Part7:「始めるぞ」
いくつかの架空要素が出てきます。
時系列は数分程遡る。
「子供だ、集団に追われている」
須導は双眼鏡越しに観測、掌握した状況を端的に伝える。
そしてしかし、その間にも向こうの状況は変化。同時に走行を続ける車輛は距離を詰め、向こうの状況光景はより明確になる。
次には、爬虫類型の。言ってしまえば小型の恐竜のような騎乗動物に乗った者たちが。子供達を囲いその「逃走路」を阻み。
そして極めつけに、子供の内の片方を騎上より蹴り飛ばす行いを見せた。
「っ!子供を!?三佐ッ!」
すでに目視距離であったことからそれを見止め、加納が険しい声を張り上げる。
「非戦闘員への危害行為と断定する、対応行動取る。備えろ――各個判断で、射撃を認めるッ」
それにまた「言われずとも」と答えるように。須導は決断し、そして命ずる言葉を発し上げた。
ここで言及しておけば。
自衛隊、いや日本の歩みに置いて幾度も難題となってきたROE(交戦規定)は。
この異世界での活動が始められるよりも前。
詳細は割愛するが、地球世界での活動にて度重なったいくつかの出来事。苦く深刻な「事件」の経験から、ようやく改定へと至っていた。
少なくとも今ここにあって、須導等を。子供たちを救うための行いを、阻むものは無かった。
「22、逸れて待機しろッ。23は10に続けッ、踏み込み割り入るッ」
通信にて各班各車に、行動指示を伝える須導。
装備火力が強力過ぎて、子供たちも居る向こうへの投射は難ありの87RCVは。道を外れて停止させ、待機支援を担わせる。
そして須藤等の共通軽装甲車を筆頭に、軽車輛が踏み込む算段だ。
「加納」
「了ッ」
須導はさらに助手席の加納に告げ。加納はそれに応じ、アクセルを踏み込み。
共通軽装甲車は、87RCVが逸れて開けた轍を、加速した速度で突き進み始めた。
「ったくッ」
加速から揺れに荒々しさを増し、風を切る車輛の車上では。
薩摩の悪態が聞こえ。同時にタレットの旋回音に、汎用機関銃のレバーハンドルを引く金属音が届く。
「!、今度は女の子が!」
その直後、また加納が声を上げる。
向こうの光景に、女の子が野盗に吊り上げ捕まえられ。そしてさらに野盗が女の子に腕を伸ばす動きが見える。
想像に難くない危害の動き。緊迫と焦りが車内に走る。
――ドゥンッ!
だが直後。後席から、鈍くも強烈な一撃を伝える音声が響いた。
「ッ」
「!」
須導に加納が、それに意識を取られたのもしかし一瞬。
前方向こうをまた見れば、今の音声からほぼ同時の直後。
騎上の野盗の体がもんどり打ち吹っ飛び。その腕に捕まえられていた女の子が、解放されて地面に落ちた様子が見えた。
「――入った」
そして、また背後後席から聞こえたのは。端的に、当然と言うように発された声。
見れば、越生が開け放った後席ドアより身を乗り出し上がり。
彼の個人装備火器である、「7.62mm狙撃銃 HK417」を突き出し構え、その狙撃スコープを覗く体勢で。
そしてそのトリガーを引き切り、その銃口からうっすらと硝煙を上げていた。
「よくやった」
何が行われ、成されたのかは明白。
須導は狙撃行動を成功させた越生に、端的に評し称える言葉を向ける。
「降りて、適当な射撃位置に着きます」
一方、それを受けた越生はしかし誇るでもなく。
端的に自身の続く行動を告げたかと思うと。そのまま走行中の車上から、しかし構わず飛び降り。
都合の良い射撃位置を探すべく、轍を外れて駆けて行った。
「よーやるッ」
その姿を見てか、賞賛よりも呆れと皮肉の色が見える声を上げたのは薩摩。
しかしそれも束の間。
直後には一層やかましく騒ぎ立てるかのように、薩摩の扱うタレット上銃架のM240Gが唸りを上げ。
7.62mm弾の銃火火線を、向こうで浮足立つ野盗たちの頭上スレスレへ。さらに脅かしその狼狽を煽る様に、撃ち込み始めた。
向こう連中の足元には子供たちが居るため、直接の掃射行動は無論行えない。
しかし脅かし牽制することは望める。これはそのための射撃行動だ。
「連中の動きが乱雑になり始める。火線には細心の注意を払え」
「えェ、言われるまでもござァせんッ」
須導の忠告に、薩摩は「言われるまでもない」と皮肉交じりに答えながら。
確かな火線方向を維持しつつ、数発ごとの切り撃ちを繰り返し、向こうに牽制のための銃火を注ぎ続ける。
「加納、ゴロツキ連中と子供たちの間。割るように乗り入れられるか?」
「やります、やりますッ」
「頼む。23は変わらず、当車に続け」
