない。」

「ん?おお~聖!私を助けておくれー・・。こいつの言っていることが理解できないんだ・・・。」


 突如聞こえた第三者の声。

 声の方向を向くと、先ほどここまで送ってくれた女性が立っていた。

 長く、艶やかな黒髪をもった誰がどう見ても美人といえるほど美しい女性。

 凛々しい切れ長の瞳で侑斗を見つめていた。

 


「あ、君は・・・。」

「先ほども会ったわね。自己紹介をしておくと、私は七海聖。ここの所長の妹よ。それで、いったいどういうことなのかしら?」

「え・・・えーと、なんていうか・・・こう言っておけばまだ理由としては正当性があるかと・・・。」

「・・・最低。」


 聖はそのままゴミを見るような目で侑斗を見始めた。

 どうやら侑斗は聖に嫌われてしまったらしい。

 しかし視線が半端じゃないくらい痛い。もう土下座でもしてしまおうか。


「いや、悪かったとは思ってるよ?でもさ、しょうがないだろ。おやつ切れて逃げたとか理由としてめちゃくちゃすぎるでしょ。」

「理由はどうあれ嘘をつく言い訳にはならないと思うのだけど?本当に貧相な考えね。だいたいおやつ切れた途端に現場から逃げるなんてどんな神経しているのかしらねぇ?」

「すいませんでしたーー!!」


 侑斗はもう土下座をするしかなかった。

 視線+言葉の威力がいとも容易く侑斗の防御力を上回った。

 

「いきなり土下座するなんて・・・・。ふん、まぁそれをどうこう言っても仕方がないことね、時間の無駄だし。それよりも聞きたいことがあるの、答えなさい。」

「なんでしょうか。」


 侑斗はもう反抗心の欠片も持っていなかった。

 それよりも反抗して心を粉砕されるまで攻撃されるのが怖かった。

 聖は微笑を浮かべた後、口を開いた。


「あなた、この事件についてほとんど答えを導き出せたようなことを言ってたけど、あれは本当かしら?」

「自信はありませんが・・・一応は。」

「そう・・・。なら聞かせなさい。あなたが出した答えを。」

「そうね、私もさっきは驚いて聞けなかったけど、聞かせてもらえるかしら?」

「話せって言うんなら話しますけど、あくまで俺の推理ですからね。あ、キットカット頂きます。」


 ポッキーを2箱完食した侑斗はキットカットに手を出した。

 いったいいくつ食べるのかしら・・・と聖と所長は呟いていたが聞こえないふり。

 頭を働かせるには甘いものが一番だと思っている侑斗は止まらない。


「俺が見ていた限り、被害者は店内を歩いている途中に前方に倒れ、そのまま被害者の倒れた場所に血が飛び散りました。証言とかは聞いてないので犯人も、動機もわかりませんが、それでも倒れた理由についてはわかりました。」

「へぇ、おもしろいわね。聞かせてくれる?」

 所長が興味津々な様子で質問した。


「まずはあの喫茶店の内装部分について確認しましょう。あの店はかなり古いです、僕もけっこう前から通ってましたし。シックなデザインで、黒調の内装が目立ちます。床は木製で、古いためか床に隙間があります。マスターも近いうちに改装すると話してくれました。」

「「・・・・・・・。」」

「普通に店内を歩いていたマスターが床に倒れ、そこから血が飛び散る・・・。もちろん、マスターは何者かに襲われたわけではありません。今回の死因は床が絡んでいると俺は考えました。病気で倒れたにしても、ああゆう風に血が飛ぶわけありませんから。」


 あの事件の記憶が脳裏によみがえってくる。

 あの時、一人の女性(おそらくここにいる所長)や警察官がマスターの近くにいたため、侑斗は満足に捜査することができなかった。

 そのため、犯人やら動機やらを見つけるのは侑斗には不可能だった。

 だからせめてもの・・・との思いで行動に出たのであった。


「床を調べようにも、警察官がいて近づくことは不可能ですから、せめて見ることにしました。被害者が歩いていた床周辺をよく目を凝らしてみてみると、マスターが倒れた要因がわかりました。マスターの足跡があった床が湿っていました。更にその床をよく見ると、油でもかけられたのか、妙にてかてかしてたんですよね。」

