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笑う影

作者: 通りすがり
掲載日:2025/06/19

篤が大学を卒業して勤め始めた会社は実家からでも通える場所にあったが、昔から一人暮らしに強い憧れがあった篤は、社会人になったのを期に念願の一人暮らしをすることにした。

まだ新卒で給料は少ないため、選んだマンションは1DKで、築45年とかなりの古びたものだった。

また貯金もそれほどあるわけではなかったので、中古ショップをあちらこちらと回っては、理想に近い家具なども集めた。初めて持った自分の城に篤はとても満足していた。


ただ、そんな揚々とした気分は長続きしなかった。

部屋の中で徐々に異変を感じるようになっていた。

篤が部屋にいるときに、部屋の中で自分以外の何かの気配を感じることがあった。

また、部屋の中で何気なく振り向いたときなどに、視界の端に何かの影を見ることもあった。

不安を覚えないわけではなかったが、それでもはっきりと何か見たわけではないので気のせいだと思うようにしていた。


しかしそれから数日がたったある夜、ベッドの横に置かれたテレビを見ながら寝落ちをしてしまった篤は真夜中に目が覚めた。

テレビをつけたままだったことに気がついてテレビを消す。

消えて画面が黒くなったテレビには、部屋の中が反射して映っている。

何か違和感を感じた篤はテレビの画面をよく見てみる。するとそこには、キッチンのほうに立っている人影がはっきりと映っていた。

篤は心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。部屋の中に誰かがいる。

篤は慌ててキッチンの方を振り返り見るが、そこには誰もいなかった。

少しホッとしつつも、何かの見間違えだったのかともう一度消えたテレビ画面を見ると、やはり人影が映って見える。

どういうことか理解できずに、そのテレビ画面の反射に映る人影をさらによく見てみると、人影の頭の部分に顔が見えた。

どうやらその顔は、こちらを向いて笑っているように見えた。


恐怖のあまり頭から布団を被った篤は、一晩まんじりともしない夜を過ごした。

そして篤は朝になって外が明るくなってくると、テレビの画面を見ないようにして、財布とスマホだけ持って部屋を飛び出していた。

その日は休日で仕事は休みだっため、漫喫などに行って日中は時間をつぶした。

たが、いつまでもそうしている訳にはいかないことは篤もわかっていた。

篤は、何かの見間違えだったんだと強く自分に言い聞かせて自宅に戻ることにした。

夜遅くに自宅に戻った篤は玄関のドアを開けて真っ暗の自宅の中に入り、そして電気を点けた。

昨日、あんなことがあっただけに、家の中にはただならぬ気配が漂っているように感じてしまう。

玄関を入って正面に寝室にあるテレビが見える。

テレビは電源が入ってないため、真っ黒の画面に部屋の中を反射している。

そこに人影が見えたときには一瞬ドキリとしたが、よく見たらどうやら自分が映っているだけだった。

ホッと安堵のため息を漏らした瞬間、そのテレビに映る人影が左右にユラユラと動き始めた。

篤は自分は動いていないのに人影が動くことに驚いて、身体が硬直したように身動きが取れなくなっていた。

そして、しばらくするとその影はやがて二つに分離した。

一つは動かない自分の影、そしてもう一つは......。

分離した方の影は、最初はぼんやりとしていたが、やがてハッキリと姿が見えるようになってきた。そして頭と思われるところにある顔が白い歯を見せてニヤリと笑ったのがはっきりと見えた。

その顔は昨晩に見た顔と同じものだった。

それを見た篤は、その瞬間に自宅から飛び出していた。


翌日、そのマンションの管理会社である不動産屋に相談したが、今までのその部屋の住人からはそんな話は聞いたことがない、何かの見間違いだろうの一点張りでまったく取り合ってもらえなかった。

篤はその部屋にはもう住めないと諦めて実家に戻ることにした。

その後、実家に戻った篤はあの影を見ることはなくなった。

だが、話はそれで終わらなかった。

それからしばらくしたある日、大学時代から友人の貴史から相談があると篤は電話を受けた。

深刻な様子で貴史は篤に語り始めた。

「最近部屋が変なんだよ」

貴史はアパートで一人暮らしをしている。

「変ってどう変なんだよ」

「一人で部屋に居るはずなのに、誰かがいる気配を感じることがあるんだ」

篤はその話を聞いて少し心がざわつき始めた。

「視界の端に影のようなものが見えることもあった」

「そして昨日、見ちゃったんだよ」

そこで貴史は電話越しでもハッキリと聞こえるほどの深いため息をついた。

「見たって何を......」

篤は恐る恐る訊いた。

「夜中に目が覚めて水を飲みにキッチンに行ったんだよ。ベッドに戻った時にテレビの画面に何か動くものが見えたんだ。もちろんテレビは電源は入っていない。よく見てみるとテレビに人影らしきものが映っている。画面に反射しているのかとテレビの反対側を見てみても誰もいない。やがてその影の顔が見えてきた。その顔は満面の笑みでこちらを見ているようだった」

篤はそのとき思い出していた。

一人暮らしを始めるときに、中古ショップでかなりの格安でテレビを買ったことを。

実家に戻るときに持っていけない家具や家電を友人たちにあげたことを。

そして貴史にはそのテレビをあげたことを。

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― 新着の感想 ―
テレビそのものが心霊アイテムだったんですね。 実家に戻って一件落着と思っていたら、友人からの電話で背筋が凍りました。
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