魔導技術とお守り③
~オクシリアム、ボスの部屋~
オルカは、カイファスとの電話の後に
ボスの部屋まで来ていた。
ガチャ。
オルカはノックもせずに扉を開ける。
カチャカチャカチャ。
オルカには大きな衝立が見え、
その裏から食器が鳴る音が聞こえる。
「まぁだ食べてんの・・・」
オルカの呟きに答えるように、
扉の横に立っていた男が話しかける。
「・・何しに来たんだオルカ・・」
オルカはその声に反応し視線を移した。
「・・ニヒル」
オルカはニヒルの後ろに控える、
薄着の女性二人を確認し続ける。
「・・それが今日の“日課”?」
「ふん、大方“日課”の覗き見でもしに来たのか?」
「冗談でしょ・・」
オルカはそう言うと薄着の女性に近付き、
怯えた表情の女性の顎をクイっと引っ張った。
「見てるだけで満足するわけないでしょ・・今ここで味見しても良い?」
女性「ヒィィ・・」
パシ!
怯えた女性が、か細い悲鳴を上げると、
ニヒルがオルカの手を払いのけた。
「ケイゴの“日課”用に連れてきてんだ、勝手に触るな」
オルカは両手を広げ、
ハイハイとジェスチャーを送る。
すると、衝立の奥に居る男が、
食事を終え、果実酒を一気に飲み干した。
「ングングング・・パハァ~・・」
カコン!
グラスを置く音に気付いたニヒルとオルカが、
衝立に視線を送ると、
その奥から声が響く。
「・・なんだオルカ、何か用か?」
「ボスに判断してもらいたい事があってね」
「俺に?・・なんだ?」
するとニヒルが割って入る。
「あぁーわりぃけど、俺も暇じゃないんで・・“ケイゴ”ここに日課の相手置いとくぞ」
「・・あぁ忙しい所悪かったなニヒル」
「んじゃ・・」
去り際ニヒルはオルカに言う。
「勝手に触んなよ」
「はいはい・・」
パタン。
ニヒルが退室すると、
すまし顔のオルカは歪な笑みを浮かべる。
ガバ!!
女性「イヤァ!!」
オルカは怯えた女性の胸をわしづかみにすると、
舌を出し顔を舐めようとする。
「オルカ」
ピタ。
オクシリアムのボス、ケイゴと呼ばれた男は
オルカの名前を呼ぶとそのまま続ける。
「なんだ、お前も日課の相手をしてくれるのか?」
オルカは女性から手を離すと答える。
「冗談でしょ・・あんたとなんてキモ過ぎ・・」
オルカは女性二人に奥に行くよう
顎で合図を送る。
怯えた女性が渋々歩き出すと、
オルカは続ける。
「っで、話しなんだけど、客から粛清対象になった人間が、また客に戻して欲しいとさ・・」
「・・ほう・・誰だ?」
「2004IDβ(ベータ)008・・・」
ケイゴは額をトントン叩くと続ける。
「・・インベル社、カイファスか・・」
「違約金は4000万・・ボスの判断を・・」
「・・・」
~S&S社・食堂~
ミュウを取り囲むように、
ソロル・ナトス・ミノアが、
その手元を覗き込んでいた。
シュゥゥ・・シュキン!
シュゥゥ・・シュキン!
ミュウの目の前にある石が、
目に見えない刃で次々に削られていく。
シュゥゥ・・シュキン!
