魂魄①
~リデニア国首都クヨトウ中央街~
~サキュリフィー邸・食堂~
「ソロルパーティー斥候のCランク冒険者ユナと申します、お招きいただきありがとうございます」
立食パーティー形式で料理が
準備されている食堂に一同が会すると、
テナクス王将と初めて顔を合わせる
ユナ達が次々に挨拶をしていく。
「ソロルパーティー魔法士冒険者、Cランクのミュウなのです」
「ピュ、ピューネです」
「アモリア国Aランク冒険者、アンプレスと言います・・」
テナクス「(アンプレス?)」
「リデニア代表、テナクス・サキュリフィー王将にお目にかかれ嬉しく思います」
最後にアンプレスが深々と頭を下げると、
テナクスが一同を見渡す。
「では、遠慮なくやってくれ」
~キッチン~
調理師A「ま、間に合いましたね・・料理長」
料理長「・・あぁ、あのタイミングからよく間に合わせた」
調理主任「・・しかし・・本番はこれから・・」
料理長「・・そうだ、11人が揃うこのタイミングで20人前の料理・・そしてこの後更に20人前の料理を作らなければならない・・・」
調理師B「本当にそんなに必要なのでしょうか・・」
料理長「わからん・・しかしそれが王将の指示・・早速取り掛かろう」
ガチャン!
使用人「料理長!大変です!」
~食堂~
シェンター「(ふぉっふぉっふぉ、話しには聞いておったが・・)」
フィニクシー「(ふふふふふ・・あらあら、子供みたいに・・)」
例によって、ナトスとミノアが
一心不乱に食べ続ける。
その脇で、アンプレスとミュウ、ピューネもガッついて行く。
それを唖然とした表情でテナクスが見つめる。
「(りょ・・料理長・・20じゃ足りないかもしれん・・・)」
~キッチン~
調理師A「料理長!どうしましょう!」
使用人からの話を聞いた料理人たちが
慌てる中、料理長は不敵に笑う。
料理長「・・フ・・これは我々に対する挑戦だ!主任!フォーメーションデルタ!一気に勝負に出るぞ!」
調理主任「!!想定人数50名体制!?」
料理長「そうだ!・・そして、その自己ベストを更新する・・・」
調理師A/B「・・ゴク・・」
料理長の不敵な笑みを見た
一同が固唾を飲む。
~食堂~
「(しかしまぁよく食べるのぉ・・見てるこっちがお腹いっぱいになる思いじゃ・・)」
ナトスとミノアを眺めつつ
シェンターがため息を付くと、
フィニクシーがグラスを持ち
歩いて行くのが視界に入る。
それを目で追っていると、
不意にロレーヌがタイミングよく
食事の皿をテーブルに置くのが見えた。
ロレーヌはそのままグラスを持ち、
振り返ると、テラスに向けて歩き出す。
それを目で追っていたシェンターは、
ロレーヌが振り返る時
一瞬目が合った。
「・・・」
シェンターはグラスと果実酒のボトルを持つと
その後を追う。
カチャン・・
シェンターが扉を開けテラスに出ると。
ロレーヌはシェンターが来るのを
知っていたように、こちらを見ていた。
「・・何かわしに聞きたい事でもあるのかぉ・・」
シェンターはそう言いつつ
ロレーヌに近付き、
ロレーヌの手にあるグラスに
果実酒を注いだ。
「・・大方、彼らについてじゃろうかのぉ・・」
シェンターがそう言いながら
果実酒を注ぎ終わると、
ロレーヌはボトルを受け取り、
シェンターのグラスに果実酒を注ぐ。
「・・まぁ、そうですね・・」
ロレーヌは注ぎ終わると、
続ける。
「というより・・ナトスについてですが・・・」
~食堂~
フィニクシーは、ナトスの横に立ち、
ナトスの目の前にあるグラスに
果実酒を注ぎだす。
「・・・」
ナトスはそれを横目で見た後、
グッと目を閉じた。
「(・・箸を止めろ!・・自重だ・・俺なら出来る・・ほ、ほら・・皿を置け・・・)」
ナトスはググググとゆっくり皿と箸を
テーブルに置くと、
フィニクシーからボトルを受け取り、
フィニクシーのグラスに果実酒を注ぐ。
「・・ふー・・・」
ナトスは自分を落ち着かせるように
息を吹きながらテーブルに置いてあった
フィニクシーが注いでくれた自分の
グラスを手に取る。
「・・何かお話でも?」
ナトスがフィニクシーにそう言うと、
フィニクシーは笑顔を浮かべる。
キン!
