Part5:「冒険者たち」
一度、日時は遡り視点は別へと移る。
そこは、第101前進観測隊の目的地とする、交易路が交わる要衝地の。
そこに隣接して存在する。『リェエン』という名の、小さめながらも立ち寄る旅人やキャラバンなどで賑わいを見せる村だ。
その村の出入り口の一つ。そこでは何か、少しの人だかりができていた。
その中心に居たのは、三人の十代中程から後半の少年少女たち。
それぞれを見れば、
一人は、その眩い金髪をショートカットボブに整え、その元に端麗な顔立ちを飾る、エルフ種族の美少年。
そして、落ち着いた色の美麗な髪を携え。あどけなさを残しつつも、顔色に武人肌を垣間見せる美少女と。
狼の特徴を、毛並みに耳や尻尾を持つ。そして少し気の強そうな、獣人の中性的な容姿の少年。
そのいずれもが纏うは、それぞれの造りの軽装防具衣服。その出で立ちに形は、この異世界での『冒険者』によくみられるもの。
「――では村長さん、皆さん。行って参ります」
その三人の内から、代表的立場なのだろうエルフの美少年が。己達を囲う人々、このリェエンの村の住人たちに透る声で紡いだ。
「お願いします……しかしどうか、くれぐれもお気をつけて」
それに返すは、人だかりの一番前で少年たちと相対する女。絶妙に熟れ初めながらも美麗なその女は、このリェエンの村の女村長。
その女村長が発したのは、何か心苦しくも託す言葉だ。
このリェエンの村は、「無法者」たちに脅かされていた。
この村に、交易路を離れて少し行ったところには。太古の昔に作られ、しかしすでに打ち捨てられた、小さな遺跡施設のようなものがある。
そこに少し前より前に、略奪で糧を得る野盗らしき小集団が流れ着き。交易路を行き交う人々や、この村を襲い始めたのだ。
村は、一番近くの騎士団の駐屯する街へと助けの早馬を出したが。それでも助けが来るにはいくらかの時間を要し、その間に野盗が大人しくしていてくれる訳ではない。
そこへ居合せ、名乗りを上げたのがエルフの少年たち。
三人は、ここよりまた離れた街に置かれる『冒険者ギルド』よりのパーティー。
別のクエストを完了し、帰路の途中の休息のために村に立ち寄った所。村が野盗に脅かされている事実を知り、その解決を任される事に名乗りを上げ。
これより、その遺跡を根城にする野盗の討伐に出発する所なのであった。
「ありがとうございます。お任せください村長さん――ん?」
村長からの言葉にそう返したエルフの少年は、しかし次にはいくつかの別の視線を感じ、そしてそれを向ける小さな存在たちに気づいた。
女村長の背後に集まり立つのは、数人の村の子供たちだ。
いずれも目に見えて不安そうな色を、そして少しの希望にでも縋るような色を見せている。
村を脅かす存在の出現から、不安で窮屈な日々に苛まれてのそれであろうことは明らかだ。
「……だいじょうぶ?こわいひと、いっぱいだよ……?」
そして、その子供たちの内から一番小さな子が。エルフの少年たちにおずおずといった様子で、そんな尋ねる言葉を向けて来た。
「……うん、大丈夫!。まかせて、悪い人たちは懲らしめてくるから!」
その姿に、心に痛いものを感じたエルフの少年は。
しかし次にはその子を少しでも安堵させるべく。女の子に近寄って屈み、視線を合わせて託される言葉で答え。
「だから、応援しててほしいなっ」
そして女の子の頭を撫でてあげながら。その端麗な顔に力強い笑顔を作り、そんな求める言葉を掛けてみせた。
「……うん……!頑張って、『お姉ちゃん』!」
そしてそれにまた答えるように、女の子は精一杯の笑顔を作って応援の言葉を。
しかし、。併せてエルフの少年をそんなふうに呼んで返して見せた。
「えっ」
己を呼んだその呼称に。方やエルフの少年は驚き、素っ頓狂な顔を声に顔を見せてしまう。
「……ぷぷっ!」
「……ふふっ」
それに、次に噴き出してしまったのは。エルフの少年の背後に居た、武人肌の少女と狼獣人の少年。
実を言えばエルフの少年は、その中性的で美麗な顔立ちが所以で、女に間違えられることが珍しくなかった。
しかし相手が子供とはいえ、あまりにダイレクトに女と間違え断じられたことに。その可笑しさに辛抱できなかったようだ。
「こ、これ……っ!」
女村長が少し慌て、その女の子を戸惑いつつ叱る言葉を降ろすが。
女の子に子供たちは、周りの大人たちのそんな変な様子から、逆に不思議な様子を見せている。
「お、お気になさらないで……あ、ありがとう、がんばってくるからね……っ」
エルフの少年当人はと言えば、気恥ずかしく複雑な気分になりながらも。
女村長に答え。そしてせっかく掛けてもらった女の子からのエールにも、そう答えて見せる。
「くすくす……っ」
「あっはは……っ」
「二人とも……!」
そして、未だに背後で噴き出し笑っている仲間二人に向けて。振り向き睨み咎める視線を送った。
「ふふ……すまない。しかし、緊張も解れたんじゃないか?」
「少し硬かったし、力を抜くのにちょうど良かっただろっ?」
しかし二人は詫びつつも、悪びれはせずに合わせてそんな言葉を送って来る。
「まったく……でも、確かに気持ちが軽くなったかな……?」
それに不服気に漏らしつつも。しかし同時に、己にあった緊張の緩和を感じ、エルフの少年も笑みを浮かべてそう答える。
「よし……さぁ、行こう!」
「あぁ!」
「おう!」
そしてエルフの少年は、その透る声で高らかに発し。
仲間の二人も快活に答え。
村人たちの見送りを受けながら、村を脅かす野盗を討伐するために出発いて行った。
……しかし。
その三人が役目を終えて戻ることは叶わず。
次に村へと及んだのは、下卑た暴力の魔の手で合った――