使えない力①
~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨウトウ~
~南の樹海~
「・・・この“瞬間移動”って技能、便利過ぎない?しかも制限ないんでしょ・・・」
樹海に飛んできたロレーヌが、
あきれ顔で言うと、ナトスは言う。
「ここはソロちゃんが俺達を召喚した場所だ、ここを起点に周囲を探ってみる」
「探るって言っても、そう言う技能も持ったりするの?」
「まぁそうだな、この世界で覚えた技能を使うが・・・少し先の状況を確認してくる、ここで待ってろ」
「え?」
ナトスは上に視線を向けると、
地面を蹴り飛び上がった。
「ちょ、ちょっと・・・」
樹下にポツンと一人にされたロレーヌは
心なしか不安な表情を浮かべ呟く。
「・・・樹海って確か・・・」
ナトスは周囲の木々を優に超える高度に達していた。
ナトスはその高度を維持したまま空中に停滞すると、
周囲を見渡し思う。
「(・・・“音切り”で飛来した魔獣が来た方角・・・先は見渡す限り樹海だな、視界が悪すぎる・・・俺の能力の方が役に立ちそうだ・・・)」
「ナ、ナトス!?」
ロレーヌが下の方からナトスの名を呼んだ。
木の上の方まで登って来たであろうロレーヌを見て
ナトスは言う。
「フ・・木登りは得意なのか?」
ロレーヌは驚いた顔のまま言う。
「そ、そんな事より・・・それ・・浮いてない?」
ロレーヌが空中に浮遊するナトスに言うと、
スーッとロレーヌの居る高度まで、
ナトスは下がってきて言う。
「あぁそうだ、使い方によってはこういう事も出来る能力を持っている、それより下で待ってろと言っただろ」
「何言ってんのよ、私が所長で上司、指揮命令は私が上位よ、あなたのお手並み拝見してるんだから、ちゃんと連れて行きなさいよ・・・あんなところに一人じゃ怖いでしょ・・」
「怖い?・・・魔獣の気配も無く安全だと判断したのだが・・・」
「魔獣じゃないわよ・・・」
ロレーヌはなぜか小声でそう言うと、
まじめ顔でヒソヒソと続ける。
「し、知らないかもしれないけど、街道から外れた樹海の中には、出るって有名なのよ・・・昼間でも関係なく・・・」
ロレーヌの良い方からピンと来たナトスは、
呆れた顔で言う。
「・・・出るって、幽れ・・」
「シー!駄目よ声に出しちゃ!寄ってくるって言うじゃない・・・」
本気で怯えているように見えるロレーヌに、
何を言っても時間な無駄だと悟ったナトスは、
諦めた様に言い放つ。
「・・じゃぁ一緒に上にこい・・・」
するとロレーヌの身体も空中に浮かんだ。
「え!?な?え!」
「安心しろ、俺の能力で持ち上げているだけだ、自分の意思では移動も出来ない」
「・・・」
絶句しているロレーヌに背を向ける様に
ナトスは振り返り上昇しながら言う。
「・・俺が連れて行く、ちょうど聞きたい事もあったしな」
先ほどまでいた高度にまで移動したナトスは
ロレーヌに質問を投げかける。
「ギルドで話した“音切り”を使用してきた魔獣は、向こうの方角から来たのは間違いない、見る限り樹海しか広がっていないが、この先に何がある」
未だ恐怖に顔をひきつらせたロレーヌが答える。
「・・え?・・あぁ、あっちは、リデニア国の都市“オファクク”があるわ・・1200kmは先になるけど」
ナトスは視線を少し左にずらし言う。
「さっきの言葉にあった“街道”とは、あの木々の切れ目の部分だな?あの道が“オファクク”までつながっているのか?」
「えぇそうよ、正確には途中にあるコロニー跡遺跡までよ、昔“オファクク”側の樹海の切れ目に小規模の町があったの、丁度“クヨトウ”と“オファクク”の中間地点よ」
「・・跡?昔と言う表現からも今は無いという事か?」
ナトスのその質問にロレーヌは言いにくそうに答える。
「・・・20年前に放棄されたの・・」
ナトスは、“遺跡”“20年前”と言う情報から、
ベネーの話を思い出したが、
ロレーヌの雰囲気を悟り話を変える。
「(中間・・約600km付近か・・・)取りあえず地上に降りよう、ある技能で調査・捜索を始める」