フィニクシーはそのまま自分のグラスを
ナトスのグラスに合わせた。
ナトスはその所作をと雰囲気を見て、
一口飲んだ後フィニクシーに言う。
「・・てっきり・・俺に対して一定の嫌悪感を持たれていると思ったのですが・・」
フィニクシーは先ほどの官邸での話しを
示唆している事に気付き嫌味っぽく言う。
「ふふふ・・私を侮ってはいけません、全お見通しですよ~」
「フ・・流石は一枚も二枚も上手か・・・」
フィニクシーはナトスの言う“上手”が
シェンターの事だと気付き更に笑みを浮かべる。
「うふふふふ♪」
「フィ、フィニクシー様!・・」
すると突然フィニクシーを呼ぶ声が響く。
「わ、私の“シャリ”を見てもらえませんか!」
フィニクシーに声をかけたのは、
ソロルだった。
「えぇ♪良いですよ!でもここで召喚してはいけませんよ、魔力変動を感知すると衛兵が飛んで参ります、テラスの外、中庭ならOKです!」
フィニクシーが感じよく返答すると、
ソロルが満面の笑みをこぼすなか、
ナトスはまた肉料理をガツガツ食べ始めていた。
「どーだ!ここの料理は口に合うか?」
テナクスがミノアの近くに来ており、
料理をがっつくミノアへ声をかけた。
それを聞いたミノアはグッと目を閉じた。
「(お、王様!・・は、箸を止めなきゃ!・・か、会話を・・こ、この皿をテーブルに置け!)」
ミノアはググググとゆっくり皿と箸を
テーブルに置くと、
テナクスの問いに答える。
「ま、周りが見えなくなるほどおいしいです♪」
「はっはっは!そうだろう!世界屈指の料理人だからな!」
ミノアの満面の笑みを見たテナクスは
上機嫌でそう言うと、
不意に視線を移し、
ユナ達を見る。
「・・時に、何故ナトス殿は彼女らをここへ呼んだのだろうか・・未だ明確な話も無く、正直困惑している・・」
ミノアはテナクスの疑問を聞き、
素直に答えようと、自身の中にある答えを
口にする。
「多分ですが、ユナさんとミュウさんはソロルお姉と運命を共にする事を選ぶからだと思います、お姉が女神の加護を持つ者として動く時も、恐らく同行する・・そう言う絆みたいなものを兄さんは二人から感じ取っているのかも・・」
「うむ・・なるほど・・」
テナクスは納得する様にそう言うと、
美味しそうにデザートを食べるピューネに
視線を向け続ける。
「・・では、あの子は何だ?」
「ピューネちゃん・・お嬢は、女神の加護テセラを持ってます」
「!!?何だと・・」
驚愕するテナクスに、
ミノアは続ける。
「お姉の啓示は、お嬢を助ける事を示唆してる・・セットで考えた方が良いと、兄さんも僕も考えてます」
それを聞いたテナクスは押し黙る。
「(な、何という事だ・・今この場に女神の加護を持つ者が俺を含め3人も・・偶然なのか?・・・)」
「因みにお嬢はあそこにいるアンプレスさんと一緒に居たんだ・・そして“女神の像”でお姉と出会った・・」
テナクスがミノアの視線につられ、
アンプレスを見る。
「(・・・やはり・・似ている・・・)」
カチン!カチン!
