第一部エピローグ:カーリー&ラーコス、ロレーヌ&ユナ
~異世界メジューワ、コパローナ国首都オニカ中央街~
~パンクティス邸宅~
コンコン。
カチャン・・。
「お連れしました」
パンクティス邸の使用人が
ラーコスを連れて、応接室へ入って来た。
「・・話を聞きましょう」
「急な事で申し訳ない・・・」
応接室に居たカーリーに
ラーコスが頭を下げると、
使用人は直ぐに退室していった。
「失礼しました」
カチャン・・。
「おかけに?」
「そうですなぁ、込み入った話ではありましょうなぁ・・・」
カーリーは椅子に座ると、
ラーコスを目の前の座席に促した。
「どういったお話ですか?」
カーリーの質問に座席に座りつつ
ラーコスは答える。
「タービの遺跡・・そこを踏破した者の調査が終わりましたので・・」
「ほう・・・」
カーリーは驚いたような表情を見せたが
すぐに薄笑みを浮かべ続ける。
「ラーコスさんの手の者は優秀ですねぇ・・もう調査が・・」
「ん?そうですかな?・・ゴミだと思い“デンスティア”の奥地に捨ててしまいましたよ」
「はぁ・・またですか・・・っで、どういった内容でしたか?」
頭を抱えつつカーリーが質問を飛ばすと
ラーコスはいきなり結論を飛ばした。
「結論から申しますと、作戦決行当日にこの者達がリデニア国内に留まるのは避けたいと考えております・・」
それを聞いたカーリーは不満そうな表情で威圧する。
「・・・それはつまり、リデニアの戦力を見誤って居たと認める発言ですよ?」
「そうですなぁ、それを認めぬと次の手を打てませぬからなぁ」
カーリーの威圧など、どこ吹く風と言わんばかりに
飄々と話をするラーコスに
カーリーはさらに不満を募らせたが、
威圧や怒りと言った感情は逆に消えていき
慌てた様に言った。
「ま、まぁ良いでしょ・・そ、そう思う根拠をお聞きしても?・・・」
「・・報告によれば、二十歳そこらで90Lv前後の冒険者パーティー、これはあまりにも成長が早い、対魔獣戦おいて有用な技能を持っているのでしょう、そう考えれば遺跡から60体もの魔獣を持ち帰れたのも頷けるでしょうな・・恐らく自身と同等かそれ以下の魔獣であれば多対一に強いやもしれません、効率よくレベルが上がっているのはその為・・・」
「今回あなたが用意する魔獣は3000体、全て100Lv以下・・・」
ラーコスは頷き言う。
「・・正直物量で押し切れるとは思います、あなたの“召喚”する高レベル魔獣が数体、それを率いる訳ですから後れを取るとは思いませぬが・・・念には念をと言った所でしょうなぁ」
カーリーは話を聞いて思案し呟く。
「(243Lvのアイアンルタインを倒しているパーティー・・さらに魔獣をまとめて削ってしまう様な技能持ちなら障害になりかねない・・)いかにして排除しておくか・・・」
その呟きを聞いたラーコスは言う。
「一つ、案がございます・・・明日にでも動いて頂く必要が出てきますが・・・」
~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨトウ南街~
~S&S~
ロレーヌは自室にて、
1枚の紙を眺めていた。
“ロレーヌへ業務依頼。
立て続けに申し訳ないが、緊急で会社設立を依頼したい。
なお、本依頼を最後とし、冒険者内諜報員の任を解く。
内 容:経験を活かし調査会社を設立せよ。
当該会社の所長として尽力せよ。
召喚者ナトス、ミノアを雇用し職を与えよ。
召喚者ナトス、ミノアに住宅を提供せよ。
召喚者ナトス、ミノアの目的を達成せよ。
難易度:※
補足・手順
社名は一任するが物件はこちらで手配済みで、
場所はクヨトウ南街KS2-18番。
物件の確認後、必要書類を手配し調査会社を登記。
その登記簿を持って所定の場所へ持参せよ。
※同封の懐中時計はナトスより預かった。
既に内通は済んでいる、
再度接触すれば概ね了承するだろう。
召喚者ナトス、ミノアの目的達成をもって、
本依頼の達成とする故、難易度は未知数。
以上 N/WA₂R”
「・・後は“対象”の捜索と異世界へ行く・・・“術”・・」
ロレーヌは少し寂しそうな目で呟くと、
その依頼書に火をつける。
依頼書が燃える最中、
もう1枚の紙を手に取り、
目を通す。
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発注書
依頼先:S&S社
依頼元:ノウビシウム家当主
シェンター・ノウビシウム
用 件:調査・捜査・警護の依頼
詳細は下記参照