そう言うと二人とも下降していく。
そのさなかロレーヌが質問する。
「ある技能?」
「そうだ」
地上に降り立つと
ナトスは続ける。
「ロレーヌも持っている技能に“反響索敵”というものがあるだろ?ユナも使える技能だが、遺跡でユナが使用した際、その範囲に俺が居た為、俺自身も使えるようになっている」
「・・は?ちょっと意味が解らないわ、“反響索敵”は“斥候”職なら基本で身に付ける技能、そんなに難しい技能ではないけど、“その範囲に居て”使えるようになるものじゃないわよ」
ロレーヌの疑問にナトスは答える。
「・・俺とミノアはこの世界の人間ではない、ソロちゃんに召喚された際この世界で“技能”と呼ばれるものは一切使えなかった・・が、ロレーヌも知る通り俺は“鑑定”が使える」
ロレーヌはナトスと初めてあった時のやり取りから、
自分の名前を言い当てたナトスに鑑定を使用された事を
悟ったのを思い出し言う。
「・・確かにそうだけど・・・」
ナトスは続ける。
「ミノアも使える様になっているが、これはソロちゃんに“鑑定”された事で身に付けたものだ」
「え?じゃぁ“反響索敵”の話を総合すると、技能を受けるとその技能を習得してしまうって事?」
「察しが良いな、そういう事だ、俺の使える“火属性魔法”も同じだ・・・ただ例外は存在している、過去“転移”と“治癒”をこの身で体感しているが、それを習得できては居ない」
ロレーヌはナトスの言葉を聞き言う。
「・・もう一つあるわ・・ソロルの“召喚魔法”もよ」
ナトスは驚いたように言う。
「確かに・・言われてみればそうだな、あまりにも召喚なれしすぎて盲点だった」
「あら、あなたから一本取れた感じね、気を悪くさせたかしら」
ロレーヌが嬉しそうに言うと、
ナトスは少し笑みを浮かべ言う。
「・・そうでもないさ」
ナトスは直ぐに真面目な顔で“オファクク”の方へ
振り返り続ける。
「話を戻すが、お前やユナの使う“反響索敵”と言う技能を俺も使える、四方八方周囲へ広げる場合約10kmの範囲を感知できることは分かっているが・・」
「じゅ、10km!?普通は100m前後よ!200mも感知できればかなりの使い手・・・その50倍!?」
驚いたロレーヌがかぶせ気味に言葉を発し、
ナトスは答える。
「・・ん?そうなのか、ユナは遺跡での訓練もあり、200m前後の範囲を感知していたように感じたが・・・」
「そ、それはそれで凄いと思うけど、それ以上にあなたの10kmが凄すぎてユナが霞むわね・・・」
「そうか・・実は、それだけではないんだ・・」
「?」
ロレーヌが頭に?を浮かべていると
ナトスは質問を投げかける。
「ロレーヌは“反響索敵”を使用した際、その範囲に居る人間が発している“言葉”を認識できるか?」
「え?どういう意味?これでも私は120mの範囲を感知できるのよ、そんな遠くの人間なら大声で叫んでくれたら聞こえると思うけど・・・」
「それは実際耳で聞いていると言う事だろ?俺が言っているのはそうじゃない・・・因みにユナもロレーヌ同様、“反響索敵”でそんな現象は起きていないだろう、じゃないとおいそれと使える技能ではなくなるからな・・」
「どういう事なの?あなたの技能は変な現象が起こるの?」
ナトスはロレーヌの問いに答える様に言う。
「想像してみてくれ、S&S社屋の屋上で半径10kmの範囲に“反響索敵”を発動できたとしよう・・・そして、その範囲の人間の“言葉”が聞こえる様に認識出来るとしたら?」
ロレーヌはナトスの口ぶりから、
ナトスの“反響索敵”にはそう言う付加効果が存在するのだと
理解し、素直な感想を口にする。
「う、嘘・・それって凄い事なんじゃ・・・」
しかしナトスはそれを否定するように続ける。
「・・実は、そんなに良いものではない、昨夜試しに発動させたとき俺は激しく後悔したよ・・・考えても見てくれ、その範囲に一体何人の人間が居ると思う?その不特定多数の人物の“言葉”が、一斉に飛び込んでくるんだぞ・・・俺の脳がその言葉一つ一つを理解しようとフル回転しだし、危険だと判断した俺は直ぐに技能を解除した・・・時間にして3秒も満たない間だったが、俺の疲労感はかなりのものだったよ・・・」