「ん?」
アンプレスがテーブルの上のステーキに
フォークを刺すと、
別のフォークが遅れて刺された。
「どういうつもりだユナ、俺が先に刺してただろ」
「食べようと思ったのは私が先!フォークをどけなよアン」
「無理があるだろユナ、俺が先に刺してる以上先に食べようと思ったのも俺だ!」
「ざーんねん、ここへ来た時から食べようと思ってたもんね、明らかに私が先!」
「ふん!それこそ残念だったな、俺は生まれた時から思っていた!年下のお前が俺より先に思う事等不可能!明らかに俺が先だな!」
「あんたそんな子供みたいなこと言って恥ずかしくないの!レディーファーストって言葉知らないみたいね!」
「レディー!?相手がレディーなら譲るさ、レディーならな!」
「はぁ~・・これだから女性経験の少ないお子様は困るのよ、そんなんだからソロルにどつかれるのよ!」
「な・・べ、べつに力づくでかっさらっても良いんだぞ!」
「上手く行くと思わないでね、これでも今日、あなたと同じ90レベルの大台に乗ってるの、返り討ちに合うわよ!」
テナクス「(90レベル!?その歳で!?)」
「そーかそーか、ユナはそこまで来てしまったか・・まさに取り返しのつかない所まで・・流石“ベネーさんの輪”!」
「な!?」
カチャン・・
その瞬間ユナはフォークから手を離していた。
「と、取り返しのつかない・・・ベ・・ベネーさん現象・・・」
ユナはそう呟くと大きく肩を落とし、
うなだれた。
それを見たアンプレスは勝ち誇ったように
ステーキを口に運ぶ。
それを見ていたミノアが苦笑いを浮かべつつ
テナクスに語り掛ける。
「・・はは・・ち、因みにだけど、あのアンさんも女神の加護エネアをもってます」
「!!な・・(加護持ちが4人・・・これは偶然では無い・・・)」
テナクスは狼狽えつつ言葉を失うと、
会話が途切れたことで、
ミノアはまた肉料理をガツガツ食べ始めていた。
~テラス~
「・・ふむ・・・」
テラスでロレーヌの話を聞いていた
シェンターはそう言うとベンチに腰を掛けた。
ロレーヌは失踪した冒険者女性を救出した際の
ナトスの言動について報告していた。
ロレーヌは手にあるグラスを飲み干すと、
語りだす。
「・・・正直、彼と言う人物がわからなくなってしまいました・・常に冷静で、先々を見通し、深慮深く頼れる人物・・そう思っていましたが・・・感情的で後先考えずに動くような人物なのではないかと・・いや、もしかしたら全て見通したうえで、そんなの関係ないと切り捨てた・・そう見えてしまい、信頼し頼る事等出来ないのではと・・そう感じています・・・」
「・・・」
シェンターは何も言わず、ロレーヌの空いたグラスへ
果実酒を注ぐ。
それを見ながらロレーヌは続ける。
「・・現に、S&Sは危うい状況です・・感情に流されたナトスの行いが明るみに出れば、その場に居た私の責任も問われ、会社が責任を取る形になり閉業も有りえます・・ナトス自身それに気づいていたはずです、犯人に“念話”による口止めをしていたと知った時それを確信しました・・・」
「・・ふむ、“自分について語るな”と暗示をかける事で、犯人から漏れる事を防いでおるがそれだけでは深慮が足りぬという話じゃな?おぬし自身が気付けておる以上ナトスも気付いているはずと・・ナトスがそれに手を打っていないならば、それに気付けないほど冷静ではなく感情的だったか、そんなものどうでも良いと切り捨てたか・・おぬしにはそう見えているのじゃな?」
「・・はい・・」
ロレーヌは果実酒を飲み続ける。
「正直犯人からの証言はでっち上げだと強引に否定すればどうにでもなると考えていました・・空中でもがく無抵抗の犯人を惨殺したなんて普通信用されないですから・・しかし被害者の女性たちはそうは行きません、嘘をつき、でっち上げる意味が彼女たちにはない以上強引に否定は出来ない・・そう考えています・・」
「・・・」
ロレーヌは続ける。
「・・先ほどの会の後、ミノアに“念話”について聞きました、それはナトスが犯人たちの顔を覗き込むような行動をとっていたからです・・そして私の予想は正解でした・・・」
~回想~
