アウトロー②
~インベル社~
「何故だ!?口封じの必要がなくなったと言っているんだ!」
カイファス所長が電話口に怒鳴る。
「・・一度受けた仕事だ、キャンセルは認められない・・」
電話口の相手“ピスキー”のリーダー、バーゲルはそう言うと
カイファスに続ける。
「今更必要ないと言われても、あの時点で交渉は成立している・・一度受けた仕事は何があっても遂行する、それが俺のモットーだ・・そして、必ず成功させ、取り決め通り報酬の請求させてもらう・・当然それも必ず払わせる・・それだけだ」
「ふざけたことを言うな!発注元の俺が必要ないと、キャンセルする意思を示しているんだ!勝手にお前たちがやることに何故金を払わねばならないんだ!!」
「・・・」
カイファスの主張を聞いたバーゲルは
低い声で淡々と語りだす。
「・・カイファス・・ふざけているのはお前だ、俺たちを何だと思っているんだ・・俺たちが世間の常識、法に縛られ、それを少しでも気にすると考えているのか・・何の仕事を、どんな組織に依頼したか、自覚してるだろ・・依頼のキャンセルは約束の反故とみなされる・・それは許されない、それが俺たちのルール・・・」
「そ、そんなつもりで話しているんじゃない・・ただ必要ないと・・約束の反故など考えていない!だからこそわざわざ手を煩わせる前にこうやって連絡をっ」
「カイファス!」
カイファスの言葉を遮るようにバーゲルが怒鳴ると
まくし立てるように続ける。
「お前、対等な立場だとでも本気で思っているのか!?お前が俺の前で、対等であろうと涙ぐましい虚勢を張るたびに!殺したくなるのをグッと堪えてやってんだ!!お前はただただ生かされているだけなんだよ!“オクシリアム”に金を落とす客としてな!」
「な・・なんだと・・」
「約束の反故は客としてみなされない!言いたいことわかるか!?カイファス!!」
「・・・」
絶句するカイファスに
バーゲルは静かに言い放つ。
「俺たちは約束を違わない、必ず受けた依頼は遂行する・・お前も約束を守れ・・もう後には戻れないほどこっちの世界にドップリ浸かってんだ・・お前はもう終わってんだよカイファス・・」
「・・・」
電話が切られた後、放心状態のカイファスは
無言で立ち尽くしていた。
~S&S社~
ナトス「・・・」
3階リビング。
執務室の話に耳を傾けるナトスを他所に
ソロルとミュウは本を片手に話しをしている。
「そっかぁ・・だからずっと魔導錬金の勉強してたんだね」
「そうなのです、せっかく風属性魔法が使えるなら、自分のキャリアアップの為にも独学で続けていたのです」
「魔導錬金?」
ソロルの言葉に得意げなミュウが答えると
ナトスが反応する。
それに答えるようにミュウが語り出す。
「魔導具を作る為の基礎技能なのです、魔導錬金と風属性魔法の組み合わせで魔石加工が出来るようになるのです、そして加工された魔石を使い、魔導錬金と魔導錬成と言う技能を組み合わせると魔導具を生成できるようになるのです」
「魔導具・・」
ナトスが呟くと
ソロルが補足する。
「ミュウは独学で魔導錬金を身に付けたの、魔導錬成はまだ見たいだから魔導具の生成は出来ないけど、一歩進んだって話をしてたの」
「・・ミュウはもともと属性魔法・風を持っている、魔導錬金を身に付けたのであれば、魔石加工とやらが出来るという話だと思うが・・その魔石加工とは何なんだ?」
パタン!
