第7話(2)
十和子が綾史からのメッセージを読んだのは、朝陽が昇ってからだった。
奈津子さんの美味しい朝ご飯を食べ終えてソファーに座った十和子は、スマホを手にして驚いた顔をした。
それに気が付いた将臣が、ご機嫌な寿真を抱っこしたまま様子を伺いに来る。
「何かあったのか?」
「夫から連絡が来たの。離婚したいなら直接頼みに来い、って…」
十和子は将臣に開いていたメッセージの画面を見せた。
「家に帰ったら美舞さんがいたから、むこうも離婚したいんだとばかり思っていたんだけど…」
昨日自宅に居座っていた美舞に離婚届を預けた後、十和子は眉を顰める彼女にお構いなしに荷物をまとめ、その場で宅配業者を呼んで集荷を依頼した。
その荷物は今日の午後届く手はずになっている。
帰り際には、彼女の前でわざと結婚指輪を外し、リビングのごみ箱に捨てた。
『これで私の気持ちが本心だと伝わったと思います。綾史にもそう伝えてください』
『夫はあなたに差し上げます。どうぞお幸せに』
美舞は驚いたような顔をしていたが、結局十和子が出て行くまで何も言うことはなかった。
彼女の言い分では、綾史と十和子が離婚することは当人も望んでいるかのようだった。
しかし綾史は、愛しの美舞と復縁(?)できる絶好のチャンスを自ら棒に振るような行いをしてきた。
しかも彼は十和子が一方的に離婚の意思を示したことに大層ご立腹の様子で、不倫がバレていることを知ってか知らずか、字面からも高飛車な印象がひしひしと感じられた。
「…不倫している奴の考えることはよくわからないな」
将臣の感想はその一言だけだった。
十和子は口には出さなかったが、彼と意見が一致したことに嬉しくなった。
そして、すんなり離婚が成立するだろうという考えが甘かったことを痛感した。
離婚に同意してくれないのなら、十和子が取れる次の手段は、家庭裁判所に調停を申し立てることだ。
(こうなったら仕方がないわ。よくよく考えたら寿真の親権や養育費のこともあるし、話し合いの場を設けた方がいいわよね。ふたりきりだと好き勝手なことを言いたい放題言われそうだし、建設的な話し合いもできなさそうだから、第三者に間に入ってもらいましょう。その方が私も安心できる)
善は急げで、十和子は早速その日のうちに家庭裁判所に出向いた。
必要な書類を提出し、綾史に調停期日の通知が届いたのはそれからおよそ1ヶ月後のことだった。




