使えない力④
スパン!
一同「え!?」
犯人Eの頭が宙を舞う。
ナトスが“忍刀”でいとも簡単に切り落としたのだ。
ナトスはそのまま犯人Aへ歩み寄る。
「え!?・・ちょ、ちょっと・・・」
スパン!
ロレーヌが状況を理解する間もなく
ナトスは息を吐くように、犯人Aの首を落とした。
「(・・犯人をいとも簡単に殺した・・・ど、どうい事なの・・・)」
ナトスはロレーヌの困惑した表情に気付くと、
犯人Bへ歩み寄りつつ言う。
「・・・何やら誤解を招いてるかもしれないが・・・」
ナトスは犯人Bの首筋に“忍刀”を振り下ろした。
シュッ。ピタ!
「・・・(俺も・・・まだまだか・・・)」
先ほどまで恐ろしい切れ味を発揮していた“忍刀”は
犯人Bの首に浅く入り込んだ状態で止まっていた。
ナトスは“忍刀”を再度振りかざすと言う。
「・・・この武器の殺傷能力は非常に高い、いとも簡単に人の首なら落とせる・・・」
ナトスは腕に力を籠め、
犯人Bの首に、再度叩きつけた。
ゴッジュチャ!
首はくの字にへし折れ、
腕力に物を言わせたナトスの斬撃で引きちぎれるようにもげる。
「フー・・・このようにな」
それを見ていた犯人たちは恐怖におののく。
そしてロレーヌ達はナトスの言動に困惑していた。
ナトスは続ける。
「まぁ、冗談はさておき、ある条件下ではこの俺でさえ切りづらくなる武器ではあるが、前の二人みたいに本当は簡単に首が落とせるほど殺傷能力は高い」
ナトスはパティーに視線を向け再度尋ねる。
「実はあまり時間がない、4人目を選んでくれ」
それを聞いたパティーは我に返ったように反応する。
「・・えっ、あっ・・本当は全員殺したいけど、一人ならそいつにする」
パティーは犯人Dを指さし言い放った。
犯人D「・・ヒィ・・・・」
「・・そいつは何度も私を・・・ついさっきも・・・殺して!」
「自分でやらなくて良いのか?」
「・・あなたみたいに無理やり頭を落とすなんて出来そうにないわ」
「そうか・・・そうならない事もあるが、今は時間が惜しい」
ナトスはそう言うと犯人Dの背後に移動し拘束を解除した。
犯人D「(んあぁ!?)か、身体がうごッギャァ・・・」
空中で一瞬拘束が解けたのを感じた犯人Dだが、
その瞬間首に走る痛みを感じる。
ナトスはいとも簡単に犯人Dの首を切り落としていた。
切り離された犯人Dの頭は苦悶の表情で歪み、
パクパクと口を動かしていた。
胴体は血があふれ出る首元を両手で抑え、
バタバタをのたうち回っている。
ナトスはそれに一切の興味を示さず、
“忍刀”を一振りすると血を振り落とした。
ナトスは背負う鞘に“忍刀”を納めながら
ロレーヌに歩み寄る。
「所長、実はあまり時間がない、恐らくモーフィスと言われる人物がそこまで来ている」
ロレーヌは痙攣し動かなくなった犯人Dの死体を見つつ
遅れながらも反応する。
「・・・え・・えぇ・・あっ、ど、どうする?」
ナトスはロレーヌの手から首飾りを一つと、
女性たちを拘束していたロープを一本取ると、
生き残っているリーダー格の男と犯人Cを指さし
ロレーヌに言う。
「あいつらに残った首飾りをかけ、ロープで拘束を、ここに転がる死体を収納する事は可能か?」
「しゅ、収納?あっ“空間魔法”ね、だ、大丈夫よ、まだ余裕はある・・」
まだ困惑気味のロレーヌがそう言うと
ナトスは心配そうに言う。
「大丈夫か?・・無理はしなくていい、俺は直ぐに戻ってくる・・」
その言葉を聞いたロレーヌは不安そうに言う。
「ど、何処に行くの?」
「・・モーフィスを拘束してくる、連れ帰る3人目だ」
ナトスは首飾りとロープを目線の高さに
持ち上げつつ笑顔でそう言うと、
音もなく消えた。
「な、なんだこれ・・・」
待ち合わせの場所に到着したモーフィスは
アジトの外壁に大きな穴があるのを見て驚きの声を漏らす。
「(何があった!!)」