ミュウは得意げな表情のまま本を閉じると
ナトス達に言う。
「今から実際にやってみるのです」
カチャ。
ソロル/ミュウ「?」
そのタイミングで執務室の扉が開き、
中からロレーヌ達が出てくる。
「・・では、証拠の件はよろしくお願いします」
「あぁ、責任をもって私が調べ上げるつもりだ・・」
ロレーヌの言葉にバレフは答えると
帽子をかぶりながらミノアへ視線を向ける。
「君は世界冒険者協会認定調査員の資格を持っていると聞いた・・君に頼めば、すぐにでもカイファスとアウトローのつながりを示す証拠を見つけてしまうのだろうが・・今回は私に任せて欲しい、それが責任を取るうえで、私の最初の一歩・・」
「最初の?・・一歩?」
ミノアが素直に質問を返すと
バレフは笑顔で返す。
「・・私は責任を取って、政活者職から退くつもりだ・・だがその前にやる事をやるだけ、カイファスに証拠を突き付ける、それが最初の一歩・・」
バレスはそういうと、リビングのソロルに気づく。
かぶった帽子を再度取りながらソロルに歩み寄った。
「ソロル嬢、先日の非礼・・申し訳なかった・・」
「い、いやぁ・・大したことでは・・」
ソロルが苦笑いを浮かべる中、
バレフは深々と頭を下げS&S社を後にする。
~インベル社~
「・・っと言う事になっている・・・」
力なくうなだれるカイファスが
目の前に座るパルスへ呟くように言う。
「・・しょ・・しょうがないですよ所長、元気出しましょう・・」
パルスは通帳を開きながら続ける。
「口座には2億近い現金は有ります、ピスキーに報酬を払っても立て直せる資金も十分です・・」
励まそうとするパルスへ
カイファスは視線を向ける。
「・・早まった判断で迷惑をかけた・・申し訳ない・・」
「やめてください所長!2年もすれば取り返せます!私は・・臆病な程に色々な盤面を想定し先手を打つ所長を、凄い人だと・・尊敬しています・・所長にどこまでもお供します・・微力ながら頑張ります・・だから・・元気出してください、また・・会社盛り上げていきましょう!」
それを聞いたカイファスは弱弱しい
笑みを浮かべる。
「・・そうか・・そうだな・・運よく不正まではバレなかった・・やり直す事も可能か」
「そうですよ所長!金も信頼もこれからいくらでも稼いでいけばいいんです!」
「そうだな・・そう言えばデーセルはどうした?まだ戻らないのか?」
「デーセルですか?ちょっと前に連絡があった時は、声をかけていた冒険者パーティーがウダウダうるせぇって愚痴ってましたが・・確かに少し遅い気はしますね・・」
「(・・仕事の依頼で声をかけていた冒険者パーティー・・)!?」
「・・声をかけていた冒険者パーティーは8パーティーって言ってたし・・納得させるのに時間がかかってるんですかね・・」
カイファスはある事に気付き
狼狽えだしていた。
バーゲル「依頼のキャンセルは約束の反故とみなされる・・」
バーゲル「約束の保護は客としてみなされない!」
ピスキーのリーダー、バーゲルの言葉が
カイファスの頭を駆け巡る。
「(ただ・・客として・・)生かされている・・」
「え?」
カイファスの呟きにパルスが疑問の声をあげると
カイファスは突然立ち上がる。
「パルス!直ぐに銀行へ行ってくれ!」
「え?銀行ですか!?」
カイファスは胸ポケットから一枚の紙を取り出し
パルスへ渡す。
「この口座へ直ぐに振込みをしたい!」
「振込・・えっと・・が、額は?」
カイファスは慌てて何処かへ連絡をしようと
電話を手に取りながら続ける。
「すぐに行ってくれ!金額は後で指示する!!」
「わ、わかりました!」
ただ事ではないカイファスの態度を見て、
パルスは慌てて飛び出していった。
~アウトロー組織“オクシリアム”本部~
アウトローファミリー“テネヴァ”を
