第10話(2)
綾史の異動先は総務部で、女性社員が多い部署だった。
そして彼が何故異動になったのか、その理由も知れ渡っていた。
つまり今まで積み上げてきた好青年なイメージは見る影もなく崩れ去っており、社員のほとんどから白い目で見られた。
大層居心地の悪い思いをした綾史は、こうなってようやく意地を張るのを止めた。
この状況を打開するため、気は進まなかったが持木弁護士に相談し、慰謝料をローンで支払うことに決めた。
コソコソと陰口を交わす女性社員にも普段通りに接し、いい人を演じて愛想を振りまいた。
(くそ……なんで俺がこんな目に……!でもまずは金だ。とにかくイメージ回復して、点数稼いで、また営業部に戻るかここで昇進するかして給料を上げる。余計なことは考えるな。とにかく稼げ。じゃないと引っ越し先も決まらない…。
あれだけ稼げてた俺が家無しなんて…くそ、くそ、くそ―――っ!!!)
「…下司さん、これお願いします」
「あっ!うん、了解。ありがとう」
腹の中では恨みつらみを抱えながらも、綾史は持ち前の営業力で爽やかに笑った。
一方、美舞も当然慰謝料を請求されていた。
彼女も綾史と同じく請求を無視し、給与を差し押さえられた。
彼女の仕事はカスタマーセンターのオペレーターで、SV昇進の話が頓挫したものの、特段処分はなかった。
噂が流れ、後ろ指を差されても、綾史とは違って生活に支障のない彼女は太々しく働いていた。
そんなことよりも気になることがあった。
(あいつだって困てるはず…なんで連絡して来ないの?)
綾史には「十和子に情報提供して慰謝料を減額してもらう」と言ったが、実際にはそうしなかった。
いずれ彼が戻ってきた時、「あなたのためにしなかった」と言えば信頼を取り戻せるし、そもそも十和子に協力するのは死んでも御免だった。
だが美舞の予想に反して、綾史からの連絡はなかった。
敗訴した時点で美舞にも慰謝料請求されたであろうことはわかっているはずなのに、「大丈夫か」の一言もなかった。
まさかあのやり取りで綾史が本当に自分と縁を切ってしまったとは思えず、彼からの通知がないスマホ画面を見てはため息を落とした。
そんな中、彼女にもう一通の訴状が届いた。
綾史と十和子の離婚裁判が終わってから、半年後のことだった。




