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Part3:「101のアイツ等」

《――武蔵22から武蔵10》


 今に、諸々の自身の経緯境遇を想い返していた須導の耳に。身に装着する簡易無線機が鳴り、通信音声を届けたのはその時。

 聞こえた無線識別は、須導の預かる隊の本隊より先行させた偵察班が、須導へ呼びかけるものだ。


「武蔵10だ、22送レ」


 自身の境遇を遡る思考を中断し、須導はヘッドセットマイクに。呼びかけを受け取り、さらに返信を求める旨を返す。


「今程、指示の地点まで先行着。脅威は無しですが――ちょうどキャラバンと接触してます」


 求めた返信に、返り来たのはそんな内容。

 偵察班には特定の位置までの先行前進、安全確保を指示していたのだが。

 その辿り着いた先で、どうやらこの異世界の人々のキャラバンと遭遇したようだ。


「了解、今から向かえる。一応そっちに顔を出す」

「了、終ワリ――」


 それにまた端的に、自身もそちらへ向かう旨を伝える。偵察班側もそれで必要なやり取りは終わりと、無線通信を切って終えた。


 須導の預かる隊は、「接続点」を。この異世界へ最初に降り立つ事となった地点であり、現在は自衛隊の異世界における活動の拠点が置かれるそこを出発して、かれこれ数日が経過している。

