胸騒ぎ①
~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨウトウ中央街~
~サキュリフィー邸~
役員会議の後、
例によってテナクスに呼び止められたシェンターと、
今回はフィニクシーを含めた3人が応接室で
テーブルを囲んでいた。
「・・まさか、本当に根回ししていようとはな・・・」
テナクスが愚痴っぽくそう言うと
フィニクシーが笑みをこぼして言う。
「でも・・ふふふ・・・王将が女神の加護ヘンアが見つかった話をした時のカーリー君主の顔・・・面白御座いましたね」
~回想~
「では、各々の国で準備等お願い致します、急な会議でしたが滞りなく進行出来ましたことに感謝いたします」
自身の議案が可決された事で上機嫌なカーリーがそう言うと、
会の終わり際を感じたテナクスが進言する。
「議長、最後に俺から皆に伝えなければならない事があるのだが、この場を借りても良いか?」
「えぇどうぞ、時間はかかりますか?」
上機嫌なカーリーがそう言うと
テナクスは答える。
「いや時間は取らせない」
カーリーはその発言を聞き
モニター越しに“どうぞ”とジェスチャーをした。
「・・皆に尽力してもらっていた“女神の加護ヘンア”捜索の件だが、昨日リデニア国内にて特定した」
「!!」
カーリーが驚愕の表情を浮かべる中、
各国の代表が各々感想を言う。
リャーラ国トゥーン皇帝「へぇ、良かったじゃん!」
チャチェー国レミーゼ統領「これはこれは、流石加護持ちじゃ」
ラジーリャ国ディンタス帝王「めでたいではないか、王将」
アモリア国チチウス首領「また平和に近づいたな・・」
最後にカーリーが言う。
「(特定!?保護していない?・・・)ち、因みにどなただったのですか?」
その問いにテナクスは即答する。
「いや、話すと長くなる、またの機会にするとしよう、今はただ皆に捜索の必要性が無くなったことと、礼を伝えたかっただけだ・・・改めて言う、尽力感謝する」
テナクスはモニター越しに頭を下げると、
会から離脱するようにモニターを消した。
~回想終~
「ふぉっふぉっふぉ、あの感じからしてもかなり“黒”かったのうぉ」
シェンターがそう言うとテナクスは
フィニクシーに視線を移し言う。
「コパローナに発見されていたら危うかったかもしれん・・・見つけてくれて感謝する・・」
「いえいえテナクス王将、頭をあげてください」
「・・がだ!」
ドキ!
フィニクシーはドキッとしつつも
苦笑いを浮かべ言う。
「ふふふ・・な、何でしょうか・・」
「遺跡へ行かせたのはいただけないな・・・」
頭をゆっくり上げながら怪訝な視線でフィニクシーに言う。
「ふふふ・・まぁそうでしょうが、私もあの時ある種使命感の様な物に突き動かされておりまして・・・申し訳ありません」
「ふぅ・・・」
テナクスは諦めた様にため息を付くと続ける。
「カーリーは女神の加護ヘンアが誰なのか知ろうとした・・俺の“特定”と言ういい方から保護していないと考えたのだろう・・・俺は今、シェンターの言葉を全面的に信用する事しかできん・・・」
「ふぉっふぉっふぉ、まぁそこは安心しなされ、遅くとも明日迄には顔を合わせる機会を準備します故・・・」
コンコン!
