やっと追放してくれた。ありがとう!
「ライア、お前を勇者パーティーから追放する」
「えっ!?」
首都アインヘルムから魔王城へと旅をする途中、立ち寄った街で勇者アーサーがそう告げた。
街頭の真ん中ということもあり、周囲の人々の視線が突き刺さる。
「な、なんでだ! 俺は盗人のスキルで援護してきただろ!? 魔物の武器を盗んだり、壊したり……」
必至に釈明する俺に、アーサーは溜息を吐く。
「ジョブが盗人のクズがそんな面倒なことしないでも、俺たちなら正面から戦えるんだよ! なぁ? お前たちもそう思うだろ?」
話を振られた剣士のレオンと魔術師のエレナは、うんうんと頷いていた。
「俺も前から思ってたけどよぉ、確かに一々お前の援護いらねぇよな。正面からぶった斬れば同じだしよぉ」
「アタシも同感ー。ていうか、魔術師的には別に居ても居なくても変わらないっていうか―。それよりアンタがいるせいで旅のお金を節約しないといけないのがムカつく。お洒落できないし」
そんな中、ヒーラーのシエルだけが、どもりながら「でも!」と口にした。
「ゴ、ゴブリンとかの武器盗んでくれたり、毒を仕込んでくれたり、役に立ってると、思う……」
そんな意見も、勇者含む三人に睨みつけられて小さくなっていく。
なんとか弁明しようとあたふたしているが、結局黙ってしまった。
更にアーサーから「こんな奴必要なのか? どうなんだ!?」と追い詰められて、泣きそうになっていた。
「なんならヒーラーも魔術師のエレナが回復魔法を覚えてくれたらお役御免なんだがなぁ?」
「そ、それは! それだけは……」
「だったら言えよ? な? みんなが思ってる本音をよぉ!」
勇者とは思えないチンピラのような脅しに、シエルは俺を見て口を開こうとする。
「わ、私も、その……」
「……もういい。それ以上は言わなくていい」
脅されたシエルへ、俺は諦めたように呟いた。
俺とシエルは同じ孤児院出身の仲だ。物心ついた時から一緒にいる。
例え嘘でも、今まで信じてきたシエルに裏切られるようなことは嫌だった。
見つめ合う俺とシエルの間に、アーサーが割って入った。
「そういうことで、追放決定だ」
アーサーは嬉々とした顔で俺を突き飛ばすと、レオンとエレナに向き直る。
「よかったなお前ら! これで旅費が一人分浮いたぞ! 今夜は酒場で飲んで騒ごう!」
そう言って、アーサー達はこの場から去っていく。
一度振り返ったレオンとエレナが下卑た笑みを浮かべていたあたり、口裏を合わせていたのだろう。
「クッ……!」
膝をつき、石畳に拳を振り下ろす。
今の会話を聞いていた街の住民からすれば、悔しさのあまり涙でも流しているように見えるのだろうか。
「ク……カカカ……ヒィヒヒヒ……」
嗚咽でも漏らしているように聞こえるのだろうか。
だが違う。
大いに違う! 違うのだ! 俺はこの日を待っていた!
「ハハハ! ハァッーハッハッハッハッハ!! やっと追い出してくれたな勇者様よぉ? えぇ? 役立たずを追放できて満足か? 少なくとも俺は満足だ!」
もはや視界の遥か先にいるアーサー達へ歪んだ笑みを向けてやる。
今までの『勇者パーティーの一人ライア』はもういない。
「なんでまた、天から選ばれたとかの『運』で勇者に祭り上げられた奴についてかなきゃならねぇんだって常々思ってたぜ? レオンもエレナもそりゃ強いが、戦い以外に能のない奴らに下に見られるのは屈辱の極みだったぜ?」
いつも縮こまって、意見求められたら肯定して、アイツらのために尽くしてきてやった。
それも終わった! 俺の『嘘』にまんまと嵌まってくれた!
そう、俺はずっと嘘をついていた。
『ただの盗人』という嘘を。『仲間を慕う』という嘘を。
『魔王を倒す』ということさえ、嘘だった。
「結局なんにも気づかなかったなぁ……それに盗ませてもらったぜ? 元勇者パーティーメンバーっていう箔をよぉ!」
と、喜ぶのもそこそこに、俺の計画を始めなくてはならない。
天から与えられた盗人なんてジョブと生まれのせいで虐げられてきた、俺のとっておきの計画を。
さて、この日のために色々と用意してきたわけだが……。
「アイツは盗めなかったか」
シエルだ。天から回復魔法専門のヒーラーのジョブを与えられた、たぶん唯一の友達。
どうにかついてこさせたいが……まず先にやることがある。
「行くか――魔王城へ」
俺は自分の目論見が成功した喜びを胸に、一足先に魔王へ会うための準備に取り掛かることにした。
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