日月のあわい
沢へと向かう道は、はじめから道ではなかった。
踏みしめるたびに、足元の土が「ここが道だ」と思い出していくような、そんな感触だった。
風はないのに、木々は揺れている。
光はあるのに、影が追いついてこない。
「……おかしいな」
そう呟いたとき、空がふたつに割れていることに気づいた。
ひとつは、昼。
ひとつは、夜。
太陽と月が、同じ高さに並び、こちらを見ていた。
そのあいだに、誰かが立っている。
輪郭はあるのに、顔は決まらない。
光のようでいて、闇のようでもある。
「ここを通るのか」
耳からではなく、内側からー
少しだけ考えて、答える。
「通る。沢へ行く」
その存在は、わずかに揺れたー
笑ったのか、それとも試しているのか。
「沢へ行く者は多い。だが――
途中で“自分の光”を置いていく者がほとんどだ」
太陽が強くなり、影を消そうとするー
月が深くなり、輪郭を溶かそうとするー
「どちらかを選べば、楽になる」
日か、月か。
現か、夢か。
正しさか、優しさか。
「両方、持っていけばいい」
空の境界がひび割れる
太陽と月が、一瞬だけ重なり、
その中心から、細い道が一本、沢の方へ伸びていく。
「……なるほど」
日月の神は、はじめてはっきりとした輪郭を持った。
「お前は、分けないのか」
「分けたら、嘘になる気がする」
「行け。こんじんの沢は、すぐそこだ。
だが――」
その声は、今度ははっきりと耳に届いた。
「次は、“お前自身”が問われる」
振り返ると、空はもう一つに戻っていた。
ただ、どこかに―ー
太陽と月が、まだ重なっている気配だけが残っている




