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使えない力⑧

~S&S社、食堂~


「んしょ・・・?・・」

ピューネが2階の自室で服に着替え、

3階の食堂へ戻ると、難しい表情を浮かべた

ソロル、アンプレス、ミュウの姿が映った。

ピューネは恐る恐る苦笑いを浮かべ困った表情の

ミノアへ声をかけた。

「・・ミノア・・みんなどうしたの?」

「ぼ、僕のせいかな・・」

ミノアがそう答えると、

アンプレスが言う。

「・・ソロル、納得できたか?」

質問されたソロルは険しい表情のまま

ミュウに質問する。

「ん~・・・ミュウはどう?」

「まったくなのです」

「だよね」

ソロルとミュウのやり取りを聞いていた

ミノアは言う。

「ははは・・・説明が難しいんだよね・・・」

「説明・・・」

ピューネがそう呟くと

それに答える様にミノアが言う。

「僕と、兄さんの能力について説明してたんだけど難しくて・・特に兄さんのは僕に無い能力だし分かんない事も多くてさ」

それを聞いていたソロル達が言う。

「ミノアって、ナトスの小難しい話を分かりやすく補足説明してくれたりするじゃない?自分の説明を補足するように話してみたら?」

「そうなのです、それに一つ一つこちら側からの質問に答えてもらう形が有効かもなのです、多分ミノアさんは私たちが理解しがたい部分をわかっていないのです」

「そうだな、当たり前の様に“抵抗力”や“負担”と言われても納得いかないからな」

アンプレスがそう言うとソロルが切り出す。

「じゃぁ、ナトスの未来視から詰めてく?ミノア自身にない能力だから難しいかな?」

それを聞いたミュウが言う。

「いや、ミノアさんは“兄さんの精神的負担が想像を絶するもの”と言ったのです、そうなる状況を詳しく聞けば想像できるかもなのです」

「そうだな、具体例的なものを挙げつつ説明してもらえるか?」

アンプレスがミノアに問うと、

ミノアはしばし考え込み質問を飛ばす。

「ん~・・・あっ、そうだ、例えばさ、みんなが“先見”を持っていたとして、5秒後に目の前に居る大事な人が死んでしまうとしたらどうする?」


~樹海~

「恋人や家族、大事な人?」

ユナがナトスに質問するとナトスは答える。

「そうだ、何が何でも救おうとしないか?」

「そりゃそうだよ、そんな未来嫌だし、だからこそめちゃめちゃ使える能力になるじゃん」

樹海を疾走するナトスとユナも能力の話をしていた。

ユナの発言を聞いたナトスは質問する。

「・・・何故“そんな未来嫌”なんだ?」

「はっ?当たり前じゃん!大事な人なら悲しすぎるでしょ」

「そうだな・・・魔獣だ、接敵するぞ、戦闘準備・・・」

失踪する二人の目の前に猿魔獣オランアームレッドが立ちはだかる。


~S&S社~

「その大事な人を失う悲しく苦しい気持ちって経験ある?」

ミノアが皆に問うと、それぞれが答える。

「・・俺はある・・二度とあんな光景見たくない・・・」

アンプレスが答えるとミュウが言う。

「ミュウは・・ないのです」

「・・・」

ソロルは答えなかったが、

思うところがあるような表情をしていた為、

ミノアは続ける。

「“先見”の能力はその時の感情、苦しみ、その光景をリアルに感じるって兄さんは言ってた、あぁしていればよかったとか、こうしていればよかったとか、そう言う考えも詳細に記憶として残せるからこそ、最善の手が打てるって・・自分の望む未来にする為に・・・」


