成り行き①
~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨウトウ南街~
~S&S社~
S&S社一階。
ロビーのカウンターでロレーヌ、ナトス、ミノアの
3人が話をしていた。
「っという感じで、このボード、もとい、行動表に依頼書を張り付けるわ」
ロレーヌが説明すると
ナトスとミノアは理解を示す。
「うむ、これを見て俺もミノアも自身の業務をこなしていくわけだな」
「すでに名前の下に貼ってあるね、えぇっと僕のは・・」
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発注書
依頼先:S&S社
依頼元:世界冒険者協会南本店
クヨトウ地区ギルド局
用 件:調査依頼
詳細は下記参照
記
〇クヨトウ南、黒岩野営地周辺安全確認
〇同野営地の治安維持に関する確認調査
(概ね周囲50km範囲の安全確認)
黒岩野営地管理者ジューリムへお声掛けを。
報酬は15万レアリー。
期間は11月25日0:00まで。
※定期依頼案件。
初回の出来により今後の依頼を検討。
担当:黒岩野営地管理者
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「あぁ、あの大岩の所か」
「あら、知ってるのね、あそこは冒険者達が野営するスポット、定期的に周囲の安全確認が必要なの」
ロレーヌが補足すると
ナトスが疑問を投げかける。
「このギルド局とはなんだ?」
「クヨトウ、コハキ、オファククそれぞれの地区に存在する冒険者の為の組合よ、だからその地区の、すべてのギルドマスターがもれなく加盟してるわ、黒岩野営地何て冒険者しか使わないから、運営は組合が連名でしてるの、管理者のジューリムは協会の人間だけどね」
物事をあまり難しく考えたくないと
思ってしまうミノアは言う。
「取りあえず、協会のジューリムさんって人が依頼者で良いんでしょ?」
するとロレーヌからは
含みのある回答が返ってくる。
「ん~正確にヴィーロ・トレヴィーノの言う人物、クヨトウ地区ギルド局の局長よ・・・今回に限りだけどね」
「?」
ミノアが困惑していると
ナトスが言う。
「・・何か裏がありそうだな、まっ、ミノアのお手並み拝見と行こうじゃないか」
「そうね、よろしくねミノア」
「う、うん・・」
ロレーヌは行動表に視線を移し
話しを切り替える。
「因みに私の名前の下にある発注書、大事な事だから言っておくけど、ここにあるのは社を挙げて取り組む案件、当然二人にもその一端を担ってもらうわ」
それを聞いたナトスは
笑みを浮かべ言う。
「フン、なるほどな」
ミノアが続けて補足する。
「おじいちゃんからの依頼だね、そっかぁ、昨日からお姉たちをこの社屋に住まわせたのは、この3番目に書いてある“ソロル・ノウビシウムの保護並びに警護”の一環・・・」
ロレーヌは笑顔で答える。
「そっ♪当社独自の保護システム“N&M”よ♪」
「フン、たいそうな言い方だが俺&ミノアによるただの警護だ」
「当社独自と言えば確かにそうだけどね」
「でしょ♪」
「フ・・ソロちゃんは俺達にとっても大事な存在だ、そもそも保護するつもりだったし問題ない、任せておけ」
それを聞いたロレーヌは
面白くなさそうに言う。
「あらあら、何か焼けちゃう言い方ね・・・」
「ははは・・でも、日中はどうしよう、僕らのどちらかは片時も離れないぐらい無いと安心できないんだけど」
ミノアがロレーヌの反応に苦笑いを浮かべつつ
そう言うと、ナトスが提案する。
「どちらかが業務遂行中、どちらかはソロちゃんに張り付く・・・っでどうだ?所長」
ロレーヌは面白くなさそうな表情のまま
回答する。
「最初っからそのつもりよ、それぞれの業務は期限内に終わらせてくれれば良いし、当然日中も警護はしなきゃだしね・・・はぁ~私も守ってもらいたい・・・」
「フン・・(守ってやるさ・・)」
「ん?何か言った?」
「いや、因みに俺の名前の下に貼ってある業務の方が早そうだな」
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発注書
依頼先:S&S社
依頼元:クヨトウ公営ギルド
A型事業局南支部
用 件:調査・捜査依頼
詳細は下記参照
記
〇クヨトウの南に位置する樹海の調査
〇上記樹海にて失踪中の冒険者を捜査
ギルドマスターベネーへお声掛けを。
報酬は5万~30万レアリー。
期間は11月17日0:00まで。
※手付金5万レアリー。
情報獲得時成功報酬有。