「・・ふぅ・・こんな感じなのです」
ある程度形になったところで、
額の汗をぬぐいつつミュウが顔を上げた。
「風属性魔法だよね?」
ミノアが言うと石を拾いながら、
ミュウが得意げな顔を浮かべる。
「本来は魔石をこのようにカットしていくのが魔石加工技術なのです!風属性魔法は効果範囲を狭くすればするほど威力と切れ味を増すのです!それを正確に操作し、魔導錬金技能と組み合わせる事で、魔石を魔道具用に作り替える事が出来るのです!」
その言葉を補足する様に、
少し離れた位置でコーヒーを飲んでいたロレーヌが割って入る。
「そのカッティングの仕方で、赤黒い魔石が変色するそうよ、一部ではカラーリングって言ったりする見たい・・例えばほら」
ロレーヌは首飾りを出して続ける。
「この魔導具、核となる魔石は紺色・・これはそう言うカッティング加工がされてるの」
それを聞きソロルも首飾りをまじまじと見つめる。
「へぇそうなんだ、せっかくなら緑系統だったらよかったのに、昨日のドレスにもあいそうだし、好きな色だから・・」
「たぶんそう言う訳にもいかないのです・・」
ミュウはそう言うと得意げに続ける。
「魔導具として発動させたい用途に応じ向き不向きの色があると聞いたことがあるのです、多分鑑定を阻害する為にはこの色がベストなのです、じゃないと、ミノアさんの変態鑑定を阻止する程のパワーを生み出せないのです」
「へ・・変態って・・・」
トゥルトゥル・・
ミノアが苦笑いを浮かべるとS&Sの電話が鳴る。
「仕事の電話みたい」
ロレーヌがそう言うと席を立つ。
「実際の魔石で色が変化する過程を見て見たいが・・」
ナトスがそう言うとミノアが笑顔で言う。
「じゃぁ、取ってこようか?パジャードックの頭から引き抜いてくればいいんでしょ?」
「零一遺跡の12階だな・・いくか・・」
ナトスとミノアの言葉に顔をひきつらせたミュウが
慌てて答える。
「ちょ、ちょっと待つのです・・お二人なら確かに簡単に取って来れそうですが、魔石自体はこの石の数倍は固いのです・・・まだまだ風属性魔法の操作になれてからでお願いするのです・・」
トゥルトゥル・・
執務室でなる電話に、
ロレーヌが駆け寄る。
カチャ。
「はい、S&S、ロレーヌです」
「ワシじゃ・・」
電話の相手はシェンターだった。
慌てた表情のシェンターは、
ロレーヌへ続ける。
「後釜は今どこにおる?」
「(後釜・・)・・ユナはもう出立していますが・・」
「!!・・遅かったか・・・」
「・・・」
シェンターの様子に只ならぬ気配を感じた
ロレーヌは受話器から顔を遠ざけ、呟く。
「ナトス、こっちに来れる?」
ロレーヌは直ぐにシェンターに向けて
話しかける。
「・・状況が大きく変化したんですね?」
「想定以上に危険な状況やもしれぬ・・」
「・・ユナには荷が重いと?・・」
カチャ・・。
「・・・」
ナトスが入室するのに気付いたロレーヌは
シェンターに続ける。
「・・彼に変わります」
「ナトスか・・頼む・・」
ロレーヌが電話をスピーカーにすると
ナトスが応答する。
「・・ナトスです」
「実は昨日の夕刻、ユナの手荷物に任務依頼書を忍ばせとった・・」
「知っています」
「重要な任務ではあるものの、状況を考えても比較的安全であると考えておった・・失敗するリスクも低く、初任務としては自信を付ける経験としても相応しい任務じゃと・・」
~回想~
~クヨトウ第一冒険者学園理事長室~数分前~
捜査課課長ブロードの前に座るシェンターは、
強い焦りを覚えていた。
「(こ、これをどう見る!?・・き、危険か??)」
ブロードはヴィーロ局長の言いつけ通り、
コパローナへモーフィスらを引き渡した際の
話しを報告したところだった。
何も言わず様子のおかしいシェンターへ
ブロードは続ける。
