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part4:「出会いの一幕」

 伸びる轍に沿って車輛を走らせ、間もなく向こうに見えたのは複数台の馬車の集まり。先に偵察班からの知らせにあった、この異世界の人々のキャラバンのようだ。


 そしてその馬車の集まりと相対するように止まるは、一輛の武骨な装甲車輛。

 87式偵察警戒車(以降87RCV)。

 第101前進観測隊の、本部付き隊 偵察班に組み込まれ運用されるものだ。


 欲張りを言えば、新型後継の25式偵察警戒車を回してもらえばより有難かったが。残念ながらそう都合よくはいかなかった。

 明かせば異世界にて先鋒を務め発出した部隊は、第101前進観測隊だけでなく。最新装備はそのどこもが欲していた。


「どれ」


 その87RCVに横付けする形で共通軽装甲車は止められ。須導は降車して地面に足を着け、向こうに見える人の集まりを目に留める。


 集まりの中に見える一名は、87RCVの車長。また偵察班の長も兼任する三等陸尉だ。

 その三尉は。この異世界でよく見られる衣装姿の、すなわちこの異世界の人々と相対し。

 その内の、おそらくリーダー格らしき中年男性と言葉を交わしていた。


 様子に雰囲気から、少なくとも諍いとはならず。双方友好に努めようとしている空気は伝わって来る。

 しかし同時に、三尉がときたま言葉を探しつつ携帯端末に視線を落とすなど。若干だがたどたどしい様子が何か見える。


「言語の壁」、それにより垣間見えるものだ。



 異世界との「接続」が繋がれ。

 そして間もなく日本、自衛隊は。この異世界の地に存在し栄えていた一つの文明、国家とのファーストコンタクトを果たした。

 そして分かり切っていたことではあったが、そこで生じたのが「言語の壁」。


 解決を急務とするそれへの対策は、高い優先度で注力され。

 間もなく、精度にはまだまだ突き詰めが必要だが、対話を可能とする程度の言語翻訳にこじつけた。

 これは地球側のあらゆる言語との擦り合わせての、特性、法則性の研究解明に。

 異界の人々との、直接の身体言語(ジェスチャー)にての意思疎通の試みなど。あらゆるを行使しての果てに形となったものであった。


 そしてしかし、なんとか翻訳のベースが確立されたとはいえ。

 それを用い異界の人々との対話を求められる、各人への苦労が無いかと言えばそれは当然別問題であり。

 現在進行形で、自衛隊他、異世界に降り立った各組織各人を難儀させる種となっていた。



「湯川三尉、大丈夫か?」


 そんな背景からの様子を垣間見せる三尉に。須藤は助け舟を出すように近づき、言葉を掛けた。


「あぁ、三佐――〈我々の、隊長です〉」


 掛けられた声に一度振り向いて、須藤に気づいた湯川と呼ばれた三尉は。

 しかしすぐまた一度、相手の男性に顔を戻して。少し硬い色の見える異界の言語で、須導を簡単に紹介する言葉を紡ぐ。


「ありがとう、ここからは変わろう」

「えぇ、お言葉に甘えますよ」


 須藤は後は自分が任される旨を伝え。それに湯川は少し安堵するように、そんな言葉で返す。

 それは言語に絡む難儀な役目から解放されることを、少なからず歓迎して垣間見せたのものだ。


 実の所では湯川という人は、物事の呑み込みの良さに長ける人であり、隊員の中では異世界の言語の習得もなかなか秀でている人だ。

 その所もあり、前進観測隊に組み込まれ、コンタクトの多い偵察班班長を任命されている。


 最も、当の本人が静かにしていたい性格なので。なまじ器用なせいで白羽の矢が立てられての現状に、苦く思っている様子が普段から多分に見えた。


〈初めまして〉

〈日本の国のジエイタイ、その一つの隊の隊長のスドウです〉


 そんな湯川と交代して、リーダーの男性と相対し。

 須藤は改めての自己紹介の言葉を。異界の言語で、無理に文章にしようとはせず、単語を連ねる簡単な形で発した。


〈あぁ、どうも。こっちのキャラバンのリーダーをやってる、ヘクオンってモンだ〉


 それにリーダー格の男性が返したのは、やはりこちらと違って流暢な言葉遣いでの。向こうも改めて、自身の身分と名乗る言葉だ。


〈すみません。こちらが突然現れて、騒がせてしまったでしょうか?〉


 簡単な挨拶を交わし。

 須導はまずは、相手方にとっても得体の知れないであろう自分等との遭遇から、その心情を鑑みての伺う言葉を向ける。


〈いやまぁ、正直を言えばな――それとして……「ニホン」、「ジエイタイ」。アンタ等が噂の異界からの軍なんだな?」


 須導のそれに、ヘクオンと名乗ったリーダーは。そのことに否定はせずとも、しかし追及はせず簡単に済ませ。

 そして次に紡いだのは、須導の姿や、背後に鎮座する車輛を見つつの。

 何か、少しの感嘆を見せてのそんな言葉だった。



 須導等、第101前進観測隊の。この異世界を探る偵察行動の行程こそ、始まったばかりであるが。

 自衛隊が世界に降り立ち、活動を開始してからはすでにいくらかの期間が経過していた。

