魔石①
~リデニア国首都クヨトウ南街~
~西街に近い民家~
「んー!・・んっ!・・んー・・」
居間の片隅で口をふさがれ
拘束されたテレサが、
眼に涙を浮かべている。
「んー・・(おじいちゃん)んー・・(おばあちゃん)・・・」
祖父母の死んでいるのを
目の当たりにし、
恐怖と悲しみの表情で
もがくテレサを見てオルガが言う。
「うるさい女でやす・・痛めつけやすか?」
「丁重に扱え、大事な人材だ」
ステフがそう言うと、
ウルガが言う。
「出て行ったと思ったらすぐに戻って来やしたが・・おもちゃを見つけてきたわけじゃないんですか?」
「ちがう・・」
ステフはそう言うと、
困惑した表情のアキトへ視線を向ける。
「・・お前たち三人でテレサをZの所へ連れて行け」
「え?・・Zって本拠地にか?」
ゾッとした表情を浮かべたアキトが
そう言うとステフは、
恐怖で泣き崩れるテレサを見下ろし
続ける。
「・・テレサは魔石加工士の卵だ・・リベロットも結成されて20年近く経とうとしている、魔石分野においては高齢化状態・・若い力が必要だとZは言っている」
「いわゆる、ヘッドハンティングってやつですかい?」
ウルガがそう言うと、
ステフは笑顔で答える。
「はははは♪そうだ!まっ、合意は取れていないがな・・」
ステフは泣き崩れるテレサの顔を
無理やり上げると、
顔を近づけて続ける。
「・・おじいさんとおばあさんは残念だったな・・」
「んー!んー!」
「お前が言うように、おじいさんの立ち居振る舞いから腰を痛めているのはすぐにわかった・・妻を守る為立ちはだかろうとしたのは良かったが、ちょいと腰を蹴っただけで悶絶していたしな♪あっ・・何度も蹴り上げてあげたから逆に良くなっていたかも♪」
「・・んー・・(おじいちゃん・・・)」
ステフは、涙をあふれさせたテレサの
顔をみて歪な笑顔を浮かべると
テレサの顔から手を離し
立ち上がりつつ言う。
「・・おれはやる事がある、お前ら三人で本拠地へ行け」
ステフはそのままアキトを見据え
続ける。
「おれがお前にしたように、テレサに本拠地を案内しろ」
「ほ、本拠地の案内!?・・うぷ・・」
~回想~
「・・ついてこい、ここ本拠地を案内してやる、大事な注意事項も兼ねてな・・・モルトフみたいにはなりたくないだろ?」
アキトが初めて本拠地に連れて来られた時、
ステフに連れられておぞましいものを目の当たりにしていた。
通路を歩きながら、
ステフは言う。
「魔石を見たことは有るか?高知能魔獣の頭部に有る石だ」
「イヤ、流石に無い、こっちが瞬殺される」
自信満々に答えるアキトを見て
ステフは頭を抱えながら言う。
「はぁ・・まっ、自分の力量を見誤る奴は相手の力量も見誤る・・・でも、もう少しプライドを持て、成長しないぞ・・」
「・・ん?(血の臭い?・・)」
突然アキトは周囲の臭いに違和感を覚えた。
それを見たステフは続ける。
「・・魔獣は他よりも強い個体が度々生まれる・・その魔獣は共食いも含め、他の魔獣を捕食し、魔力も含めて自分の血肉へと変え、ある日突然頭の中に魔力の結晶が生まれる・・それが魔石・・」
「・・ん?え?・・魔石ってそうやって形成されるのか!?」
ステフは続ける。
