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魔法使いの君と僕

作者: たをやめ

30歳まで童貞だと魔法使いになれるという都市伝説は知っているだろうか?



僕は今24歳。


大学を東京の大学を卒業して地元に帰ってきて、地元の企業に就職した。


僕の勤めている会社では女性が少なく、女性との出会いはほぼないと言っていい。


高校生で彼女はできたものの何回かデートをしただけでそれ以上の関係にはならずに結局別れた。


あと6年童貞なら魔法を使えるようになるだろうか?


そんな馬鹿げたことを考えるようになってしまった。


彼女がいらないと達観しているわけじゃない。


出会いがないと言い訳してるだけだ。


同じ業務を繰り返すだけの日々。


休日も疲れを取るためにほとんど家から出ることはない。


そんな僕だが最近は休日に読書カフェに行っている。


元々読書が好きだった。 


わけではない。


むしろ馴染みがなかったと言っていい。


僕は漫画を読むことを読書と言い切る人間だ。


純文学を嗜むことなんて今までになかった。


読書カフェの前を通った時にガラス越し見た彼女に惹かれてそのまま店に入ってしまった。


長く美しい黒髪に、日焼けを知らない白い肌、りんごのように赤い唇に、吸い込まれそうな黒い瞳。そして何より浮世離れしている雰囲気。


美人ではあるだろう。


だが芸能人のような美貌とまでは言えないだろう。


しかし僕は彼女に異様に惹かれてしまった。


片手でコーヒーカップを持ちながら、本を読む彼女に惹かれ、誘蛾灯に誘われる虫のようにそのまま店に入ってしまったのだ。


そのときから一ヶ月が過ぎた。


そして今日彼女と話をした。


最近日曜日はいつもいますねと彼女から話しかけてくれた。


あなたもいつもいますねと僕は返した。


彼女は笑って言った。


私は人の書いた本が好きですからと。


あなたはなんでここにいるんですか?


と彼女に聞かれた。


あなたに会うためですとは言えない。


僕も本が好きなんです。


僕は答えた。



彼女は笑っていた。



あの、連絡先交換しませんか?


と彼女に尋ねた。


彼女は困ったように笑って言った。



携帯持ってないんです。



これは典型的な断りのフレーズだろう。


Noということだ。


だって今の世の中、携帯を持っていない人なんてありえないだろう?


しかし彼女は続けて言った。


毎週ここで会えませんか?


よくわからなくなった。


それでも彼女に会えるのは嬉しかった。


それからも毎週日曜日にカフェで会った。


そんなことを何週も続けたある日。


夜景を見に行きませんか?


と彼女から誘われた。


正直舞い上がった。


はい、とすぐに返事をした。



彼女と夜に山にある展望台に登った。



少し齧った漱石の知識。


月が綺麗ですねと彼女に言った。



彼女はいつもと同じく微笑んでいた。



次の週の日曜日、彼女は読書カフェに来なかった。



コンコン


深夜に窓がノックされる音で目が覚めた。


誰だろう?


と少し考えて固まる。


ここはアパートの3階なのだ。


ドアがノックされるならまだしも窓がノックされるなんておかしい。


恐る恐る窓に近づく。


カーテンをゆっくり開いた。



そこには彼女がいた。


彼女は箒に乗って浮いていた。


彼女は少し悲しげだった。


私は魔女だと彼女は言う。


魔女は人とは結ばれないのだと。


そして僕にキスをした。


彼女の息遣いが聞こえる。


キスはこんな味なんだ。


長いようで短かった時間が終わる。



そのままどこかに飛び去っていく彼女。


その日から読書カフェに行っても彼女に会うことはなかった。



30歳童貞の魔法使いになれば、また彼女に会えるだろうか?



そのうち加筆します

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