「あぁ、その覗き込む行為は兄さんが“念話”を正確に使用するときにやる行動だね」
「(・・やっぱり・・)」
ミノアは続ける。
「本当は顔をのぞき込んだり、そもそも視界に入って居なくても“念話”は飛ばせるんだけど・・この能力は洗脳能力、相手に自分の思念・言葉をそのまま事実として植え付けるんだ・・・そしてそれが本人の価値観と大きくかけ離れていても有効に作用するから、その後の自分の言動に強い矛盾を伴う・・必要以上に強い力で強い言葉を植え付けると、一瞬で相手の精神を壊す事もある・・そう言う危険な能力・・“抵抗力”を持つ僕と兄さんは暗示にはかからないから、気軽にポンポン使ってくるけど、抵抗力の無い人間に使用する場合、兄さんは相手の目を見るんだ」
「(・・・ナトスは救出した女性たちにそんな事をしていない・・つまり彼女達への口止めの必要性に気付いていなかった・・・)」
~回想終~
ミノアとの話を伝えたロレーヌは
手にあるグラスをまた飲み干した。
「(・・グ、グイグイ行くのぉ・・)」
「・・はぁ~・・・」
ロレーヌが苛立ち交じりに大きく息を吐くと
シェンターはまだ飲むか?と聞く様に
ボトルをグイっと上げた。
「・・・」
ロレーヌが無言のままグラスを突きだすと、
シェンターは笑みを浮かべグラスに注ぐ。
「ふぉっふぉ・・なるほどのぉ・・」
シェンターはボトルを置くと続ける。
「おぬしの見立て通り、ナトスが被害女性たちに“念話”を使用していないのは間違いないじゃろ・・現に・・捜査課の人間がわしの所に来て話して行きよった・・救出された一人が、ナトスの行いを証言して居る・・」
「!!・・・」
ロレーヌはそれを聞き、グッと目を閉じた。
「(・・すでにボスの所にまで捜査の手が!?・・・)」
何も言わないロレーヌにシェンターが続ける。
「しかしまぁ、おぬしの言うた答えのと通り・・」
「申し訳ありません!!」
シェンターの言葉を遮るように
突然ロレーヌが頭を下げた。
「ボスに迷惑をかけてしまいました!・・あの時私がナトスの要求を飲まず、しっかり管理できていればこのような事にはならなかったのに!!・・恩をあだで返すような形になり、申し訳なく・・」
「ロレーヌ!」
深々と頭を下げ、謝罪するロレーヌの言葉を
シェンターは遮った。
「・・・」
何も言わず頭を下げ続けるロレーヌに
シェンターは語り掛ける。
「・・おぬしは“自分が気付けた以上ナトスも気付けている”と言う目線から、ナトスに対する不信感、疑念を強めておる・・しかし、それは浅いかのぉ」
「あ・・浅い?・・」
「・・おぬしはナトスを認めておるのじゃ、故の目線・・しかし、自分が気付けている事にナトスも気付いていると考えるのであれば、さらにその先・・自分が考えも及ばぬ所まで思案し洞察していると考えるべきじゃ・・」
「さ、先?・・・」
「あの場でおぬしが見聞きしたナトスの言動を目の当たりにしては、一定の不信感を持ってしまうのはしょうがないのかのぉ・・ま、それもナトスの思惑かのぉ・・」
「お、思惑?・・・」
混乱するロレーヌにシェンターは笑みを浮かべ続ける。
「ふぉっふぉっふぉ・・結論から言うとのぉ、おぬしの言うような“恩を仇で返す”ような事にはなっておらぬ」
「え・・し、しかし、捜査の手がボスの所にまで及んでいるのであれば、ナトスの行いが明るみに出てその裏付けを・・責任の所在を調べているのでは?・・S&Sとシェンター・ノウビシウムの繋がりは、調べればすぐにでもわかる事・・」
混乱するロレーヌが独り言のようにそう言うと、
シェンターは語りだす。
「ふぉっふぉっふぉ・・その答えはおぬし自身が口にしとる・・そうじゃのぉ・・そんなおぬしにわしから答えを教えてやろう、おぬしが冒頭“わからなくなった”と言った彼についてじゃ・・」
「か・・ナトスについて・・・」
「そうじゃ、ナトスとは如何なる人物なのか・・」
「・・・」
ロレーヌが心待ちにしているように
シェンターの言葉を待っていると、
シェンターは笑みを浮かべる。
「・・ナトスとは・・」
「(・・ナトスとは・・)」
「・・正真正銘・・」
「(・・正真正銘・・)」
「・・臆病者じゃ」
「お・・おく・・?」




