竜の世界にとりっぷ!3.5
こちらは、「動物の世界にとりっぷ!」作品たちと同じ世界観のもとで、書かれています。詳しくは、まとめサイトさま(http://www22.atwiki.jp/animaltrip/pages/1.html)へどうぞ。
*蛇の描写について嫌悪を抱かれる方は見ないほうがよいかもしれません。
*直接ではありませんが示唆する部分がありますので、年齢制限つけさせていただきました><。
以上に了解された方から、スクロールどうぞ!
拝啓 我が愛するべきクソジジイどの
お久しぶりですお祖父さま。お元気でいらっしゃいますか?
私は最近ふと思い出します。
あなたが私に言ってくださったことを。
「おまえの武は形だけか」とお祖父さまはよく言っては私への更なる修練をつけてくださいましたね。――まことに悔しい過去の思い出です。
仮にも、父母をなくして引き取られた5歳のころからあなたを師として修めた22年間の武術です。まだまだ未熟と知りつつも、ほかならぬ師匠でもあるお祖父さまにそのような事を言われた自分としては「貴様がそれをいうか」と叫びたくなる感情をセーブするのに必死でしたよ。言いませんけども。
ところで、我が家でもある岩倉武道館の後継は決まりましたか? 無事に奴が落ちたことと信じております。「よしいけ、あとは君にまかせた!」と叶うならばお伝えください。
最近の私の近況としましては、なにやら厄介な事態になりつつあるようです。うん、獣が人になる異世界といえどもいろいろありますとも、ええ。
異世界から落っこちてきた「落人」である私を保護してくださったご主人様にはまことに感謝しております。仕事までも斡旋して頂き、癒しまでも用意してくださったご主人さまには本当に感謝しております。
ですが、一言いっておきたい。
――― 欲情するなら、他でしてくれ。
身内に書く手紙といいつつも、実際には届くあてのない私日記です。下世話ながらも本音を書くことくらいは許していただきましょう。
何故ならここは異世界です。
残念ながらまだまだこの世界について詳しくない私には、唯一残った家族であるお祖父さまに文の一つを届ける手段さえ知らぬのです。
願わくば、いつか貴方にお会いできる日がきますように。
お身体お大事に、御自愛くださいませ。
敬具
地球世界からこぼれ落ちて一年が経とうとしている異世界にて 佳永
熱が出たのは何年振りだろうか。
思い返してみて二桁は空いてるだろうことに気付いた。
先日の某御老体の意地悪によって体調を崩した私です。――まことに竜のやることはえげつない。
水に親しむ獣といえども人の身体の電解質を狂わすようなことはしてくれるなというのです。そんなことだから、蛇族の連中から怯えられるんですよあなた方。
「――大丈夫か」
寝台の上で横になりつつ休んでいた自分に、竜族のリアディと呼ばれるご主人さまが声をかけてこられました。
「おかげさまで大丈夫ですよ」
若干の誇張をくわえつつも、ほのかに熱い身体で答えた。
「そう返事が出来る時点で、やはり特殊だなおまえは」
呆れも含んだような声でした。放っといてください。
ですが実際御老体とおなじ竜族であるリアディさまが看病してくださったおかげで、この程度で済んでいるのは在ると思うのですよ。
生物の多くは身の裡に水をたたえている。それらを操るかれらです。
偏りもできるなら、拡散も可能でしょうともそりゃ。
ただ、一度は細胞組織から分離した水がそう簡単に戻るかと言えばそんなはずはなく、おかげで今日はリアディさま直々に御看病というわけです。
身体が潤うって健康にいいことだったんですね。
「申し訳ないです」
お仕事のフォローで忙しい時なのに。
ふみゃふみゃと犬族や兎族のように垂れる耳と尻尾があったら地面にぺたんとうつぶせになりたいと思いました。
こんなに自分の身体が言うこと聞かないのってありなんですかとか思いましたよ。
「別にいい」
リアディさまはそう言われると、再び沈黙されました。
「………」
「………」
「なんで、そっぽ向いてるんですか」
本当は怒りたいんでしょう。こっち向いて言えばいいじゃないですか。
慣れない熱に浮かされたのでしょうか、いらぬ一言を言いました。
もしもそれがいつもの私であったなら、そのようなことは決して、決して。
――― 言いはしなかっただろうに。
布が軋む音がして、熱が動く気配がしました。
「…馬鹿が」
それだけ言って、リアディさまは私の身体を押し倒しました。
ええ、そうですねご主人さま。
私はまことに馬鹿でした。
「――――――――― 馬鹿でしたね」
抵抗する力も残していなかった私は食われるままです。
やはりここは獣の国だったようです。
弱った個体は食われるだけだということですか。
――― ああ、死ぬることさえ獣の本能か。
息も絶え絶えの視界の外で、ブルーブラックのリアディさまの髪が揺れるのが見えました。
一度目のそれは、酒に呑まれたときでした。
二度目のそれが、今日のそれです。
「―――やっちゃったな」
ぽつりと一言呟きました。
身体の具合はもう万全です。
なんですかあれですか房中術ですか器用ですねご主人さま。
そんなわけないだろう、と涸れた笑いの突っ込みが脳内にて入りました。
「………」
見慣れてしまった異世界での自分の部屋で、人型のままのリアディさまの寝姿を見つめている。
ブルーブラックの髪はさらさら。
180㎝は在りそうな長身に人化した姿は無駄に美形です。
中身はただの守銭奴でしかないのにねえ、ご主人さま?
眠り続けるその腕のなかに半身を残したままで、佳永は想った。
忘れられぬ故郷がある。
今でも慕う師がそこにはいる。
なのに、私はここにいる。
ああ、なんという。
なんという矛盾。
「――― うそつき 」
呟いた言葉が向いた先にいるのは、自分なのか世界なのか隣で眠る優しい獣なのかを知ることはない。
私が私である限り、この言葉はきっとついてまわることだろう。
決意はいまだ及ばず。
――― お祖父さま。私はやはり不肖の弟子です。あなたの言われるように、私の精神は脆い。
とりあえず、目覚めたあとのリアディさまとの距離のとりかたについてを考え出す。このあたりが適齢期も終わりに近い28歳独身女子の思考かなとか思うわけです。
どっとはらい。
(――― 避妊はしてくださいね)
(――― …… )
(――― ちなみに、恋人扱いはお断りさせていただきます)
(――― …… )
了
恋人でもない、婚約者でもない、あえていうならセフrげふんげふん。
曖昧な関係で終わらせるあたりが、彼女の逃げ場所かな、と。
次回は、普通にお仕事します! (宣言)
※あげなおしました。
とりあえず、今の状態はこんな状態です。
いつも最強な主人公が良かったと思われる方もいるかもしれませんが、うちの最強もどきっこはみんなどこかで泣いてる子ばかりです。私はそんな子が愛しいからなあ。
では、よければまたお会いしましょう!>▽<ノ