「頭に魔石が生まれた個体は脳が活性化し知能が発達する・・高知能魔獣が完成するわけだが、知っての通り知能が高い事は戦闘においてもかなりのアドバンテージを取る・・」
「・・ん?・・アドバンテージ?」
ピンとこないアキトに
ステフは苛立ちを見せつつ続ける。
「チッ・・仮定や想定、記憶や経験・・その他モロモロいくらでもあるだろ・・いかにレベルが高かろうと只々向かってくるだけの魔獣に作戦を駆使する人間が、よほどのレベル差だ無い限り後れを取る事は無いだろうが・・・」
「・・ん?・・あぁ・・うん・・」
未だピンと来ていないアキトに
ウルガが付け加える。
「はぁ・・レベル差がそれなりに有っても、魔獣の知能が低ければ、慎重に時間をかければかなりの確率で討伐は可能でさぁ・・そう言う経験は流石の旦那にも有るはずでさぁ」
「しかし高知能魔獣はそうはいかないでさぁ、むしろ魔獣の方が人間の裏をかいてくるような事もあるでさぁ」
オルガが追従すると、
アキトは頷く様に言う。
「あぁ、それならわかる・・」
「まぁ良い、本題はそこじゃない・・」
ステフがそう言うと
あたりに漂う匂いが濃くなったの感じる。
「う・・さっきからこの臭い何なんだ・・・」
アキトが嫌悪感を露わにすると、
ステフが続ける。
「・・さっきの話の途中だが、魔獣の様に魔力を保持し、魔獣よりも魔力の操作に長け、更には圧倒的に知能の高い生物が居るだろ?」
「う!?・・・え!?」
ステフは不意に近くの扉に手をかけ
開いて見せた。
更に濃い血の匂いに鼻を衝かれた
アキトだったが、
それ以上に
視界に飛び込む部屋の様子が、
アキトの思考を止めた。
男「・・もうやめてくれ!」
女「・・何でこんな・・何で・・」
男「うぅ・・うう・・」
女「・・・」
部屋には裸の男女が十数名吊るされており
その足元は血が流れていく水路の様に
なっていて、吊るされた人間は
例の首飾りをかけられ、
全て足首を切られていた。
そこから流れ出た血が、
まさにその水路をたどり、
行きつく先には、
血の溜まった大きな壺が置かれていた。
ドポン。
「はっ・・」
思考が止まっていたアキトは
不意に響いたその音で我に返った。
水面に何かを投げ入れたような音は、
まさにその壺の方から聞こえ、
アキトは視線を向けていた。
「・・な、何の・・音・・」
アキトはその音が何なのかわからなかったが
次の瞬間その想像がついてしまう。
そこで作業をしている一人の男が、
吊るされていたであろう女性を抱え上げた。
雑に抱え上げられ仰向けになったその女性は、
胸部が切り裂かれ、心臓がくりぬかれていた。
「うぷ!・・オエェェェ!」
それを目の当たりにしたアキトは
たまらず嘔吐し、
取り乱す。
「な、何だよコレ!うぷ・・何の為・・に・・オエェェェ・・・」
対照的にステフは淡々と答える。
「魔石製造工場さ・・魔獣よりも知能が高く魔力操作に長けた人間・・・ある時、ある人が気付いたのさ、人間から魔石を作る事が出来る事に・・」
「・・(魔石!?)うぷ・・・」
作業員「・・もう一人頃合いだ」
作業している男がそう言いながら、
ぐったりと動かない吊るされた男を指さした。
その吊るされた男を別の作業員が
壺の近くまで運んでくると、
作業員は胸元に鋭利な刃物を突き立てた。
ジュシャ!