「・・モーフィスとカーリー君主の繋がりは考えすぎだったようですが、ヴィーロ局長はリベロットの地下施設の裏取りに動くと言われていました、明日にでもギルド局職員強化遠征として南の樹海奥へ向かうようです」
「・・・」
何も言わないシェンターへ
ブロードは続ける。
「・・えっと・・その遠征の最中、たまたま施設を見つけたとして動く様で・・そちらの方はほぼ確定的な情報として・・動きを・・・あの、どうかしましたか?」
「・・・」
~回想終~
シェンターはカーリー君主の
全く興味が無いような振る舞いを、
ナトスへ説明した。
「・・ナトス・・おぬしはどう見る?・・」
腕を組みシェンターの声を
聞いていたナトスは
静かに目を閉じた。
「・・危険性が大いに増した・・そう見た方が良いでしょう・・」
「やはりそうみるか・・」
これに対しシェンターの話を聞いていたロレーヌが
質問を飛ばす。
「え?ちょっと待ってください、危険性ってユナの任務に関する事ですよね?今の話を総合するとモーフィスとカーリー君主の繋がりが限りなく薄くなったんじゃないんですか?」
それに対しシェンターが答える。
「・・ユナの任務はコパローナへ潜入しカーリー君主の周辺調査じゃ・・側近や近しい人物、その情報収集・・・」
「それは大体予想していました・・だからこそ現状危険性は下がったのでは?・・なぜ大いに増したとなるんです?・・」
ロレーヌの疑問にナトスが答える。
「・・前提・・・ロレーヌ、物事を正確に想定し、備えるためには、主軸となる前提をぶらしては駄目だ・・」
「前提をぶらす?」
シェンターが続ける。
「ロレーヌ、カーリー君主がまったくもってモーフィスらに興味が無いように通例通りの対応をした事で、繋がりが無いと考えたのじゃろ?それが前提をぶらしておる」
「・・え?」
ロレーヌの疑問の声にナトスが続ける。
「つまりは、カーリー君主は本来、気が気ではないほどの繋がりがあるモーフィスらに、全く興味が無いように通例通り対応した・・と考えるべき・・俺もシェンター殿も、コパローナとリベロットの繋がり、果ては戦争・・その前提はぶらさない・・」
「それをぶらし、繋がりが無かったと考えるのは希望的観測でしかない・・」
シェンターがそう付け加えると、
ロレーヌが一定の納得を示しつつ
更なる疑問をぶつける。
「・・た、たしかに・・言われてみればそう考えるのがベスト・・なるほど・・しかし、だとしたらなおさら納得がいかないと言うか・・そもそもユナに任務を出した時、繋がり自体は前提にあったはず、だとしたら状況はあまり変わっていないのでは?危険性が増したと感じる部分がわかりません・・」
その疑問にナトスが答える。
「“全く興味が無いように通例通り対応した”・・・何故だと思う?」
「え?」
「ロレーヌ・・わしが通例通りの手順でコパローナに引き渡すように命じたのじゃが、何故だと思う?」
「それは簡単です、こちらが重要な情報を握っていると知られない為です、こちら側が一切警戒せず、通例通りの対応をする事でカーリー君主目線、モーフィス達から情報が洩れていないと感じるはずですから・・」
「それと同じじゃ・・」
「え・・」
ナトスが続ける。
「“全く興味が無いように通例通り対応した”ことで“繋がりが無いと”思わせたかった・・少なくとも余計な疑念を持たれない為にも通例通りの対応を・・それはなぜか・・カーリー君主側に、こちらに情報が漏れたと警戒する人物が居る可能性がある・・・」
「・・・」
だんだん話が見えてきたロレーヌが絶句する中
シェンターは語りだす。
「わしは・・カーリー君主が女神の加護ゼイアを持っていると知った時から、ユナへ任務を出す事を考えておった、ナトスら異世界人からの話を基に調査対象として浮上したにすぎんからのぉ、それはカーリー君主目線知り得ぬ事態・・・」