~樹海~

「キャエェェ!」

オランアームレッドは断末魔をあげ力尽きる。

「107Lvぐらいなら危なげないな」

「レベル差20以内なら基本問題ないかな♪相手が高知能ならこうはいかないだろうけど」

ユナは自信ありげにそう言うと、続ける。

「・・話は戻るけど、やっぱり最善の手が打てるって使えると思うけど・・・何でゴミ技能になるんだ?」

ユナがそう質問すると、ナトスは一拍置いて語りだす。

「・・ユナ、俺は今お前が“空間魔法”を持っていなかったのを思い出し、何かいい手はないかと思案していた」

「え!?あっ、この魔獣・・・確かに」

ユナがそう言うとナトスは続ける。

「仮に今の状況を5秒前に知りえたとして、何か最善の手は打てたか?」

「はぁ?」


~S&S社~

「なるほど、そう言う事か・・」

アンプレスが理解出来た様に呟くと、

ソロルも追従する。

「・・5秒じゃどうにもならない事もある・・・」

それを聞きミノアが続ける。

「樹海で大猿の奇襲攻撃を兄さんが止めた時、その攻撃の軌道上にはお姉が居た・・・兄さんは見たはずだよ、お姉が無残に切り殺される未来を」

それを聞いたソロルが青ざめる中

ミュウが言う。

「5秒じゃどうにもならない状況だったらと思うとゾッとするのです・・・でも、その場合、ナトスさんはどうしたのですか?・・・」

その問いにミノアは一拍置いて語りだす。

「・・それがこの能力を捨てたいと思わせるほど“精神的に苦しめる”キモかな・・」


~樹海~

「・・そ、そんなの受け入れらるわけない!」

足元に転ぶ魔獣を他所に、ユナの声が響く。

「・・みんなそうさ・・大事な人であればあるほどな」

「・・・」

何も言わないユナにナトスは語り掛ける。

「・・その場合、選ばなければならない・・・大事な人がどう死ぬかを・・・」

「え!?・・どう死ぬか!?・・・」

「この能力で“先見”している間、ほとんど時間は経過しない、いや、正確に言うと現実世界ではほんの一瞬で5秒を体感していると言える・・・そしてそれは何度も繰り返せる、パターンを変えて何度もな・・・」

「だ、だとしたらなおさらだよ・・・助かるパターンを探す!諦めきれない・・」

ナトスは一拍置いて言う。

「・・・その間、何度も見る事になる・・・大事な人の死を」


~S&S社~

「・・・耐えられるわけない・・・」

“二度とあんな光景見たくない”と感じている

アンプレスがそう呟くと。

ソロルもミュウもピューネも言葉を失った。

「・・どうあがいても助けられない大事な人・・・到底受け入れられない兄さんは、数えきれないパターンを見たはずだよ、僕だってそうすると思うからね・・・」

「・・・そして最後は・・・」

ソロルがそう呟くと、

ミノアは続ける。

「・・兄さんの頭髪は、元々僕と同じような色だった・・兄さんの大事にしてる人が僕らの目の前で死んだとき、一瞬で今の灰色の髪に変わってた・・・兄さんの大事にしていた人は、安らかな死に顔だったよ・・・」


~樹海~

「この力は有限・・700を超えるパターンで約一時間近くその死を見る事になる・・・慣れる事等無いその悲しみと苦痛を感じ続けると、人はどうなると思う?」

ナトスの質問に狼狽えつつもユナは答える。

「ゆ、有限・・・そ、そっか・・助けられる手段が見つからなくても終わりはやってくる・・・そ、そんなの精神的に耐えられない・・・想像しただけでもおかしくなる・・・」

「そうだな・・・しかし俺の精神は辛うじて踏みとどまっていた・・・腹立たしい事に最後の選択をしてもなおな・・・」

「・・最後・・大事な人の安らかな死・・・私は多分選べない・・・そんなの選びようがない・・・」

「・・・」

ナトスは何も言わず横たわる魔獣を見て話を変える。

「おしゃべりはここまで、仕事を終わらせよう・・」


~S&S社~

「そうじゃないとわかっていても、まるで死刑宣告したような錯覚を覚えるかもしれないのです・・・」

「・・確かにね・・・」

ミュウの言葉にソロルが同意するとミノアが続ける。

「その記憶は兄さんに、今でもしっかり残っているんだ・・そして怖れてる、また同じ状況が起きるんじゃないかって・・兄さんが捨てたいと言ったのは本心だよ、この能力で見た記憶もすべて捨てたいんだと思う」

「納得したのです・・・」

「・・そんな能力なのね」

ミノアの説明を聞いてミュウとソロルが同意する中、

アンプレスは疑問を口にする。

「・・どうだろうか・・・それでも俺はその能力を高く評価してしまう・・・」

「・・いや、強力な能力なのは認めるよ、今言ったような状況何て稀でしかないわけだし」

「いや、そう言う意味で言ったわけじゃない・・」

アンプレスはコーヒーを一口飲むと続ける。

「俺は今でも後悔している、大事な人達を助けられなかったことを・・・どうあがいても助けられなかったかもしれない、でも、痛みや苦痛の少ない最後を選んであげられるならそうしてあげたかったと思えてしまう・・・」