担当:ベネー・プルカーノ
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「そうね・・・元々冒険者失踪事件として、初めて安全保障部捜査課から依頼が上がったのが1週間以上前、そろそろ成果が欲しいってところなんじゃないかしら」
ナトスはしばし思案し答える。
「(確か、ソロちゃんが俺達を召喚した際遂行中だった任務・・・)承知した、俺から行こう、ミノアは警護担当だな」
「OK~♪お姉たちの動き聞いてくるよ」
「よし、じゃぁ私はナトスに同行するわ、元々午前中は予定があったから同行は諦めてたけど、それが変更になったからね♪因みにミノアの任務の時も同行するつもりだから、二人のお手並み拝見と行くわ♪」
「了解♪因みに元々はどんな予定だったの?」
ミノアが気持ちよく返事をした後、
投げかけた疑問にロレーヌは答える。
「“リベロット事件”の資料を集めようかなって思ってたの、シェンターさんが来社する予定があったから丁度良いって思ってたんだけど急用で出かけるみたいで・・彼からの依頼の中で、これが入っているのか気になってたから」
ロレーヌはシェンターからの発注書にある
“犯罪組織リベトッロに係る事件捜査”を
指さしながら言うと、
それを聞いたミノアが言う。
「確かに、アキト・トラフォールの件はお姉の保護に繋がる事柄だから関係性があるよね、でも“リベロット”は関係性が見えない」
「あるんだろ・・・」
ロレーヌ・ミノア「?」
ナトスの呟くような声に
ロレーヌとミノアが頭に?を浮かべていると
ナトスは続ける。
「ミノア、アンプレスの件もあるし、念のためソロちゃん達の前で“リベロット”の話はやめておこう、むしろ彼女達とは関係ない物として扱った方が良いかもしれない」
「え・・う、うん・・・」
そのやり取りを見ていたロレーヌが
ナトスに詰め寄る。
「ちょっと待ってナトス、その言い方だと“むしろ”関係があるみたいじゃない、何かあるのなら教えておいて欲しいわ、さっきも言ったけどこれは社を挙げて取り組む仕事なの、私たちが知っているのと知らないので備えが変わるかもしれない」
それを聞いたナトスは
おもむろに語りだす。
「・・・俺には懸念があった・・・知っているか?“善意は悪意を助長する”」
ミノアが神妙な表情を浮かべる中
ロレーヌは呟く。
「善意が悪意を?・・・」
ナトスは続ける。
「他者の悪意にさらされた時“きっと間違えに気付いてくれる”“変わってくれるはず”などと善意で信じようとする人間が居る、ソロちゃんの場合は“他者を巻き込みたくない”と言わば善意を見せたが、双方とも、取る手段は“沈黙”・・・」
「アキトとソロルのトラブルの事ね・・・」
ロレーヌの言葉に頷き
ナトスは続ける。
「悪意が強く、黒ければ黒いほど自身を漂白するように振る舞い隠そうとする・・アキトは周囲から評判のいい冒険者だと聞いた・・・だからこそ俺はドス黒い人間だと判断している」
「(・・・兄さん)」
ナトスは続ける。
「ソロちゃん達がアキトからの襲撃を懸念しているように、自身の黒さを知る人間が“沈黙”と言う手段を取った時、一刻を争うように口封じに走る可能性は高く、黒ければ黒いほどその手段は狡猾で、早い・・・アキトが未だアクションを起こしていないとは到底思えない・・・それが俺の懸念・・・その発注書はシェンター殿が孫の安全を願う物だ、だとしたら“リベロット”もその安全を害するものとして見るべきでボスからのメッセージと見て間違いなく、言わば親心・・いや祖父心か・・・」
それを聞いたロレーヌは
思考がナトスに追いつき呟く。
「・・・だからこその捜査対象・・たしかにそう考えた方が自然ね・・・(そしてシェンター殿に尋ねても答えは返ってこない・・・適当な理由ではぐらかされる・・・おそらく闇に・・・)」
「何かよくわかんないけど、取りあえず注意点は分かったし、お姉たちの所へ行くよ」
ミノアがそう言うと
ロレーヌが答える。
「そうね、取りあえず業務を開始しましょう」
「OK♪んじゃ、兄さんたちも気を付けてね」
ナトスが答える様に手をあげると
ミノアはソロル達の居る三階へ向かった。
「準備は良いのか?ロレーヌ」
「いつでも良いわよ、でも・・いくら私とあなたの仲でも業務中は所長と呼びなさい」
ロレーヌがいつもの調子で冗談っぽく言うと
ナトスは笑みを浮かべて言う。
「フ・・確かに、部下と上司の仲でしかないからな、では所長、行きましょう」
ナトスが面白くなさそうな目で見返す
ロレーヌの肩に手を置くと、
二人はその場から音も無く消えた。