突然扉がノックされる。
「何だ?そのまま申せ」
テナクスが扉越しにそう言うと
使用人の声が聞こえる。
「はい、申し上げます。クヨトウ地区ギルド局長ヴィーロ・トレヴィーノ様からご連絡があり緊急でお会いできないかとの事です。まだ電話は繋がっておりますがどうなさいますか?」
「わかった、こっちで取る、下がれ」
「はい。承知しました。」
テナクスは机の上にある電話に歩み寄ると、
シェンター達に視線を送った。
シェンター「構いませんぞ」
フィニクシー「えぇ、どうぞ」
客人である二人に了承を得たテナクスは、
ヴィーロからの電話に出た。
ガチャ。
「どうした、ヴィーロ」
「王将!今からそちらへ行ってお話ししたい事が、捜査課も一緒です」
「うむ・・それは構わんが、何があったのだ」
「ある事件の犯人からとんでもない話を捜査課が聞きつけ、私に相談しに来たんですが・・私の負える責を超える問題だと判断しました」
「・・うむ、してどんな?」
「・・国家間の・・国際問題になりかねません・・・一緒に捜査課の話を聞いて頂けないでしょうか?」
「・・そうか・・政活者は必要か?」
「信頼の置ける人物であれば・・出来ればまだ、多くに知れない方が良いかもしれません・・」
「・・・」
テナクスはヴィーロの態度から胸騒ぎに襲われ、
シェンターの顔を一瞬見た。
「・・もしかして、コパローナ絡みか?・・」
「な!?・・何かそちらでも掴んでおられるのですか!?」
「・・・ふぅむ」
テナクスは重いため息を付くと続ける。
「・・政活者ではないが、信頼する人物を同席させる、良いか?」
「え、えぇそれは良いですが・・では今からそちらへ向かいます」
「・・うむ」
ガチャ・・
テナクスが電話を切り、
振り返るとシェンターが切り出す。
「・・実はいくつか・・会議の席で思った事があるんじゃが・・・」
「ん?何だ?・・」
テナクスが椅子に座りつつそう言うと
シェンターは続ける。
「ソロルは最近Bランクになったばかりじゃ、その為今回の武闘大会に招待される可能性が高い・・」
「何だと!?ま、まさかそれが狙いか!?カーリーはこの議案を可決させることでソロルをリャーラへおびき出したのか!?」
「!!」
狼狽えるテナクスと驚愕の表情を浮かべるフィニクシーを
他所に、シェンターは落ち着いて言う。
「カーリー君主の最後の態度で、そうでは無いと結論付けたので安心しなされ・・」
テナクス「そうではない?・・」
フィニクシー「シェンター・・それはどういう・・」
2人が困惑しているとシェンターは続ける。
「もしこの論が正だとするならば、カーリーの脳内でソロル=最近Bランクになった=女神の加護ヘンアと想定している事になる・・だとしたら、先ほどの反応はおかしかろう」
「確かに・・何も知らない感じは見受けられましたが・・・」
フィニクシーがそう言うとテナクスが言う。
「・・いや、演技だったのかも知れんぞ・・彼女は信用ならん・・」
「演技だったとするならば、何かを悟られぬよう隠そうとした事になるが・・・それならば他国の代表の様にあいさつ程度で留めておいた方が自然じゃ・・あの反応は、驚きのあまり素直に誰かを知ろうとしてしまった・・つまりソロル=女神の加護ヘンアを知らないと感じたかのぉ・・・因みにじゃがもう一つ根拠がある、それは先ほどの会で意見を出し合い取り決めたルールに“前倒しで今大会の終了まで、プラスワンランクへの昇格任務を禁ずる”と言うルールを提唱しなかった事じゃ」
「プレスワンランク?・・AからA´、SからSSへの昇格任務か?本来なら10日後の11月26日からそうなるはずだが・・その前倒し?」
テナクスがそう疑問を呈すると、
フィニクシーが気付いたように言う。
「あっ、確かにそうです・・それを前倒しにして、例えば“今日から”とかに取り決めておかないとB´ランクになってしまう可能性が出てきます・・ただでさえ武闘大会に招待されるのを煩わしく思う冒険者も居ますし・・今日にでも今大会の新たな枠組みの発表はされてしまう・・そうなれば現在Bランクの冒険者はランクアップ任務を受けてしまうかもしれません・・最近なった者であればあるほど」
「うむ・・確かにな、それをさせないためのルールを決めておかないと“最近Bランクになった女神の加護ヘンアを持つソロル”を確実に誘き出せなくなってしまう・・それをルールに盛り込んでいない事がこの論を否定する根拠か・・・」
「おっしゃる通りじゃ、故に一旦は安心して下され・・」
