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第一話


 私が初めてピアスを開けたのは中学一年の夏休みだった。

 おしゃれをしたくて開けたわけではない。

 ただ、心の痛みを、身体を傷つけることで緩和したかったのだ。

 私は、中一の春からいじめを受けていた。

 きっかけはよくわからない。『友達』だと思っていた子たちがカースト上位の子に何故か気に入られ、「じゃあ、千歳(ちとせ)はハブね!」という一言で私の待遇が変わった。

『友達』は一瞬で私を裏切り、次の瞬間には私を嘲笑うようになった。

 カーストは絶対だ。上位の子に嫌われたら最後。学校での居場所はなくなる。

 私は逃げたかった。でも逃げられなかったのは、両親が厳格で、「いじめを受けている」と言っても「だからどうした。お前が悪いんじゃないのか」という親だったからだ。


 逃げたくても逃げられない状況下で、私は荒んでいった。

『友達なんてくそったれだ』と思うようになり、いじめっ子たちが望むまま、私は独りを謳歌した。

 しかし、独りに慣れても、暴力になれるか、と言ったら違う。

 私が受けた暴力は言葉の暴力だったのだが、それは心を病むには十分すぎた。

 夏休み。私は雑貨屋でピアッサーを買った。

 三歳年上の従兄が開けていたのを見て、これだ、と思った。

 痛みが欲しい、でも、リストカットは気が引ける。そんな私には最高の行為だった。

 ピアッシングをして、ピアスを付けなければバレないし。ピアス付けていても髪の毛長いからバレないだろうし。


 最高じゃん。


 結果、私は高校入学までに両耳に十五回ピアッシングをし、最終的に十一か所にピアスを付けて生活するようになった。

 耳たぶだけでなく、軟骨の複雑な場所にも開け始めたので、両親は途中で気づいていたが、今は半ば呆れて言葉が出ないようだった。


 正直、高校はめんどくさかった。

 でも、高校くらいは出てなさいと親に口酸っぱく言われ、仕方なしに高校進学を決めた。

 まあ、成績はそこそこよかったので、地元の私立の進学校に入学できた。

 校則が少し気になったけど、ピアス、染髪等の規制はないようで安心した私は、いつも通り十一個のピアスを付けて入学式に参加する。

 五歳年上の従姉にもう高校生なんだから、と化粧もほどほどに教えてもらったが、友達も何も作る気はないのでくっそめんどくさい工程だな、とは思っている。


「まあ、ちぐはぐだ、って思われるよりはいいか」


 私は、顔を洗って歯を磨いて、朝食を食べ、新しい制服に着替え、薄化粧をして、背中まである黒髪を櫛で梳いてから鞄を背負った。


「いってきます」

「いってらっしゃい。母さんもあとから行くからね」

「はいはい」


 私は、自転車に乗って高校に向かう。

 今年から交通についての規制の関係で自転車の走行中に音楽を聴けないのが難点だ。

 風が爽やかだな。

 きっと、高校の中はどんよりしているのだろうけど。

 十五分ぐらいで自宅から高校に着く。

 駐輪場に自転車を止め、ヘルメットを脱ぐと、風がサァ……と爽やかに吹いた。


「あ」

「?」


 近くを通った男子(ネクタイが一年生の色の緑のチェックだった)が声を上げたので、私が、なんだろう? と彼を見つめたら、彼はニコニコしながら手を振ってきた。

 え、気持ち悪……。

 いや、見た目は好青年、って感じだったけど、行動が気持ち悪い。

 女の子みんな俺の嫁! とでも思ってるんじゃないだろうか?

 私は正直その男子の行動が気持ち悪すぎてムカムカしながら掲示板に向かった。

 私のクラスは、特進科の一組だった。

一年の教室は三階らしい。

もう疲れたんだが。と思いつつ、教室に入ると、奴がいた。


「あ、おはよう」

「……おはよう」


 さっきの男子が私の席の前の席でスマホを弄っていた。


「……もしかして、前の席です?」

「え? うん。黒川(くろかわ)だよ、よろしく!」

「……よろしく」


 逃げたい。っていうか、めっちゃ見てくるんだが。なんなんだ。


「あの」

「うん?」

「なんか用ですか?}


 男子は「うん」と言って、私のサイドの髪をひと房取る。

 ひぇ! 気持ち悪い!


「いや、さっきピアスしてるように見えたから」

「あ、ああ、なるほど」

「かっこいいね! 何個開けてる?」

「十一」


 男子は「え⁉」と驚いたように声を上げた。


「す、すごいな……」

「まあ、あんまり私に関わらない方がいいよ」

「え?」

「陰キャが移るから」


 ちょうど、その時、男子―——千里(せんり)くんというらしい―――の同じ中学出身風なカースト上位的な風貌の男女が登校してきて、彼は今日一日私に関わることはなかった。

 そんなもんだ、私なんて。


.

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