第10話(1)
その後、敗訴した綾史に請求書が届いた。
怒りや焦りから手が震え、持っていた書類がくしゃりと音を立てる。
(ふざけんな……こんな金額、払えるわけないだろ?!)
敗訴した彼は、不倫の慰謝料だけではなく、十和子が支払う裁判費用や弁護士費用の一部、財産分与、寿真の養育費なども支払わなければならなかった。
その上、自分が依頼した持木への弁護士費用もあり、彼はたちまち金に困った。
請求された金額を支払えない状況に立たされ、彼が選択したのは、無視を決め込むことだった。
十分な証拠があったとはいえ、プライドの高い綾史は自分が負けたという事実を受け入れたくなかった。
(支払う側の俺が納得してないんだから、無視だ無視!俺だって自分の生活があるんだ、こんなの素直に支払ってたら生きていけないだろ。不可抗力だ!どうせ踏み倒す奴だっているんだから、俺がそうなったって別に構わないだろ。あいつには他に将臣もいるしな)
だが、彼は"法で裁かれた"というのがどういうことなのか、その重みを理解していなかった。
そうして請求を無視していることを忘れかけた頃、彼は人事部長から呼び出しを受ける。
「下司くん。裁判所から債権差押通知が届いているんだが、身に覚えはあるだろうか」
「……!」
裁判所からの強制執行により、綾史は給与を差し押さえられた。
差し押さえといっても金額は給与の5%程度だが、不倫が原因で離婚したという事実が職場に知られてしまった。
それによって営業職から異動・主任から降格。
基本給に営業手当と職務手当を上乗せで支給されていたため、手取りも少なくなった。
差し押さえの有無に限らずマンションの賃貸料を払えなくなり、引っ越しも余儀なくされた。
しばらく実家に住もうと考えたが、嫁の十和子を気に入っていた綾史の母親は息子を許さなかった。
「あんないい子を裏切って、あんな女と不倫するなんて。それに何ですって?降格?給料差し押さえ?私の息子ながらああ情けない!こうなったのは全部あなたの責任よ!自分がしたことは自分で責任を取りなさい!」
「だけど、俺いま住むところもなくて困ってるんだよ…しばらく泊まらせてくれないかな?」
「住むところに困ってるんなら、あの女のところに行けばいいじゃないの。お母さんはこれまであなたを充分、育てたと思っているわ。もういい大人なんだから、住む家もお金も、自分でなんとかなさい!」
母親に叱責され、予想に反して実家を追い出された綾史はその日、仕方なく安価なカプセルホテルに泊まった。
(母さんが十和を気に入ってるってわかってたけど…息子の俺より十和の味方をするなんて…)
ショックを受けた彼は、ほとんど眠れずに出社した。
だが彼の受難はそれだけで終わらなかった。