グチュヌチュ・・。
作業員はそのまま切り口に
手を突っ込み心臓を引っ張り出す。
「え!?うぷ・・なんか光って・・・」
アキトが言うように、
抜き出された心臓は
淡い光を発しているように見えた。
ドポン。
作業員「この壺はこれで完了だ、新しい壺を」
作業員は心臓を壺へ投げ入れ
そう言うと、
淡く光る血で満杯の壺を
からの壺へと差し替えた。
「魔力を生み出すのは心臓、体中に流れる血液に魔力を溶け込ませている・・魔力を操作し技能が使用できるのは、魔力を脳が感じ取っているからだそうだ・・詳しくは俺も知らんが、あの首飾りは血液に溶け込んでいる魔力を、身体の下に行くにつれて濃くするものらしい・・あの足首の切り口あたりだな・・逆に上部、頭の方は限りなく薄くなり、脳が魔力を感じ取れなくなる・・技能の使用が出来なくなる・・」
ステフは淡々とそう語りながら、
吊るされている十数名の男女を指さし続ける。
「未だ元気に声を発している者は吊るされて間もないが、10時間もするとうめき声をあげるだけになり、そこから数時間すると声もでない・・さらに数時間後死んでいく・・しぶとい奴でも30時間も持たず絶命する・・あの壺一つで心臓3人分、20個近い魔石が出来る・・効率的だと思わないか?高知能魔獣20体の討伐にかかるリスクと労力・時間がたった3人の犠牲で二日と掛からず賄える・・・因みにあの死体の処理どうするか気になるか?」
「・・・うぷ・・(な、何の話を・・)」
場の雰囲気、血の匂い
異様な光景を目の当たりにした
アキトはそれどころではなかった。
しかしステフはお構いなしに続ける。
「いいか?大事な話なんだ良く頭にたたき込めよ、この製造方法でリベロットはかなり潤沢な魔石を所持しそれに比例して魔道具も製造し続けている・・それこそ掃いて捨てるほどの物量だ・・モルトフはそれを良い事に勝手に魔道具を使用した、それも二年前から始まったこの新しい製法ではない旧式の方をだ・・」
ステフはうずくまるアキトに近付き、
顔を覗き込むようにしゃがむと
続ける。
「理由は理解しないで良い、簡単なルール・・リベロットの製造している魔道具を勝手に使用するな・・ましてや魔石を持ち出す事は許されない・・まぁ触らない事だ、呪われてる・・」
「・・(の・・呪われてる?・・・)」
「リベロットは来るその時まで目立った行動は控えなければならない、むしろ解散したと思われるぐらいが丁度良かった・・何か個人的に事を起こすならリベロットの構成員であることは隠せ、魔道具は高額だが市販の物を自腹で買え・・」
少し落ち着きを取り戻した
アキトが、ステフに視線を移すと、
ステフは爽やかな表情で立ち上がり、
言う。
「よし、じゃぁ次はあの死体の処理場だ♪魔獣が旨そうにかぶりつくさまを見に行こう!」
「な!?・・・う・・うぷ・・」
~回想終~
~リデニア国首都クヨトウ南街~
~かぷかぷ~
「・・そんな施設が・・・」
ソロル達4人は南街の喫茶店“かぷかぷ”へ来ていた。
ナトスからRKWコロニーに有る
リベロットの施設がどんなものなのか、
説明を受けていたところだった。
「ね、社屋に戻る前に聞いておいて良かったでしょ?ピューネちゃんとかも居るんだし・・」
青ざめた表情のソロルに
ロレーヌはそう言うと、
コーヒーを口に運んだ。
王将官邸からの帰路、
帰る前に何処かで話を詰めておきたいと、
ロレーヌから提案があり、
ナトス「コーヒーでも飲むか・・」
ミノア「だね」
とナトスとミノアからの要望で、
ソロル達は“かぷかぷ”へ立ち寄っていた。
すまし顔でコーヒーを飲む
ナトスに視線を向けたロレーヌが、
続ける。
「まだ終わりじゃないわよ、さっきの会であなたが言った“儀式めいた行い”はソロルだけ知らない話だったから最初に説明してもらっただけ・・さっきの会はみんな目線わからないことだらけなんだから・・ちゃんと説明してもらうわよ」
「そうだよ兄さん、王様の家で食事をご馳走になるのは良いけどその場にはお嬢たちも来るんでしょ?たぶん今しかないよ、話をするのは」
先ほどの会でミノアが肉料理を要求した後、
テナクスは快くサキュリフィー邸での食事会を提案した。
その直後ナトスは追加で要求を出した。
ナトス「さらに4名・・追加で招待できませんか?」
ミノアの予想通り、
ナトスの言うこの4名はアンプレス達4名。
ピューネも含まれていた。
「・・そのつもりさ、社屋に戻ったら、以降ピューちゃん達も行動を共にする・・話が重すぎてとてもじゃないが皆の前では出来ないだろう・・食事会ではこの話に触れる必要がないのと、王将には合わせておいた方が良いと考えた為、食事会を提案した・・」
「え・・でもあんたが言ったんじゃ・・何か確認した後また話をしたいって・・」
ソロルがそう言うと
ナトスは答える。
「・・俺が話したいと言ったのは別の話だ、シェンター殿もさっきの会の本題は結論が出たと知っている、俺が今から説明するのと同じく、今頃テナクス王将とフィニクシーさんに話をしているだろう・・」