「王将も知っていた以上カーリー君主は女神の加護ゼイアを公言している、少なくとも隠しているわけではない・・おそらく、今更ゼイアを理由に調査されると警戒しない・・俺達の存在目的を知る以外は・・・」
そこまで聞いたロレーヌも思考が追いつき
追従する。
「それは知る由もなく・・カーリー君主をはじめ、表に出ない側近も警戒していないはずだった・・・」
「臆病なワシは、少しでも安全性を確保するために、警戒されぬよう動いたつもりじゃった・・警戒する相手と警戒していない相手では任務難易度は天と地ほども差があるからのう・・・」
「そして今、警戒されている可能性が高まった・・確かに警戒されていると断言できる状況でもないのも理解しているが、臆病な俺からみたら、もはやそれも希望的観測・・」
「相手が臆病であればあるほど警戒心は強い・・最悪、手に負えないじゃろ・・」
「・・・」
ロレーヌはその危険性から言葉を失くす。
「・・・」
シェンターが何かを待つ様に押し黙ると、
ナトスが語りだす。
「・・俺の“念話”なら、今この場からユナへ直接思念を飛ばす事は可能です・・」
「!・・やはりそうか・・」
ロレーヌ「!!?」
シェンターが待っていたように答えると、
ナトスは続ける。
「シェンター殿の推察通り“危険な任務だ、帰った方が良い”と思念を飛ばし、ユナへ暗示をかける事で直ぐにでも帰ってくる可能性はあります・・しかし、確実でも安全でもない方法です・・」
「精神を壊す可能性があると?」
「目を見て、表情の変化を確認しつつ念話を使用できない以上“正しい言葉”で暗示をかける自信もなく、状況もわからない・・そもそも如何なる場合でもリスクを伴う・・その後どうなってもいいような相手にしか使う気は起きない・・・」
「・・・」
ロレーヌ「(ナトス・・)・・・」
ナトスは説明を続ける。
「暗示を受けた本人の価値観において、それが真実だと受け入れ判断できる状況を示さない限り、永遠と精神に負荷をかけ続ける・・矛盾があればあるほど、壊れるのは早い・・」
「・・なるほどのぉ・・・」
シェンターが理解を示すと
ロレーヌも追従する。
「 “任務に変更があった、一旦帰還しろ”みたいな暗示でも、状況がそれを許さない場合がある・・こちらでユナが納得できる状況を作れたとしても、無事に帰還する時間がかかれば・・」
「ふむ・・そういう事じゃ・・先ほど言った通り、警戒しとるなら、このタイミングでコパローナへ入国した時点で目を付けられとる可能性もある・・」
「・・・」
~コパローナ国都市マジカ~
ユナは、リデニア国の都市オファククに
隣接する町オラミタから、
転移ゲートで繋がっているコパローナ国の
都市マジカに隣接する町カーオを経由し、
まさに都市マジカの南街を歩いていた。
「(せっかく来たんだし、取り合えず旨いもんでも食べっかな~)」
少し観光気分のユナの足取りは
心なしか軽く見えた。
ユナはコパローナ国首都オニカ中央を目指す。
そんなユナを距離を取って尾行する男が居た。
「・・・」
その男に他の男が声をかける。
男A「あれか?・・」
男B「あぁ、アルファド様の提示した条件に一致している・・」
男A「そうか、商人の方は空振りだった・・」
男B「あいつの方はまだ監視してるみたいだが・・この女はどうだろうか・・見るからに空振りっぽいが・・」
男A「・・政活者の方か・・俺もそっちの監視に回るか・・」
男B「アルファド様の言い付けを忘れるなよ・・」
男A「ふん、こっちのセリフだ、油断せず警戒を怠るな・・」
男B「あぁ・・少しでも違和感や不自然さ見たら、問答無用で捕らえ・・殺す・・」
~S&S社執務室~
シェンター/ロレーヌ「・・・」
有効な策もなくユナに対する心配の気持ちから
二人とも言葉をなくしていると、
ナトスが語りだす。
「・・心配性の二人には、話しておきます・・」
シェンター/ロレーヌ「?」




