第一部エピローグ:アンプレス&ミノア
~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨウトウ中央街~
~S&S~
S&S社一階、もともとギルド設営の為に建設された
この社屋は、トレーニングルームがあった。
そこで一心不乱に槍斧を振るうアンプレスが居た。
シュ!シャン!ザバン!!
振るうたびに汗を飛び散らせる。
「(・・必ず・・・この手で・・・)」
背面へ向けて槍斧を振り回した瞬間、
アンプレスは驚愕の表情を浮かべ、
ピタリと動きを止めた。
「(ミノア!・・・)・・当たったかと思って驚いたぞ・・」
槍斧の剣先ギリギリのところに立っていたミノアは
平然と返す。
「集中してるみたいで、声をかけるタイミング見つかんなかった・・」
「・・・ふぅ・・」
ザクッ。
アンプレスは槍斧を地面へ突き刺し
肩を回しながら言う。
「何か、用があったのか?」
「・・うん、まぁ・・さっきの様子が少し気になってね・・・」
~回想~
「えぇ!?それは困るのです・・・」
ミュウの困惑した声が響くと
ロレーヌが説明する。
「今日、事件があってね、そのせいで南街の宿泊施設は用心の為すべてクローズ、その煽りを受けて東・西・北の宿泊施設が満室状態、黒岩野営地にも影響出てるみたいよ」
それを聞いたソロルが言う。
「参ったなぁ・・小さい子供もいるし野営は絶対無い・・最悪おじいちゃんの所かな・・・それにしてもどんな事件なんですか?営業しなくなるような事件って」
「用心の為閉めてるのは動機が明確にわかっていないからよ、事件があったのは宿泊施設“夢々”・・・そこのマスターが殺害されたの」
ソロル/ユナ/ミュウ「えぇぇ!!」
「・・・そ、それって・・・」
「せ、先輩の・・」
ユナとミュウが狼狽えつつ呟くと
ソロルが追従する。
「わ、わたしが少し前まで拠点に利用していた宿泊施設・・・」
「あら、そうなの?S&Sにもその事件の調査依頼が来てるし、後で話を聞こうかしら」
「は、はぁ・・そんな事が・・・」
ソロル達が落ち着きを取り戻していくと、
ロレーヌは提案をする。
「・・冒険者価格、月々10万レアリー・・・」
一同「?」
「さっき言ったけど、ここには8部屋あるの、シャワールームとトイレが完備・・・どう?安くはないけどね」
それを聞いたアンプレスは質問を飛ばす。
「トレーニングルームの使用は?」
「お好きにどうぞ♪」
アンプレスは小さく拳を握ると
笑顔で答える。
「乗らせてもらう!俺とピューネの二部屋契約だ」
「OKよ♪ピューネちゃんは冒険者じゃないし、未成年だから無料で良いわ」
「ん?えらく気前が良いな・・何か裏でもあるのか?」
「まさか♪」
そのやり取りを見ていたピューネは疑問に思う。
「(??何でアンプレスさんが私の分まで??・・・)」
ロレーヌはソロル達に向けて続ける。
「っで、あなた達はどうするの?言っとくけど、一日二日で宿泊施設の状況は改善しないわよ、犯人が犯人なだけに、物取りとかの簡単な事件じゃなさそうだし」
それを聞いたユナが質問する。
「は、犯人ってそんなに大物なのか?動機が明確じゃないって・・・」
ロレーヌはサラッと答える。
「解っているのは犯人が“リベロット”ってだけ、噂では“夢々”のマスターが“リベロット”と裏で繋がってて粛清されたのでは?って話だけど、捜査が始まったばかりで解らないことだらけ、みんな怖いのよ・・・っでどうするの?」
「!!(リ、リベロットだと!?)」
ロレーヌの話を聞いた瞬間、
アンプレスの身体が硬直する。
それに気づいたミノアは思う。
「(・・・アンさん・・)」
~回想終~
「ふん、安心しろ、リベロットの名を聞いて特に思い詰めているわけじゃない・・」
「・・そっか・・」
アンプレスは続ける。
「・・俺は知りたいんだ、こうなってしまった理由を、何故孤児院が狙われたのか・・・今まで不思議とそこに視点が行かなかったが、今は・・・」
「気になってしょうがない?・・・抑えきれないほどに・・・」
ミノアの言い方見透かされたと思った
アンプレスは観念したように言う。
「ふん・・そうだ、今になって復讐心が強く湧いてくる・・・ただ・・抑える気はない」
「!!」
ミノアはビックしたように目を見開いた。
アンプレスは続ける。