「ん?」

ピューネは一瞬アンプレスと目が合い、

不思議に思った。

しかしアンプレスは何もなかった様に続ける。

「同じような事が起きるのなら俺は後悔したくない、出来る事は何でもする、例え精神が崩壊しても最大限あがき、最後は安らかな死を選んであげたい・・・そんな気がするんだ・・・だから捨てたいと思えるのは納得いかない・・・」

どことなく感情的になっているアンプレスを見て

ミノアは直感的に孤児院虐殺の過去が想像以上に凄惨なものだと

思い、その考えを否定することなく語りだす。

「・・アンは精神的に強いんだね、兄さんもそう・・・神アルモニアさんの言葉を借りるなら、類稀なる精神力・・・兄さんの精神が崩壊する事はなかったよ・・だから・・・いや・・・何でもないや・・・」

歯切れの割ミノアに一同が?を浮かべていると、

ミノアは続ける。

「ねぇ、アン、今はたとえ話で大事な人で考えてたけど、これをさ・・・ん?」

ミノアが何かの話を続けようとした時、

不意に屋上の方を見たのにつられ、

皆も視線を向けた。

ピューネ「え!?怖い!」

ミュウ「何なのですか!?」

ソロル「アームレッド!?」

アンプレス「の死骸・・・」

そこには忽然と猿魔獣オランアームレッドの死体が転がっていた。

「多分兄さんたちだね、“瞬間移動”で魔獣だけ送りつけてきたかな?」

ミノアがそう言うと“念話”が届く。

『ミノア、届いたか?』

『大猿ならみんなの度肝を抜いてるよ』

『ユナが倒した魔獣だが、“空間魔法”がなくてな、移送しておいた』

『みんなに何て説明すんの、これは兄さんが蒔いた種でしょ』

『何言ってる、お前の説明がしやすくなっただろう、ありがたく使っていいぞ』

『え、そうなの?』

『あぁ、じゃぁな、仕事に戻る』

「これナトスがやったの?」

ソロルがミノアに質問すると

ミノアは答える。

「え?う、うん、ユナさんが倒したらしいけど、持ち運びできないからってここに転送した見たい・・・度々僕らが使ってる“瞬間移動”の能力だよ」

「さっきは疑問形だったのです、何で今は言い切ったのですか?ユナさんが倒したのも、誰かから聞いたみたいに言ったのです」

ミノアの言葉にミュウが突っ込みを入れると、

アンプレスが思い出したように言う。

「ん?もしかして“コハキ”のギルドで聞いたミノアとナトスの間でだけ使える意思疎通技能か?」

「あぁ確かに言ってたわね、じゃぁ今ナトスから聞いたのね?」

「う・・」

ミノアが声を発すると同時にミュウが質問を飛ばす。

「ミノアさんとナトスさんの間でしか使えないと言っても何処に居ても意思疎通ができるのは凄いと思うのです、これも使えないって事なのですか?」

「それにこの瞬間移動は疑いようの余地もなく使える技能だろう?使えない意味が全然だぞ?」

「ちょ・・えっと・・」

ミノアが声を発すると同時にソロルが言う。

「そうよ、さっきは“抵抗力”がどうのこうのって言ってたけど、私だって“転移技能”習得しようと今でも頑張ってるのに!贅沢よ!」

「ぜ、贅沢!?」

ミノアが困惑していると

ミュウとアンプレスも続く。

「そうなのです!その“念動力”って能力も最強の魔法士っぽくて羨ましいのです!」

「そうだぞ、他にどんな能力持ってるんだ?ナトス特有が有るならミノアも特有の能力が有ったりするのか?え?どうなんだおい?」

「ストーップ!ストップ!ちょっとみんな落ち着いて!」

質問攻めにあっていたミノアが皆を静止すると、

一瞬静寂が生まれた。

その時ボソリとピューネが言う。

「好きな人を虜にするような能力が欲しい・・・」

一同「!!」

ソロル「ピューネちゃん?・・」

アンプレス「(それは俺も欲しい・・)」

ミュウ「ふん(ガキの発想なのです・・)」

ミノア「ははは・・・(出来ない訳じゃないけどね・・・)」


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