「そ、そうなのかい?私は現場で捜査していたけどまったく気づかなかったよ?」

「そりゃ、死体が近くにあるのに、床なんて見てられないでしょうからね。・・・話を戻すと、油は滑ります。しかも、床は湿り気を帯びていました。水と油は混じらないため、水だけでも滑るのに、その上に分離された油が塗られた状態では・・・恐ろしいほど滑ってしまいます。」

 

 スーパーやコンビニの床が水で濡れていたら滑る。

 油はもちろん滑る。石鹸などがいい例えだろう。

 水で濡れたスーパーの床を石鹸で塗りつぶし、その上を歩くと考えればわかるだろうか。


「これが、マスターが倒れた要因と考えられます。あんなに血が飛び散った理由はまだわかりませんが、間違いなく床が絡んでいると思います。マスターは飲み物も運んでたため、両手が塞がった状態です。そんな状態で滑ってしまったら、あっけなく倒れてしまうでしょうしね。・・・不完全でごめんなさい。」


 これが侑斗が導き出した答えだった。

 七海姉妹は目を丸くして驚いていた。

 まさかこんなわけのわからない奴がこんなことを言えるはずがない・・と言いたげな顔をしていた。

 しかし、その顔も数秒後には引き締まった顔に戻った。

 

「・・・聖、現場へ戻るよ!」

「わかったわ。行きましょう。」

「え、ちょ・・ちょっと俺は?!」

「最低って言葉は撤回しておくわ。それと、あなたの名前を聞いてもよろしいかしら?」

「あ、秋山侑斗・・・だけど。」

「そう、覚えたわ。」

「秋山君、明日の午後4時にもう一度ここへ来てくれないかな?君に話があるんだ。」

「はぁ・・・いいですけど。」

「それじゃ、さよなら!!」


 そのまま彼女達は事務所から出て行ってしまった。

 侑斗は完全に取り残された。


「さよならって・・・俺一人にしておいて大丈夫なのか、この事務所?」

 

 他に人がいる気配もしない。やはりここは自分一人だけのようだ。

 

「って・・・時間!もう8時すぎてるじゃねえか!早く帰らないと・・・・っと、そうだ。これ、もらっていきますね。せっかく協力したんだから、お礼くらいもらってもいいよな。」


 キットカットの大袋に入っていた最後の1個を拝借し、侑斗は事務所を後にした。

 



 自宅への帰り道の途中、侑斗はぼんやり考えていた。

 七海探偵事務所のことだった。

 探偵というのはけっこう興味があった。

 好奇心旺盛な性格であった侑斗は、興味を持ったものに常に全力を注いでいた。

 その分、興味がないことには一切力を入れなかったし、興味を持っても、その興味が他に移ることは普通にあることだった。

 そんな侑斗でも、興味を失わなかったこと。それが推理だ。

 どれだけ解いても、未知の謎が生まれる。まったく興味が尽きない。

 侑斗が推理小説を集めだしたのはその考えが生まれた時からだった。


「まぁ、明日も来いって言うし、行くだけ行ってみるか。・・・おっと、もう家に着いたか。」


 目の前にあるのは、紛れもなく侑斗の自宅。

 侑斗は自宅のドアを開けた・・・が、妙な違和感に気がついた。


「ただいま。」

【おかえり・・・ずいぶん遅い帰りだね。あたし寂しかったけど?】

「・・・・・は?」


 錯覚だろうか。いいや、たぶん現実。

 頬を抓ってみる・・・・痛い。

 ならばこの目の前のこいつはなんなんだ?

 ぼさぼさの赤い髪で、黒い布キレみたいなのを羽織った長身の女性。

 真紅に染まった瞳で俺をみつめ、妖艶な笑みを浮かべている。


「お前・・・誰だ?」

【あたしかい?そうだねぇ・・・・‘死神’って呼ばれてるよ。】

「しに・・・がみ・・・?」


 その出会いはあまりにも唐突で・・・・。

 あまりにも、『ツイていなかった』。

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