透過する街
夕暮れの街は、薄いフィルターがかかったように滲んでいた。
ポポはビルの屋上に立ち、沈みきらない太陽を見ていた。
世界はまだ明るい。だが人々の顔は暗い。
誰もが何かを作っている。
動画、音楽、言葉、怒り、正義。
それらは無数のレイヤーとなって空中に浮遊し、街を覆っていた。
「多すぎるんだよ」
ポポは呟く。
表現は本来、魂の呼吸だったはずだ。
だが今は違う。
誰かに届く前に、誰かを押し潰している。
下の交差点で、巨大なスクリーンが光る。
そこに映るのは、理想化されたヒーロー像。
けれどそのモデルとなった人物は、ただの一人の人間だ。
強さもある。
弱さもある。
怒りもある。
それでも物語は、都合よく切り取る。
「オーバーアート……か」
芸術が現実を超えたとき、
現実はどこへ行くのだろう。
風が吹いた。
街に浮かぶ無数のレイヤーが、わずかに揺れる。
ポポは目を閉じた。
怒りを消すのではない。
嫉妬を否定するのでもない。
それらを透過させる。
透明だが、温度のある状態。
その境地に至れたとき、
創造は誰も傷つけずに響くのかもしれない。
遠くでサイレンが鳴る。
世界はまだ騒がしい。
だが、ほんの一瞬だけ、
街は静かに呼吸した。
ポポは屋上から一歩踏み出す。
落ちるのではない。
重力の上を歩くように、
空中へ。
オーバーアートは、まだ始まったばかりだ




