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第8話(3)

綾史は十和子とこれまで喧嘩らしい喧嘩をしたことがなかった。

彼女は自己主張することがほとんどなく、たいてい綾史に合わせていた。

自分の好きなようにさせてくれるのだから、彼にとってはかなり居心地のよい関係だった。

彼は十和子がそうする理由を、愛しているが故の行動だと思っていた。

つまり自分に愛されなくなる、捨てられるのが怖くて、言いたいことも言えない女なのだと思い込んでいた。

これほどまでに自分に惚れ込んでいる彼女だから、会って話せばいくらでも言いくるめられると考えていた。

しかし実際に対面してみると、一筋縄ではいかない状況に焦りを感じていた。

今の十和子には全く付け入る隙がない。



「ではさっそく、離婚する上での私の意志をお伝えします。寿真の親権は私がもらいます。財産分与については、特に希望はありません。ですが寿真の養育費と、お二方からの慰謝料はしっかりいただきます」

「い、慰謝料?」

「離婚の原因があなたがたの不倫なので、当然請求させてもらいます」

「な、なに言ってんだ…不倫?!ありえない!」



動揺を隠すためか、綾史がテーブルを叩いて立ち上がった。

美舞は先日十和子と対峙した時とは打って変わって大人しくしていたが、表情に滲み出る焦燥感を隠しきれていなかった。

絶対に不倫を認めないだろうと予想していた十和子は、録音していた美舞との会話を再生して聞かせた。



「これがお二人が長年不倫関係にあった証拠です」



録音されていたと思ってもいなかった美舞は顔を青くし、綾史は怒りで顔を赤くした。



「こいつが話したことは全部嘘だ!俺はそんなことを言った覚えもないし、こいつとそういう関係になったこともない!そうだろ?」

「…ええ。私が言ったことはすべて真っ赤な嘘です。十和子さんが羨ましくて、腹いせに作り話をしました」



美舞は落ち込んだ様子で将臣と有岡に説明した。

彼らの横で十和子がじっと見つめていると、彼女は伏し目がちにしていた瞼をしっかり開き、十和子に顔を向けて淡々と話した。



「ほら、私はシングルマザーでしょ。夫とうまくいっているあなたが羨ましかったの。本当よ」

「こんなもの、不倫の証拠にはならない。まさか証拠がこれだけって言わないよな?」



納得いかない顔をする妻を目にした綾史は、彼女を嘲ることで虚勢を張った。

どんな証拠を出してきたとしても、否定すればいい。

否定し続ければ、十和子が自分達の関係を誤解していたと誤解してくれるかも知れないと、彼は本気で考えていた。



「じゃあこれはどう説明するの?」



彼らが容易には認めないことも予想していた十和子は、次に将臣からもらった証拠写真の一部をテーブルの上に広げた。

それは友達というには距離の近すぎる写真ばかりだった。

十和子には残業で遅くなると言っていた日に、繁華街で食事をしたり、手をつなぎながら歩いている写真。

出張へ行っていたであろう日に、同じく手をつないで観光地巡りをしている写真。

美舞の自宅前で抱き合っている写真。

親密に腕を絡ませてファッションホテルへ入っていく写真。



「こちらも安曇さんからお預かりしています」



有岡弁護士も十和子を援護した。

彼が出してきたのは十和子が失踪中に撮られたものだった。

深夜に美舞をこの家に招き入れている写真と、その後も彼女が合鍵で自由に出入りしている写真だった。



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