成り行き③
~異世界メジューワ、リベロット本拠地~
犯罪組織“リベロット”。
メジューワ全土の治安を脅かすように
二年前までは活発に活動していたが、
アモリアの孤児院虐殺事件を皮切りに、
その活動は一切停止していた。
巷ではリーダーが死に、半ば解散したのではと
ささやかれていたが、
ある目的の為休止しているに過ぎなかった。
ここ本拠地に一人の男が拘束され連れられてきた。
豪華な椅子に座る仮面を付けた人物の前に
強制的に座らされた男は怯えながらも言う。
「な、なにするんですかZ、こんなことしなくても俺は逃げも隠れもしない!」
「・・・」
Zと呼ばれた仮面の男が何も言わず、
只々その男を見下ろしていると、
脇に立つ仮面を付けた女が言う。
「逃げ隠れていたあんたを見つけて引っ張って来たんだ、説得力の欠片も無いねぇモルトフ・・・」
女がモルトフと呼ばれた男を拘束している兵士の様な風貌の人物に
視線を送ると、モルトフの頭を地面にグッと近づけた。
ガッ!
「グガァ・・・」
女がモルトフの頭を踏みつけ言う。
「最初に言うべきは謝罪の言葉じゃないの?モルトフ・・・」
「ぐっ・・・す、すみません・・・エ、X・・」
「私にじゃないよ!!」
スガッ!ガッ!
「ガハッ・・お、おゆ・・お許しを!Z!」
「・・・X・・」
Zがモルトフを踏みつけているXをなだめる様に呼ぶと
Xは足を上げ踵を返し、またZの脇に立った。
Zはモルトフの後方に立つ人物たちに視線を向ける。
「・・・」
その視線の先には、
アキト・トラフォールとクヨトウの南街でアキトに声をかけた
ガラの悪い二人組の三人が立っていた。
モルトフは思う。
「(何で俺だけ・・・ヘマをやったのはアキトだろが・・・クソ・・)」
アキト達は拘束されているわけではなく、
自分の意思でついてきたような感じだった。
「・・Z!弁明するわけじゃないが、ヘマをやったのはそこの新顔アキトだ!それにそれを連れて来たのもそこに居るOとU!俺は巻き込まれただけだぜ!」
モルトフが力ずくで顔を上げ、
口から血を流しつつも叫び、
アキト達を睨むように視線を向けた。
モルトフの目にはOとUと呼ばれたガラの悪い二人組の
ニヤけた顔が映った。
「(なっ!?こ、こいつら)」
「おら!何処むいてんだモルトフ!」
Xの声で兵士が無理やりモルトフを
前へ向きなおさせると、Zが静かに語りだす。
「モルトフ、私がお前にコードネームを授けなかった理由がわかるか?」
「(し、知る分けねぇだろ!好き嫌いじゃねぇの!)」
何も言わないモルトフに
Zは続ける。
「私の創ったこの組織には崇高な目的がある・・・お前はそれを理解していない」
「犯罪組織に崇高もへったくれもあるかよ!盗み、奪い、殺し、攫い、犯罪行為を満喫してるだけだろうがよ!」
「・・・X」
ZがXの名前を呼ぶと、
モルトフを拘束している兵士に言う。
「そいつを立たせろ」
兵士「オラ立て!」
「な、何なんだよ」
モルトフが立たされると
ZがXへ言う。
「膝上までだ」
「了解・・・“土属性魔法”!」
Xがモルトフに手のひらを向けて魔法を発動させると
モルトフの足が地面に沈み込んでいき、
膝まで埋まってしまった。
「何するつもりだ!これ以上は俺も抵抗するぞ!!」
モルトフが怯えながらも脅すように言うと、
兵士の一人が背中をポンと叩いた。
「んぁ!?」
意味が解らないモルトフが疑問の声をあげると、
Xが言う。
「兵士たち、そこ退きな!巻沿い食うよ!」
その声で兵士たちがその場を飛びのくと
Zがモルトフに向けて手をかざした。
それを見たモルトフもすぐに両手を前に向けた。
「Zぉ!本当に全力で抵抗するぞ!!」
モルトフがそう叫ぶと
Zは淡々と答える。
「モルトフ、お前の言う通り、私も奪い、殺す事が嫌いではない・・・特に今のお前の様に逃げる事も抵抗する事も出来ない者からその命を奪い殺す事がな・・・」
モルトフはその言葉に激高し叫ぶ。
「全力で抵抗すると言っているだろ!!死ねぇZぉぉ!・・・・はっ!な、何だ?!!」
モルトフは身体の違和感に気付いた。
「(・・な、何で!?)・・ま、魔力が・・・ま、まさか!?」
モルトフは先ほど兵士に背中をたたかれた際に、
何かを付けられている事に気付いた。
「それは魔力変動を抑える魔道具だ・・・」
シュパパン!!