記
〇アキト・トラフォールの調査並びに捜査
〇犯罪組織リベロットに係る事件捜査
〇ソロル・ノウビシウムの保護並びに警護
掛かる費用は全て請求されたし。
報酬は要相談。
担当:リジディ
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ロレーヌは依頼書の火が消えたのを確認すると、
シェンターからの発注書と、別の発注書2枚、
計3枚を手に持ち部屋から出て行った。
1階のカウンターロビーに来たロレーヌは、
ボードにある自分の名前の下にシェンターからの
発注書を張り付けると、残りの2枚を
ナトスとミノアの名前の下に1枚ずつ張り付けた。
「・・よし♪明日からのみんなの業務も準備良しと」
その光景をたまたま見かけたユナが、
ロレーヌへ声をかける。
「あれ?姉御、何しての?」
ロレーヌは笑顔でユナに答える。
「明日からの行動表よ行動表、営業活動も抜かりなし♪ちゃんとお仕事ゲットしてるんだから、まぁほとんどコネだけどね♪」
ユナはロレーヌの言う行動表の目をやると、
発注書にシェンターの名前を発見する。
「あっ!ボ・・・ソ、ソロルのおじいちゃんからの発注書・・・ははは」
シェンターをボスと呼びそうになり
慌てて言い直したユナだが、ロレーヌから
ジトリと見られて苦笑いを浮かべた。
「す、すみません先輩・・以後気を付けます」
ユナが少し落ち込んだように見えたロレーヌは
ため息を付きつつ言う。
「はぁ・・良いユナ?あなたは私の後輩じゃないの“後釜”よ、しっかりやりなさい」
「え!?あっ、そうか・・・姉御は良かったんですか?それで・・・」
ロレーヌはユナの質問の意味を一瞬考えたが
すぐに質問を返した。
「・・それは・・・冒険者の方?それとも諜報員?」
「え・・まぁ、その・・両方です」
ロレーヌは笑顔で答える。
「ふふふ、両方とも未練はないわ」
「そ、そうですか・・・」
「どうせあの時終わってた人生、ボスに拾われなきゃ・・・死んでた」
「え?」
ロレーヌはそれ以上話さず、
話題を変えた。
「そんな事よりユナ、もしかして自信がないの?」
ユナはドキッとしつつ答える。
「ッ!・・・まぁ、その・・そうです・・」
それを聞きロレーヌは真っすぐユナを見据え
檄を飛ばす。
「ユナ、あなたはこの世界に108人しかいない世界冒険者協会役員直属の部下なの、あなたの能力を評価しスカウトしたボスを信じなさい、今後はそれを念頭に置くの、あなた自身が自分の能力を疑わない揺ぎ無い一つの根拠として・・・」
「・・・」
黙って聞き入るユナにロレーヌは続ける。
「先輩として最初で最後のアドバイス、重要なのは“失敗”しない事・・“成功”させる事じゃない・・・」
話を聞いていたユナは
決意を新たに答える。
「・・た、確かに、自分には無理かもと断ずるのはボスの判断を否定する行為・・あのナトスさんと対等に渡り合うボスの判断と自分の判断なら断然ボスの方が信用できる・・・なるほど、何となくわかってきました・・」
それを聞いたロレーヌは笑みを浮かべつつ言う。
「ふふふ・・ボスだってあなたの甘ちゃんぶりはしっかり見据えてる、だから“最強の教官”がついてるでしょ?」
それを聞いたユナは突然肩を落とし
元気なく言う。
「姉御・・・それは凶悪の意味での“最凶”ですか?それとも恐怖の“最恐”?」
ユナの雰囲気が一瞬で変化したのに狼狽えつつも
ロレーヌは質問を飛ばす。
「え?え?・・何?・・・そ、そんなに厳しいの?」
ユナは間髪入れず答える。
「厳しいってもんじゃないですよ!最凶最悪最恐の“鬼教官”です・・・いや、鬼に失礼かもしれない・・・鬼も悪魔も彼の前ではその名がかすむ・・もうあれだ、ナトスさんは“ナトス”です」
「ん?え?・・あっ鬼じゃなくて“ナトス教官”?・・・ね?・・」
「あぁーもーそれ!しっくりくる!ナトスさんの“ナトス教官”っぷりはヤバいんですから!」
「よ、よほど追い込みを受けたみたいね・・・」
「それだけじゃないですよ!私なんか荷物扱いですよ荷物!その辺の荷物をヒョイって感じですよ!ショルダーですよショルダーバック!えぇ、えぇ、私は泣きましたよえぇ、人知れず涙を浮かべ」
「そ、そうなんだ?(これ長くなるヤツだ・・言ってる意味も分かんないし・・・どうしよう・・)」
「そうなんですよ!で、姉御聞いて下さいよ・・・」
暗く静まった一室。
窓辺に椅子を置き、跨るナトスは、
頬杖を突き呟く。
「・・えらい言われようだな(全部聞こえてるぞユナ・・・)」