Part2:「降り立ちし彼」
主人公の紹介回。
生い茂る、明るく鮮やかな草々。そして適度に肥えた大地。
それに覆い飾られた、緩やかな丘と平原から成る開けた景色が広がっている。
瑞々しく、晴れやかな光景。
――しかし、そんな光景の最中の一点に。異質なまでに目立つ、ある「存在等」が鎮座する姿があった。
広い大地に刻まれ通り導となる、人々の往来で自然にできた轍。東西南北より集まったそれが交差して作る、小さな交差路の周りにそれ等は見える。
色調こそ、草原と同じくの緑系統としながらも。その姿形はあまりに異質で武骨、瑞々しい草原とはあまりにミスマッチ。
鋼鉄を用いてその身姿を形作るそれらは、車輛――装甲車に、自動車。
日本国の防衛組織。〝陸上自衛隊〟の車輛隊隊形だ。
それらは明かせば、地球日本より時空を越えて『こちら』を。
遠く離れた未知なる地――『異世界』を探り調べるために「降り立った」もの等だ。
「――ここまでは、一応順調だな」
轍に一応沿って、しかし雑多に停止するその車輛隊の傍に。
片手に持つタブレット端末に視線を落としながら。若干だが皮肉の色を含めて、そんな声を零す一人の者の姿がある。
身長は180cmは越えるか、その体躯はゴリゴリでは無いが好ましい程度に鍛えられている。
顔立ちは凹凸がやや顕著で尖る造形。言ってしまえば、少し陰険そう。
そんな風貌の男性。
そしてその身に纏う、陸上自衛隊の採用する迷彩服、「作業服2型」と。襟に記された三等陸佐の階級章が。
その人物が陸上自衛隊、幹部自衛官の身分であることを示していた。
――須導 征康。
陸上自衛隊 三等陸佐。歳は35歳。
陸自においては、化学科職種を指定される幹部隊員。
経歴としては元は民間の科学者であった身分から、資格技術者枠で陸上自衛隊に入隊。
自衛隊内での業務においては、自衛隊の学校や機関にての勤務業務が多い傾向にあり。矢面に立っての行動、要は荒事にはあまり縁の無い立場であった。
しかし件の。突如として日本を脅かし始めた異常事態の数々に、極めつけの『異世界』との接続が。
須導のその日々を、引っくり返す如きで変貌させた。
地球、日本周辺で巻き起こり始めた異常事態に現象の数々。
その出所が、時空世界を越えた向こうに見つかった『異世界』である事がほぼ確定となり。
さらにその根源を突き止め、対処して事態の解決図るべく。日本国は自衛隊を主として、調査部隊を向けることを決定した。
現在、地球世界の世界情勢は安定しているとは言えず。日本、自衛隊も決して余裕のある状況とは言えなかったが。
しかし異常現象の数々による被害もまた、後回しにはできない深刻なものとなっており。おまけに日本だけでなく、世界各国でも比較的数は少ないが被害事例が出始めており。
国際社会からも、事態の最も渦中にある日本に、介入調査に踏み切る支持と要請が――そういえば聞こえは良いが、要はせっつかれ。
自衛隊始め日本の各組織機関は、余裕の無い中でどうにか都合をつけ、人材に装備等をかき集めて工面。
異世界への派遣へとこじつけるに至った。
そしてその異世界派遣の面子には、須導にも白刃の矢が立った。
それにも理由があった。
初期より日本周辺で巻き起こり始めた異常気象。それが有する未知のエネルギーについて、その研究解析の協力要請が自衛隊にも舞い込んで来ていたのだが。
化学科職種の幹部であり、当時関係研究機関に出入りしていた須導も、それに早い段階で携わることとなっていた。
そして後。
異世界との「接続」から文明国家とのコンタクトの成功に伴い。
その未知のエネルギーは、異世界にはふんだんに存在するものであり。異世界の人々の営み、繁栄に密接に関わって来たものであることが判明。
それは異世界の人々に――『魔法』と。
総称して呼ばれるものであった。
その『魔法』――日本側は「特性現象」と仮称したエネルギー及び技術、文化は。
幻想的で神秘的なものであり、その存在の発覚は地球の人々の好奇心を擽ったが。
しかし場合、形態によっては地球日本に、特に自衛隊など矢面に立つ者にとって、脅威ともなり得るものであった。
不幸中の幸いか、異常気象の調査段階で得られたその『魔法』エネルギーのサンプルを。リソースを惜しみなく投入しての解析研究した甲斐あり。
突貫のものではあるが、『魔法』に抗いうる「術」の確立、実用化には目途が立っていた。
須導は偶然か何かの因果か、その一連に携わり。その関係から一早く「特性現象」、『魔法』への対策知識を及び有する人物となっていたのだ。
その経緯結果から、須導はまず第一義には技術者として。
そしてしかし。人員的余裕が無い事から、一部隊の長を兼任という形で押し付けられ。
異世界の地へと繰り出すことになったのであった――
「――やぁれやれ。厄介な事になったモンだ」
そんな、自身のここまでの経緯に境遇を思い返した須導は。そのやや陰険な造りの顔に、隠さぬ渋い色を浮かべ。
そんなボヤきを零した。