「ぐぁぁぁ!!」
時すでに遅し。
モルトフが魔道具に気付いた瞬間、
突き出していた両手がズタボロに切り裂かれ、
指一本動かせない状態となってしまった。
「あはははは♪どぉすんだよモルトフ!その手じゃせっかく気付いた魔道具を自分で取る事も出来ないじゃないかぁ」
Xはそう言うと再度モルトフに向けて魔法を発動させる。
すると地面から土が盛り上がり、
モルトフの腕に絡まると、そのまま十字架に張り付けられたように
拘束し、固まった。
そしてZはモルトフに向けて語り掛ける。
「なぁモルトフ・・・私はお前の言うように犯罪行為を満喫するような人間なのだろうか?・・・このまま無抵抗のお前を切り刻み殺すような人間なのだろうか?」
その問いにモルトフは必死に答える。
「ち、違う!!Zは崇高な目的の為この組織を作った偉大な人物だ!!お、おれが間違っていた!本当だ!この通り、心を入れ替えるよ!た、助けてくれ!!」
それを聞いたZは静かに言う。
「・・そうか、わかってくれたかモルトフ」
シュパパン!!
「ぐぁがぁぁぁ!!」
無煤の風の刃がモルトフを襲い、
体中を切り刻み、血が噴き出る。
「・・な、なぜ・・・」
モルトフが力なく呟くと、
Zはモルトフに近付きながら言う。
「何故?・・・わかっていないじゃないか・・・」
Zは刃の無い剣の持ち手を取りだし、
それに魔力を注ぐように力を込めた。
「な!?や、やめてくれ!!」
モルトフの目には、燃え盛る炎が
刃の形を形成している炎の剣が見えた。
「・・・」
Zは何も言わず、
その炎の剣を、モルトフの右腕に振り下ろした。
ヒュッジュシャン!
「あぁぁぁ!熱い!いてぇぇぇ!」
モルトフの右腕は切断され、
その切り口は既に焼かれたように
出血すらしていなかった。
「ぐあ・・・あぁ・・・」
モルトフは切り離され、
地面から盛り上がった土にぶら下がる
自分の右腕を見て絶望し、恐怖を募らせていく。
それを後方で見ていたアキトも顔を青ざめ思う。
「(・・な、なんだよこれ・・・なんでこんな拷問まがいの事を・・ま、まさか俺もモルトフ同様なぶり殺されるんじゃ!?・・・)」
アキトは動揺を隠せず、一歩後ずさると、
ガラの悪い男OとUが言葉をかける。
「旦那、安心してくだせぇ・・・俺達には何のお咎めも来ねぇ」
「そうでさぁ・・理由は、成り行きに身を任せてくれればわかってきやすぜ」
ヒュッジュシャン!
「ぐあぁぁぁ!」
Zはモルトフの左腕も切断した。
膝まで地面に埋まっているモルトフは、
しゃがみ込む事も出来ず、
ただ両腕の痛みにグネグネと悶えていた
「ぐ・・が・・あ・・・」
Zは炎の剣を解除すると振り返り、
豪華な椅子の元へ歩き出し言う。
「・・二年前、不細工に肥大したこの組織にメスを入れ、志の低い者を排除したのをお前も覚えているだろ・・・お前はさぞ楽しそうに、仲間であった者達を殺しまわっていたのを、私は今でも覚えている・・・そのおかげもあり、今の“リベロット”は無駄な肉も落ち、引き締まったスマートな組織に生まれ変わった・・・感謝しているぞ、モルトフ」
「が・・・あ・・あぁ・・」
モルトフは明らかに話を聞ける状態ではなかったが、
Zは椅子に座りお構いなしに続ける。
「力あるものがそれを振るい、私利私欲を満たす事こそ自然の摂理・・・弱い者は虐げられ、奪われるだけの存在でしかない・・・」
その言葉を合図の様に、
2人の兵士がモルトフに近付き、
1人が上半身を前へ抑え込み
頭を下げさせた状態にした。
そして、
もう一人が斧を振り上げ、
モルトフの首へ振り落とした。
ジャギン!
ゴロン・・。
首から吹き出る血と、
転がるモロトフの頭を
満足そうに見下ろしていたZは
アキトへ視線を向け語りだす。
「・・歓迎しよう、アキト・トラフォール・・・」
「な・・(何故俺のフルネームを・・)」
OとUが跪き、アキトも跪かせるように手を引っ張った。
アキトも跪くのを見てZは続ける。
「“リベロット”のメンバーに欠員が出てしまった、変わりはお前だ、アキト・・」
「(は?・・な、なんだこれ・・話についていけない・・・)」
アキトが困惑していると、
OとUが小声で話しかける。
「これで旦那は正式に“リベロット”メンバーになったんですぜぇ」
「今はただ首を縦に振り、Zの言葉を受け入れる・・それだけでさぁ」
「(・・この男に逆らっても何をされるか分からない・・・)はい・・・」
アキトはZにそう返答し、首を縦に振った。
それを見てZは言う。
「“リベロット”は今特殊な状態にある、詳しい説明は後程OとUから聞け」
それを聞きOとUが返答する。
「はい」
「おおせの通りに」
Zは続ける。
「・・アキト・トラフォール、お前にコードネームTを授ける、今後はクヨトウに潜伏し組織の為に尽力せよ・・・」
Zは椅子から立ち上がると、
壁に背をあずけ、気だるそうにしている
一人の男に視線を向け言う。
「R、後は頼んだぞ」
そのままXと共にその場から転移してしまった。