それを聞いたフィニクシーはふてくされた様に言う。
「人が悪いですよシェンター、であればこの話をそもそもする必要がありません」
「そうだぞシェンター、俺なんか肝を冷やすどころの騒ぎでは無かったぞ・・・」
テナクスも追従するように苦言を言うと、
シェンターはおもむろに語りだす。
「・・わしの思考の流れを知ってもらおうと思ってのぉ・・その方が、この後話す突拍子の無い仮説があながち暴論では無いとわかるからのぉ・・・」
「突拍子の無い仮説?・・・」
「まだ何か、この先の論をお持ちで?・・」
シェンターは頷きつつ、答える。
「・・カーリー君主の思惑を思案するには、正直材料は少ないがのぉ・・そんなの中、一番有力だと思えたのは今しがた話した論じゃった・・しかし、今話したようにわしの中でそれは否定されたわけじゃが・・一番有力じゃったからこそ、どうしても気になってのぉ・・」
「・・気になる?何がだ?」
テナクスが質問すると
シェンターは答える。
「当たらずとも遠からず・・・王将が言われたように“リャーラへおびき出す”の部分じゃ・・言い方を変えると“リデニア国内に居て欲しくない”誰かが居るのではないかと思うとる・・」
「国内に?・・居ないにしても大会の期間中、その短い間だぞ?それに今回カーリーが可決させた事で新たにリャーラへ行くであろう冒険者はCランクの実力者10名、それにBランク冒険者10名・・この中にそれが居ると?」
「私も今一ピンと来ません・・Bランクの冒険者も先ほどの論で不確定要素が大きいのです、Cランクも現在460万人以上居るのですよ?その内10名・・意図的に“誰か”など難しいのでは?・・・」
2人から否定的な意見が出ると
シェンターは頷きつつも続ける。
「ふむ、そうじゃな、お二人の言う通りじゃ・・じゃがわしは“誰か”よりも“何故”を重要視しておる・・」
「誰か?ではなく・・」
「何故か?・・・」
「そうじゃ・・ある種“胸騒ぎ”を覚えてのぉ・・・」
「(胸騒ぎ?・・・)」
テナクスは先ほどの電話で自身も胸騒ぎを覚えたのを思い出した。
「・・国家間問題・・・」
そして電話で聞いたヴィーロの言葉を思わずつぶやいた。
「え?・・」
フィニクシーが疑問の言葉を発すると、
シェンターは言う。
「・・・否定する材料を探したいのじゃがのぉ・・その意を込めて、今わしの仮説を伝えておくかのぉ・・・」
テナクス/フィニクシー「・・・」
2人が固唾を飲むように押し黙ると、
シェンターは言う。
「・・・侵略戦争じゃ」
~S&S社~
「ちょ、ちょっと!また増えてる!どうなってるのミノア!」
「ははは・・だね、6体目だね・・」
ナトスが魔獣を転送してから、
ミノア達はこれをどうするかで相談していた。
その最中、魔獣は徐々に増えていた。
焦ったソロルがミノアに歩み寄ると、
ミノアの頭を小突きながら、耳元で叫ぶ。
「もしもし!ナトス!これどーすんの!?」
キーン。
耳元で叫ばれたミノアは、困惑しながら言う。
「・・お姉、僕は電話じゃない・・・念を飛ばさないと・・・」
「ナ、ナトスさんに聞くのです・・これ以上はミュウと先輩で収納できなくなるのです・・」
「そ、そっか・・ちょっと待ってね・・」
焦ったミュウがミノアに言うと、
ミノアは“念話”でナトスに確認する。
『兄さん!これどんだけ来るの、無限?』
『残念ながら、今ので最後だ』
「今の6体目で終わりだって」
ミノアがソロル達にそう伝えると、
ミュウが安堵の表情を浮かべ呟く。
「ふぅ・・これをどうするのかなのです・・」
「普通に解体買取に下ろしちゃだめなのか?」
「これってナトスが業務上獲得したものだからS&S社の物でしょ?勝手に私たちがそんなことしていいのかな・・・」
ソロルがそう言うとアンプレスが普通に答える。
「勝手にって言うか、ミノアが居るが・・S&S社の社員だし、例の身分証を出せば後日ロレーヌ所長と一緒に報酬の受け取りができるはずだが・・・」
ソロル/ミュウ「・・・え?」
ミノア/アンプレス「え?・・・」
想像と違う反応を見せたソロルとミュウを
ミノアとアンプレスが不思議に思っていると、
申し訳なさそうにミュウが言う。
「わ、忘れていたのです・・ここでずっとおしゃべりしていたのです・・」
「た、確かにミノアはS&Sの社員だったわね・・・ご、ごめん私も忘れてた・・」
ソロルがそう言うと苦笑いを浮かべたミノアが言う。
「ははは・・酷いなぁ、僕はこれでも社を挙げた業務に就いてるつもりなんだけどね・・」