 そして巷の噂の広がりは早く。自衛隊の存在の噂は程度はあれど、すでにこの異世界の多くの人々の耳に届いているようであった。



〈その噂がどういうものかは分かりませんが。我々が「日本」より、別の世界から来た事は確かです〉

〈やっぱりか。見た事も無い国に軍が異界より現れ、しかし争い以外の目的で、色々始めてるというのは聞こえて来てるよ。しかし、思ってた以上の異様さだな……〉


 ヘクオンから尋ねられたその旨に。須導は答えられる限りの正直な所を答える。

 一方のヘクオンは、しかしそれから確信を得たようで。向こうが聞き及んでいる「噂」についてを明かしつつ、また感嘆と呆れの混じる色で自衛隊側の色々を見渡した。


〈よければ、少しお尋ねしても良いですか?自分等はここより北西に行ったところの、交易路が混じる所の村を目指しています〉

〈あぁ。リェエンの村だな。馬を飛ばせば半日も掛からん――〉


 須藤は互いの紹介から、情報を得て置くべく尋ねる言葉を続ける。

 第101前進観測隊は現在、この先にある交易路が交わる要衝、及びそれに隣接する集落を目的地と定めていた。

 それについての回答が、ヘクオンからは紡がれ始める。


「――おゃ、目に嬉しい光景じゃないか」


 そんな会話を交わす、須導の背後の傍らより。何か透る声で、しかし俗物的な声が零され聞こえたのはその時。


 須導に背後周りに見え始めたのは、ちょうど追い付いて来た薩摩に加納、越生等が。

 「お守り」の立場から一応須導の身の周りを抑えつつ、しかし同時に半分物見雄山感の漂う様子を隠さない姿。


 今の声は、内の加納のもの。

 加納は王子様キャラの口調で、しかし反してその端麗な顔を、何か少し緩んだ色に作り。向こう、キャラバン隊の馬車のほうへ視線を向けている。


 その視線を追い、一台の馬車の周りを見れば。

 そこに警戒のために立つ、護衛剣士らしき狼の耳や尻尾を持つ少女――この異世界に存在する、狼の獣人の女の子や。

 キャラバンと旅を共にしていると見える、楽器のようなものを持って馬車上に身を置く。吟遊詩人の類らしき褐色の美少年。

 安定した気候環境からか、露出も多めの衣装に身を包むそんな子たちが。こちら、自衛隊の存在を話題の肴に、和やかに談笑する様子が見えていた。


「ふふ、初々しくも、艶やかじゃないか」


 そんな異世界の、少し色艶を感じさせる美少年美少女たちの姿を見つけ。

 台詞で格好をつけつつも。緩んだ顔に、「目の保養」といった色に言葉をまるで隠さない加納。

 加納は見た目、台詞回し王子様系の美人だが。その実なかなかに俗物的な所があった。


 そんな加納から聞こえ零れてくる呆れたそれを。須導は耳に留めつつも咎めず、というかいちいち反応するのも手間と言うように。

 キャラバンリーダーのヘクオンとの会話を続けていた。


〈――ヨォ、もうチョイ詳しく聞いていいかァ?〉


 しかしその所へ、須導とヘクオンの会話に割り入って来たのは薩摩だ。

 そして、その口にした異界の言語は、意外や異界の人々と遜色無い程に流暢なものだ。


 明かせば薩摩は、配布至急された異界の言語の翻訳ベースばかりに頼り切らず。自分でも資料を集め、研究し、異界の言語の解析習得を一層詰めしているらしい。


 薩摩はその実秀才肌で、しかしその上で努力家だ。そのため、異界の言語の習得も突き抜けて先を行っている。


 だがもっとも、問題児で皮肉屋で一言も二言も多い所は結局同時に事実であり。いつもの皮肉嫌味まで異界の人々に伝わって、対話が拗れては事。

 その関係で、対話や交渉の場で重宝しつつも、しかし油断もならず。「目付」が必要であり、完全にまかせっきりにもできずにいた。


〈その交易路に隣接する集落の規模、配置。最近の変化の有無も、もし知ってんなら聞きてェ――〉


 そんな評価を知ってか知らずか知らずか。

 その薩摩は須導の代理を務めるように。その目的地である要衝、集落周りに関する細かな地形、環境情報などをヘクオンに尋ね聞き出し始める。

 薩摩は口や態度こそ悪く雑であるが、その実は勤勉な上で、慎重派な所がまたあった。


「ほぅ……あちらもまた逞しくも艶やか……」


 そんな傍ら、加納は飽きずに引き続き。

 今度はキャラバンの働き手らしき、快活に動いている若い男衆を盗み見て。さらに緩み切った台無し王子様フェイスで、そんな声を漏らしている。


「あだっ!」


 だがそんな加納から悲鳴が上がる。


 欲塗れが仇となり、警戒意識が緩み始めた加納への忠告に。

 通り掛かりに越生が、軽くではあるが遠慮もない「肘」を入れてドついたのだ。


 加納は「キツいじゃないか……!」と苦い顔で、越生に抗議の視線と顔を向けるが。

 越生はまるで取り合わず、シラけた顔色のまま。警戒監視に適した位置を探し、通り過ぎて行った。


 そんな諸々伴いつつ。情報の交換から、互いの身の上を伝える他愛のない話まで

キャラバンとのやり取りは滞りなく進み。

 間もなく両者は互いの目的地を目指すために別れ。第101前進観測隊は行程を再開した。

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