筆頭に“メルクエス”“ヴェンディ”“ピスキー”
の4ファミリーが一体となった組織、オクシリアム。
世間では死んだものとみなされた人間の
集まりである彼らは、その秩序に縛られず、
独自の“理念”のもと活動している。
オクシリアムのオフィスにある電話が鳴る。
「はい・・」
体のラインがわかるタイトな服を着た
メルクエスファミリーの女性リーダー、
オルカが電話にでると、
慌てた口調の男が答える。
「インベル社のカイファスだ!依頼している仕事の件で連絡をした!」
オルカが静かに答える。
「コードを・・」
「2004IDβ(ベータ)008!」
それを聞いたオルカが
“顧客リスト”と書かれたファイルを
手際よくをめくる。
「・・・該当しません・・」
「バカな!?インベル社だ!所長のカイファス!カイファス・アディソンだ!」
オルカは別のファイルを手に取ると
手際よくめくる。
「・・あぁ・・該当名がありました・・カイファス所長ですね・・」
「よ、よかった・・先週オクシリアム経由で依頼を出した冒険者への依頼の件だ、それを今日キャンセルしたんだが、その件で話をしたい」
「あぁ、通りで・・」
「ん?」
オルカの言い方にカイファスが疑問の声を
漏らすなか、オルカは手元のファイルに
視線を向けていた。
“インベル社”
“所長カイファス・アディソン 対象 保留 ”
“営業デーセル 対象 ”済
“調査員パルス 対象 ”
オルカが静かにファイルを閉じると、
表紙に“粛清者リスト”と書かれていた。
「いえいえ、こちらの話です、お気になさらず・・っで、話しとは?」
「こ、こちらの都合でキャンセルとなっては、そちらにも迷惑がかかると思い・・その・・補填と言うか・・今後の取引の為にも、違約金を払わねばと思い連絡をしたんだが」
「違約金・・ですか・・」
「そ、そうだ、これからも何かとオクシリアムへ仕事をお願いするやもしれん・・その時に今回の件で迷惑をかけたままだと取引に支障が出る・・そう考えている」
そこまで聞いたオルカは、
一拍置いて語りだす。
「・・・私どもも、闇市とは言え、それなりの信頼関係を持って仕事を受け、依頼する立場がございます・・今回、お声をかけさせていただいた冒険者パーティーは、我々からの依頼だからと安心して受けて頂いていた方々・・それを一方的に無かった事には出来ず、本来得るはずだった報酬の、約50万レアリーを、各パーティーへ違約金としてお支払いいたしました・・」
それを聞いたカイファスは意気揚々と話し出す。
「そうか、それは申し訳ない事をした、確か8パーティーだったと聞いている、違約金の総額400万レアリーを当然当社で払おう!違約金として受け取って欲しい」
「・・・」
「既に支払う準備をしている、直ぐにでも振り込ませていっ」
「カイファス!」
突然オルカがカイファスの言葉を遮り
荒い口調で捲くし立てた。
「頭湧いてんのか!?カイファス!!こっちが払った400万の補填でチャラに出来る訳ねぇだろうが!あぁ!こっちはなんもしてねぇ冒険者共に金を払ってんだ!それは迷惑料が含まれてんだよ!!お前は何か?俺達に何も迷惑かけてねぇとでも思ってんのか!?」
「い、いや違う、そんなつもりでは・・」
オルカに圧倒され狼狽えるカイファスに
オルカは続ける。
「じゃぁどんなつもりなんだよ!?言っとくけどなカイファス、お前はすでに顧客リストに載ってねぇ!暗部実行部隊γ(ガンマ)の粛清対象なんだよ!」
「な・・・」
絶句するカイファスにオルカは
続ける。
「お前が今生きてんのは“保留”になってるからだ!それはバーゲルん所の仕事があるからだ!奴らは確実に仕事をする、そん時にお前が死んでたら報酬がもらえねぇだろ!?まだギリギリ客として生かされてるだけなんだよ!」
カイファスは恐怖に飲み込まれていた。