須導は向こう光景を指し示し、行動の可否を加納に尋ねるが。加納は間髪入れずに、実行する旨を返す。
そして須導は同時に、後続している高機動車に。通信と合わせてハンドサインを突き出し行動指示を送る。
そのやり取りの間にも、各車は向こう現場への距離を詰める。
そしてその最中で須導は、踏み込むに際しての自身の準備を始める。
須導が胸前には、妙に大きな拳銃用ホルスターが下げ装備されているのが見える。
次にはその内より、須導の手により。武骨で大きな「リボルバー拳銃」が抜かれ姿と現した。
「10.9mm拳銃」――自衛隊にてそう名称されるそれは、.44口径の大口径リボルバー。
自衛隊にて、武器というよりも破砕工作機器としての役割を期待されて少数配備されたもの。
しかし扱いに難ありの特性から、予備装備とされて埃を被っていたが。
此度。異世界に跋扈する強靭な脅威存在への対抗武器になり得るとされ、引っ張り出され。
そして内の一丁が、須導の得物となるに至った。
須導は取り出したその10.9mm拳銃に。さらの拳銃自体の収まっていたホルスターを、ストックホルスターの役目を兼ねるそれをグリップに装着。
使用手順を完了すると、再び開けっ放しの助手席ドアより身を半分の乗り出して上がり。スタンバイ体制を取る。
「間もなく――!」
直後のタイミングで、加納が知らせる声を寄越す。子供たちが襲われる現場は、すでに間近に迫った。
「ッ」
その直後に、向こうにまた動きが見える。
子供たちを再度捕まえ、人質の盾としようと企んだか。
子供たちに向かって駆け詰め寄ろうと動く陸竜が、連なり二騎。
「いいですねッ!?」
「構わんッ」
見えるそれから、加納が寄越したのはそんな可否を訪ねる声。
それに、須導はシンプルかつ確かに、認める言葉を返す。
そして、その野盗の陸竜が子供たちに迫らんとする、しかし僅差の直前。
共通軽装甲車は。その現場へと突っ込む勢いで割り入った。
――ガギェッ。
大きな鉄と、肉の物体が衝突し。そして拉げる嫌な音が響き上がった。
「ぎゃべぁ!?」
わずか一瞬遅れて、濁った悲鳴が漏れ聞こえる。
想像に容易いか。突っ込んだ共通軽装甲車は、陸竜を遠慮容赦なく跳ね飛ばして、その行動を阻害。
衝突によって思いっきり拉げ跳ね飛ばされた陸竜と野盗は。そのまま向こうの地面に叩きつけられ、跳ねた後に沈んだ。
「は――?」
その仲間の跳ね吹っ飛ばされた姿に、呆け意識をもっていかれたのは、続いていた二騎目の騎兵。
正体不明の物体に目の前を阻まれ、理解が追い付かず、陸竜の上で呆けた声を漏らしたその野盗は。
「――びゃびぇっ!?」
しかし次には騎上で、濁った悲鳴を上げてもんどり打った。
「――」
動線を辿れば、野盗を阻み停車した共通軽装甲車の助手席に見えるは。身を乗り出し、突き出し構えた大口径リボルバーの引き金を引き切った須導の姿。。
彼の一撃がえげつないまでの破撃で、野盗の頭部顔面を打ち砕き、吹っ飛ばしたのだ。
主の操りを失い、陸竜はそのままさ迷うように明後日へ走り去り。
僅差で背後向こうの地面に、どちゃりと野盗の体だけが虚しく落ちて沈んだ。
「――ッ」
それを成した須導自身は、しかし意識をすぐさま切り替えて別方へと向け。
向こうで騎上より、慌てクロスボウをこちらに放とうとしていた野盗を。しかしそれよりも早くに銃撃を叩き込んで、また撃ち屠る。
「タンゴダウンッ!」
同時進行で車輛の反対方向、運転席側では加納が。
彼女の個人火器である20式5.56mm小銃 IAR――20式小銃から派生した軽量支援火器であるそれをもって。
的確に「狙う」制圧射撃で、反対側に見止める野盗を一人二人と射ち仕留めて行く。
「――ッォ」
さらに車輛の向こう正面で、狼狽からの回復が間に合わずに、浮足立っていた数名の野盗たちには。
車上から薩摩の扱う、汎用機関銃のM240Gの機銃掃射が遠慮容赦なく襲い浴びせられ。野盗たちは面白いように端から撃ち退けられて行く。
同時進行で。須導ら、敵の最中に踏み込んだ各員の死角をカバーするように。
背後の向こう、適切な射撃位置に配置した越生からの狙撃が寄越され。点在する野盗を一人二人と射ち沈め、近接戦闘を担う須導等の脇、背後を確実にクリアにする。
その戦闘状況の最中に一拍遅れて、後続していた高機動車が到着。本部付き隊の面々から成るチームが展開して、戦闘に加わり周辺クリアを始めるが。
しかし、本当に僅差の到着であったにも関わらず、その後続チームが到着した頃には。
両手で足りる程であった野盗の隊伍は、ほとんど。いや、完全に浚えられ無力化されていた。