「・・むしろ今まで“ピューネの保護”と言う名目で、抑えつけていただけかもしれない・・・俺はこの復讐心、強い怒りこそが俺の本質だと思っている・・・残念だったな、復讐など無意味だと俺を説得するつもりだったのだろが、聞く耳を持ってないぞ」
アンプレスは、怒りを納め復讐行動を止めるようミノアが
話しをしに来たと思い、釘を刺すように自ら言い放った。
しかし、アンプレスの思惑とは違い、
ミノアは話し出す。
「・・・“コハキ”のギルドでも言ったけど、僕は聖人でも何でもない、そんな説得する気はないよ、ここへ来たのはアンさんが僕たちの事を忘れてるんじゃないかなって思ったから」
「ん?忘れる?」
「遺跡で僕たちは“確固たる協力体制”を築いたんじゃなかったっけ?“親友”だよね?簡単な話だよ、アンさんの目的に協力すべきだと思ってる、だからそれを知る為に来たんだ」
アンプレスは鼻で笑い答える。
「フン、協力体制ね確かにあったな、どこまで本気かは知らないが、俺の目的は“リベロット”の壊滅・・・普通親友はそう言うの止めるんじゃないか・・」
ミノアは一拍置いて答える。
「・・・アンさん、僕も兄さんも“復讐者”なんだ・・・その復讐を終わらせないと、次に進めない・・・だからアンさんの事が理解できる、遺跡での協力の話、僕たちがアンさんに託した話は本気だよ、アンさんが次に進むためには、その復讐を終わらせる・・・」
アンプレスは真剣な目で話すミノアを見て、
鼻で笑った自身を恥じ言葉を失くす。
「・・・」
ミノアは笑顔で続ける。
「アンさんに復讐と言う重荷がなくなっていた方が、僕たちが協力体制を築くうえで提示したお願いを、アンさん自身が全うしやすいよね♪だから協力したいと思う方が普通でしょ・・・親友失格かな・・・」
ミノアがいつもの苦笑いを浮かべるのを見て、
アンプレスは語る。
「・・いや、ミノアは親友だ・・・俺は知らないうちに憎悪に押しつぶされていたのかもしれない・・・誤解をさせ不安にさせたかもしれないが、協力体制の話は俺自身本気だった、遺跡で言った俺の言葉に嘘偽りはない・・・しかし今、あの時の気持ちをないがしろにしてしまうほど復讐心に取りつかれていたようだ・・・申し訳ない・・・」
アンプレスの素直な謝罪を聞いて
ミノアは何も言わず笑顔を送り返す。
それを見たアンプレスは嫌味っぽく言う。
「なるほどなるほど、なかなかやるじゃないか、これで俺は勝手に動く事をしなくなったわけだ、結果的に俺の復讐行動の抑止をした形だな」
「え!?あっ、そうなるのか・・ごめんそんな気全然なかったよ、まぁ確かに勝手に危険な行為はしてほしくなかったけど」
素直に答えるミノアを見て
アンプレスはヤレヤレと言う。
「まったく・・良い親友を持ったって事だな・・・そんな親友さんに面白い話をしてやろう、技能の得意・不得意についてだ」
「得意?不得意?」
「そうだ、遺跡で“真鑑定・極”を疑われ詰められた時に思った事があるんだが、ミノアは三段目に“視”を持っているだろ?」
「う、うん」
ミノアが頷くとアンプレスは続ける。
「俺も“視”を持っている、そして・・」
ガチャ。
アンプレスが話を続けようとした時、
トレーニングルームの扉が急に開かれ、
ナトスが入って来た。
アンプレス/ミノア「?」
ナトスは中に居る二人に目もくれず
何やら辺りを見渡すと、
色々物色し始めた。
「(き、機嫌悪そう・・・あっ、そうか)」
少し苛々しているように見える
ナトスを見たミノアはある事に気付き
ナトスに歩み寄る。
「食堂のキッチンとかに鍋とかないかな?」
「うむ、形状的には使えるかもしれん」
ミノアはグローブを手に取り言う。
「こういうクッション的なものがあった方が痛くないかもよ」
「たしかに、耳の保護に仕えそうだ」
アンプレスは二人のやり取りを見て
一体何をしているのかわからなかったが、
自分が言おうと思った話の続きをしようと
ナトスにも声をかけた。
「ナトスも聞かないか?技能についての話だが」
グローブや帯紐らしきものを手に持った
ナトスがアンプレスの方を振り返り言う。
「因みに俺は“聴”を持っているが、話を聞こう」
「ん?あ、あぁ、技能の得意不得意についてだ・・」
ナトスが来る前の話を、
何故かナトスが汲み取ったのを疑問に思ったが
アンプレスは話を続ける。
次回よりS&S本編開始です。