ピスキーに依頼した仕事が完了し、
その報酬を払った瞬間、粛清される。
報酬を払わなくても当然粛清される。
バーゲル「・・お前はもう終わってんだよカイファス・・」
あの時のバーゲルの言葉が、
繰り返し頭に響く。
「・・俺は・・終わった・・」
カイファスの弱弱しい呟きを聞いたオルカは
当初の静かな口調で語りだす。
「・・さて、カイファス所長・・先ほど違約金を払う意思があると伺いましたが・・いかほど頂けるんでしょうか?」
「・・え?」
思いがけないオルカの言葉に
思考が追い付けないカイファスに
オルカは続ける。
「今後も取引出来るほどの信頼があると判断できれば、当然お客様としてご対応可能かと思っております・・」
カイファスは、オルカの言葉から、
違約金の金額によって信頼回復に
繋がると言う意味だと理解し、
慌てて叫ぶ。
「い、いくらだ!いくら払えばいいんだ!」
「わたくしからは何とも・・判断するのも私ではありません、カイファス所長が提示された額・・誠意を、そのままボスへお伝えします・・」
「・・・(会社の現金は1億8千万程度・・ピスキーへの報酬として予算を1億2千万は必須・・今後の立て直し、運転資金として5千万は残しておきたかった・・組める予算は1千万?・・だ、だめだ少なすぎる・・オクシリアムが補填した400万、その3倍は提示しないと・・3倍・・いやもっとだろ、4倍?5倍?・・どちらにせよ個人資金を投入せねば・・背に腹は代えられん・・・)」
カイファスは頭をフル回転させ、
提示すべき金額を口にする。
「10倍の・・4千万レアリーを、違約金として振り込ませてくれ」
それを聞いたオルカは口角を上げ
答える様に語りだす。
「おぉ・・素晴らしい誠意だと思います、私個人はですが・・」
「は、判断を下すそちらのボスへ直接話したいと思うのだが、代わってもらう事は出来ぬか?」
「ボスは交渉するのが好きではありません“4千万レアリーでインベル社を客として認めますか?”と確認するだけ、イエスかノーかそれだけです・・それに今の時間はお食事の時間、その後も日課の予定で埋まっております・・」
「し、しかし・・イエスかノーか・・気が気ではなっ」
「待つしかありません」
オルカはカイファスの言葉を遮り続ける。
「ピスキーの仕事は今夜、報酬は直ぐにお支払いください・・その時には既に違約金が振り込まれている事が前提になりますが・・そうですね・・明日の朝日を拝めたらイエスだったと思われて結構です・・」
「ノ、ノーだった場合は・・・」
「・・粛清されているだけです」
「待ってくれ!ボスの満足いく額まで、金にいとめは付けないつもりだ!」
「は?」
「い、いやだから、10倍とは言わず、20倍30倍でも払える!」
「・・・カイファス・・」
「・・・」
不穏な空気を感じたカイファスが押し黙ると
しばしの沈黙の後オルカが静かに語りだす。
「・・お前自分で何言ってるか分かってんのか?ボスは交渉するのが好きじゃねぇ・・っと言うよりお前みたいなやつが好きじゃねぇんだ」
「な・・どう言う・・」
「本当は8千万、1億2千万出せたんだろ?それを4千万で様子見したんだ・・それを今認めたんだ・・」
「い、いや・・」
言葉の詰まるカイファスにオルカは続ける。
「さっきな、悪くねぇ誠意だって思ったんだよ、俺は素直だから・・でも話変わってくんだろ?最大限の誠意じゃないって言われたら・・」
「・・ち、違うんだ・・・」
オルカは口調を戻し続ける。
「先ほどの話は聞かなかった事にします、ボスは余計な情報も嫌いますので・・あくまでも4千万で判断して頂きます・・身をもって知るか、朝日を拝めるか・・お待ちください」
「・・・」
電話が切られた後、放心状態のカイファスは
無言で立ち尽くしていた。




