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第9話(1)

綾史達との話し合いが終わると、十和子はすぐに訴訟手続きに取り掛かった。

数日後に必要な書類を揃えて有岡弁護士に手渡すと、彼はその場で目を通して頷いた。



「準備していただきありがとうございます。それでは私の方で訴状を作成して、こちらの書類と一緒に裁判所に提出しますね」

「…あの、一つ気になることがあって」

「何でしょうか?」

「やっぱり、私が話し合いの時に見せた写真では不倫の証拠にはならないのでしょうか…」



綾史にはああ言ったが、『不倫の証拠としては弱い』と言われたことが心の中でずっと引っかかっていた。

もし証拠不十分で敗訴になる可能性が少しでもあるならば、もっと確実な証拠を押さえておきたい。

十和子が彼と美舞との不倫を疑っていること、離婚の意思があることを綾史に伝えてしまった今、そう簡単に尻尾を掴めるとは思えなかったが、だからといってこの不安を不安のまま残しておくつもりはなかった。

そうしたところで決して良い結果にはならないことを、十和子は身をもって痛感していた。



(不安の芽はできるだけ早いうちに摘み取らないと。心配しているだけじゃ何も変わらないもの。

離婚訴訟(こんなこと)になってしまったのだって、あの2人の関係が普通じゃないって気になっていたのに見て見ぬふりをしてきたせいだし…)



綾史の言葉を鵜呑みにせず、もっと早くに行動を起こしていれば、寿真を身籠る前に別れていたかも知れない。

もちろん寿真を産んだことは後悔していない。

寿真のいない生活なんて想像もしたくないほど、今の十和子にとって何よりも大切で、かけがえのない存在だ。

けれどふと、愛情のない父親の元に生まれてきた寿真の気持ちを想像すると、申し訳ない気持ちになってしまう。

だからといって綾史の裏切りを許し、やり直すつもりは毛頭ない。

両親と共に暮らしていても、愛情のない夫婦の元では子どもの成長に悪影響だと思うからだ。



「有岡さん。教えてください。裁判に勝つ為に私にできることがあるのなら、なんでもしたいんです」



切実に訴える十和子に、有岡は自信ありげに微笑んだ。



「大丈夫ですよ。安心してください。この裁判、必ず勝てます」



根拠もなく勝てると言い切った彼の様子に、十和子はほっとする反面、戸惑いも生まれた。

その言葉を信じて良いのかわからず隣に座る将臣を見やると、十和子の視線に気がついた彼は「大丈夫だ」といったふうに微かに微笑んだ。

どうやら将臣は有岡をとても信頼しているようだ。

友人関係とはいえ、十和子に彼を紹介したのは弁護士としての実力を認めているからだろう。

将臣にも背中を押されてようやく安心できた十和子は、「よろしくお願いします」と頭を下げた。

将臣と有岡は彼女に気付かれないようにアイコンタクトを交わし、意味深に頷き合った。




一方、十和子が自分の足で家を出て行くのを見送ることしかできなかった綾史は、心中穏やかではなかった。



「美舞…おまえ、どういうつもりだよ!」



彼女達が去った後、綾史は苛立ちを露わに美舞を責め立てた。



「お前が余計なことをしたせいで、十和子を説得できなかったじゃねえか!なんで俺に嘘ついた?俺達のこと、何も言ってないって言ってたよな?」

「…それって、本当に私のせい?」

「なに?」

「あれは私はやっかみで言っただけ。言った本人がそう言っているんだから、実際には本当のことだったとしても証明できないでしょ。彼女を説得できなかったのは私のせいじゃない。あなたがた夫婦の信頼関係の問題だと思うけど?」



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