 その道中での、キャラバンや旅人との遭遇もすでに何度か目。

 そろそろコンタクトを偵察班に任せ切っても良い頃合いであったが。

 今にあっては「目的地」も近く、情報収集は少ししつこいくらいでも丁度良いだろうと。顔を出して置くこととしたのだ。


「各隊各班、移動する。順次でいいが、あまり離されるな」


 もう各員各所、勝手は分かっている。須導は最低限の指示の声だけを発し飛ばし、周囲各員は移動のための行動に掛かっていく。


「俺等も行こう、よければ発進してくれ」

「了解です」


 そして須導は自身も、自分の乗るべき軽量装甲車輛のステップに足を掛け。退屈そうに待機していた操縦手にそう告げた。




 〝第101前進観測隊〟。

 それが、須導の預かる偵察部隊の正式呼称だ。


 単純な偵察・情報収集だけでなく、名称通り前進観測を――砲撃、航空支援などの間接火力の誘導任務も付随されており。

 また、ある程度までの戦闘作戦能力を有した。


 巻き起こる数々の騒動の、その元凶を辿り突き止めるため。異世界の地を探るために編成された部隊。

 その第101前進観測隊を率い。須導は未だ数々が知れぬ異世界の地を、行き進んでいる最中であった。



 轍に沿って走行する、軽量の装甲車輛――「共通軽装甲車」の。軽装甲機動車の後継として導入された、トルコのオトカ社製コブラⅡ装甲車の。

 その助手席に須導は座し、牧歌的な光景をフロントの防弾ガラスの向こうに見つつ。しかし同時に最低限の警戒意識、視線を周囲に回している。


「――ヨォ?こんな得体の知れねェ摩訶不思議ワールドくんだりまで、来る必要があったと思うのは俺だけかぁ?」


 そんな所に背後頭上より。何か皮肉の色全開の、嫌味ったらしい声で言葉が降りて来たのはその時であった。


 声の主は嫌でもすぐに分かった。

 運転席と助手席の間、背後。ターレットリングより車上天井に上がり、銃架に据える7.62mm機関銃 M240Gに着く陸士隊員がその主。


 薩摩(さつま) 一等陸士。27歳。

 一癖も二癖もありそうな、そしていささか険しい容姿風貌の男性隊員。そして見た目に違わぬ、見聞きしての通りの皮肉屋の問題児だ。

 隊においては、汎用機関銃の射手を務める。


「何を言っているんだ薩摩」


 その発言に応じたのは、先に退屈そうにしていた、今は運転席でハンドルを預かる女性隊員。

 彼女は皮肉な小笑いと併せて、すぐ背後にある薩摩の脚を小突き突っ込みを入れる。


 加納(かのう) 一等陸士。24歳。

 美麗な黒髪で、その「強い」美顔を飾る。あどけない美少女の面影を残しつつも、「王子様」のような印象を与える美女。

 しかし明かせば、それに似合わぬニヒルで軽い、悪く言えば軽薄な性格の女性隊員だ。

 隊では、IAR――軽量支援火器の扱いを担当する。


「だってよォ、摩訶不思議の突っぱね方だけにあっては目途が着いてんだぜ?単にこれ以上のとばっちり被害を受けたくねェなら、「接続」を塞ぐだけでよかったハズだ」


 そんな加納からの突っ込みを受けた薩摩は、しかしさらに捲し立てる。


 前述したように、異世界より地球に影響している『魔法』による各現象に対しては。対応策の術、糸口が掴めていた。

 ならばわざわざ異世界に赴き元凶を探るまでせずとも。

 対応策の確立を優先し、そして接続を完全に閉ざしてしまい被害を防ぐ手もあったはずだ――そう訴えているようだ。


「元凶の正体を掌握した上で、確かな無力化を図りたいのだろう?」


 それに加納もまた考えを返す。


「こっち(地球、日本)も余裕が無ェ中、そんだけを目的にワザワザ無理してこんな遥か彼方にお使い来させるかねェ?」


 しかし薩摩は、器用に警戒の視線意識こそ保ちながらも。さらにまた遠慮無く言葉を降ろして来る。


「何ぞもっと欲塗れの企みがあるぜェ、摩訶不思議世界からの収穫を狙ってる感がプンプンするッ」


 どうにも日本が、いや世界各国が。この異世界を新天地として、何らかのリターンを狙い企んでいるのではと訴えたいようだ。

 実の所確かに、巷でも少なからず囁かれている噂ではあった。


「――言ってろッ」


 そんな所へ今度は。真底ウザそうな声色に気配の台詞が、車内の後席側から声が飛んで来た。

 声の主は、後席でシートに座して。この偵察行程中も同時に行わなければならない各記録のために、ノートパソコンと睨めっこをする男性隊員。


 越生(えちうい) 二等陸士。28歳。

 その容姿風貌は尖り冷淡な印象を与え、口調雰囲気もまた同じ。しかし淡々の色のまま、物事の主張に一切遠慮はしない主義性格の隊員。

 隊では選抜射手を務める。


 併せて補足すれば。三名の陸士は各班よりピックアップされた隊長付き要員――言ってしまえば須導の「お守り」担当だ。

 また零れ話をすれば。いずれも最近自衛隊に設けられた、何らかの「資格技術・経験者」枠として入隊して来た者だ。


「はァン、越生チャンはゴキゲン斜めのご様子」


 しかし薩摩もまた、そんな越生に嫌味に揶揄う言葉を返したが。越生それ以上相手にはしなかった。


「想像逞しいのも結構だが、それに飲まれ溺れるなよ」


 そこに来て、須導は「いい加減止めるか」と。そんな一応忠告しておく言葉を、陸士等の応酬に割って入れた。


「ありがたい言葉でェ。ご安心を、マジ陰謀論に溺れねェ程には自制してますんで」

「何だい?じゃあ散々捲し立てておいて、結局は只の無駄話というオチか」


 その須導の割り入れた忠告に、しかし薩摩は幹部上官相手であっても、ブレることのないムーヴでそんな様に返してくる。

 そしてそれには、加納が呆れた様子でまたツッコミを入れた。


「道中の時間潰しにしてもナンセンスだったな――見えたぞ、あれだな」


 締めくくるように、須導は薩摩の一連の宣いをそんなように揶揄い。

 そして次には、車輛の進む先に見えた光景を、各々へ示し促した。

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