ナトスの言いたい事が理解できたロレーヌが
ナトスに理解を示すように言う。
「・・そ、想像を絶するわね・・・」
しかしその直後何か思いついたように
興味津々でナトスに質問する。
「あっ!・・ねぇナトス、それだけ広い範囲なら・・その・・一組や二組居たんじゃない?」
ナトスはロレーヌの質問の意味にピンと来たが、
はぐらかすように言う。
「・・フン、認識できたのは3秒も満たないと言っただろ、怒鳴り声や単語、前後が無いと理解できないような言葉しかない・・・」
「ふ~ん・・・やらしい・・・不可抗力とは言え盗み聞きよね・・・あっ、それでユナの愚痴を知ってたのね」
ロレーヌの態度にイラっとしつつも
ナトスは答える。
「フン、さっきも言ったが3秒やそこらで長々と話していたユナの愚痴を理解したわけないだろ、それは別だ、そして不可抗力でも何でもないし、盗み聞きでもない」
「ふ~ん」
ナトスはめんどくさそうに
話を進める。
「もう良いか、街中じゃとてもじゃないが使い道のない技能だが、人気も無くこれだけ広い範囲を探すならかなり有用だと思っている、始めるぞ」
ナトスはそう言い放つと前方に集中して技能を発動させた。
するとナトスの向いている前方の範囲にのみ、
感知範囲が広がった。
ナトスは自分の向いている方向を変える事で
それを動かし前方180度範囲を索敵し終えた。
「・・人の気配はないようだ」
ナトスがそう言うとロレーヌは疑問を投げかける。
「もしかして一方向を意識して発動させてた?」
「あぁ、ユナがやっていたのを見ていたからな、方向を限定した方が距離が長くなるのも知っている、このやり方の方が俺自身リスクが少なく楽だしな」
「(・・リスクね・・)因みに距離ってどれぐらい稼げたの?」
「70kmの範囲で索敵できたよ、俺を中心に前方180度70km以内には誰も居ない」
「ヒュ~♪・・・お見事・・・じゃこの後はどうするの?」
「決まってるだろ」
ナトスはそう言うとロレーヌの肩に手を置き
瞬間移動を発動させた。
「え!?」
ロレーヌの目に映るナトスの背後の木々の並びが
一瞬で変わったように感じた。
ロレーヌはあたりを見渡し言う。
「・・・ま、まさか移動したの!?」
「あぁ、索敵した範囲のギリギリ付近、さっきの所から70km進んだ場所だ」
それを聞いたロレーヌは
呆れた様に言う。
「・・・これは、早く終わりそうね・・・」
「そう願いたいね」
ナトスは早速先ほどと同じ様に
“反響索敵”を発動させた。
「(ん!?)」
すると人が倒れているの気付く。
そしてそれが既に死んでいる事も。
「(失踪した冒険者か?・・・)」
「ふ~~」
「!!」
ナトスがロレーヌに報告する為
技能を解除しようとした時
耳に息が吹きかけられるのを感じた。
「な、なんの真似だロレーヌ!」
ナトスは珍しく慌てて振り返り
そう言うと、楽しそうなロレーヌが言う。
「うふふふふ、知らないの?学生の時に流行ったのよ♪」
ナトスが耳を抑えつつ困惑していると、
ロレーヌは続ける。
「“反響索敵”って方向を指定すると、範囲外の部分って感知が鈍るのよ♪それを覚えたての後輩に先輩はいたずらして遊ぶの♪あなたでも背後に立った私に気付けない様だったわね♪」
終始楽しそうに話すロレーヌにナトスは愚痴る。
「フン、状況によってはかなり使える技能だと思ったが、お前のような奴の前では・・・状況によっては使用不可だな・・・」
ロレーヌは悪びれた様子も無く言う。
「大丈夫大丈夫♪もうしないから、安心して続けて良いわよ♪」
ナトスは信用できないと言わんばかりに
それを鼻で笑い飛ばしつつ言う。
「フン、どうだか・・・それよりも、死んでいる人間を発見した、取りあえずそこまで飛ぶぞ」
それを聞いたロレーヌは一瞬で顔を強張らせ言う。
「死体!?」
「あぁ」
ナトスはロレーヌの肩に触れ、
再度瞬間移動を発動させた。