モーフィスは警戒心を最大にし、
慎重に建物へ近づき、中を覗いた。
露出度の高い冒険者の女性が、
毛布に身を包んだ女性に何かを手渡した後、
空間魔法を発動するのが見える。
「(あいつらやらかしやがったな!)」
死体が収納されるのを見て
モーフィスがそう思っていると。
まだ生きている部下を発見する。
毛布に身を包んだ女に、
抵抗する事もなく魔道具を首からかけられ、
後ろ手に縛られようとしていた。
「(何やってんだあいつは!拘束された時点で情報漏洩を防ぐため自害するように言われてるだろうが!!仕込んだ毒はどうした!!ひよりやがったな!!)」
モーフィスに一つの疑問点が浮かぶ。
あの冒険者の女が一人でこれだけの事をやってのけたのか。
「(いや!ありえねぇ・・仲間が居るのか!?だとしたらどこに・・・はっ!)」
モーフィスは背筋が凍る。
すぐ背後に人の気配を感じたからだ。
モーフィスが振り返った瞬間、
首にジャラっと何かがかけられ
体の力が抜けるのを感じた。
「ぐっ・・(呪いの魔道具!?)」
モーフィスはそれに気づくと
背後に立っているであろう人物の顔を凝視した。
拘束されると感じたモーフィスは、
歯に仕込んだ毒をかみ砕こうとしたが、
背後に立っていた男の声が聞こえ、それを止める。
いや、実際その男の声なのかどうか、
モーフィスはわからなかった。
自分を覗き込むその男を
モーフィスは凝視していた。
口元が動いていないのをモーフィスは見ていた。
しかし確かにその男の声が頭に響いた。
『自殺する事は出来ない』
ナトスは気を失ったモーフィスを縛り上げると、
ロレーヌ達のもとに歩み寄り声をかけた。
「クヨトウに戻りますか?所長」
「ナトス・・・」
ナトスの声に安どの表情を浮かべたロレーヌだったが、
いつもの調子で答えだした。
「そうね、保護した彼女たちをすぐにでも治癒院へ連れて行くべきだと思うわ、そこから安全保障部に通報、ベネーさんに報告ね」
「承知した」
~30分後、AM9:30~
~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨウトウ南街~
~世界冒険者協会南治癒院~
クヨトウの南街と中央街のほぼ境目に位置する治癒院。
待合室に座るロレーヌに一人の男が話しかける。
「S&S社所長のロレーヌさんですね?」
ロレーヌは声をかけてきた人物の顔を見上げ
ため息を付きながら答える。
「はぁ・・ブロード・・・あなたがこの事件の担当とわね・・・」
「まぁまぁロレーヌさん、そんなにつれない態度をとっても、私の気持ちは色あせる事は有りませんよ」
ブロードがロレーヌの目の前の椅子に座りながら言うと
ロレーヌはめんどくさそうに言う。
「はいはい、どうでもいいから仕事したら?」
「おっと、そうだった、仕事でしたね・・まぁ形式上の事ですが・・」
ブロードはわざとらしく姿勢を正すと言う。
「S&S社ロレーヌ所長、この度の通報並びに事件解決の糸口を提供して頂き感謝いたします」
「別に感謝は不要よ、仕事として依頼を遂行したまで・・」
ロレーヌの冷たい態度を意に介さず、
ブロードは笑顔のまま続ける。
「生存していた犯人3名はこれから本部で取り調べが始まりますが、事件を引き継ぐうえで、いくつか質問をしたいのですがお答え願えますか?」
「はいどうぞ」
「安全保障部捜査課課長ブロード氏の気持ちを、そろそろ受け止めてはどうでしょうか?」
「ノーサンキューよ、次、事件と関係ない話をしたら帰らせてもらうわ」
ブロードは間髪入れず冷たく言い放つロレーヌに
降参したように両手を挙げて見せた。
「そうでしたそうでした、事件の話を・・・実は先ほど肝を冷やしましてね、遺体安置所にある死亡した犯人の死体・・・4人全員の遺体を軽く確認したのですが、毒物が仕込んでありました」
「毒物!?」
「あら、御存知ない?奥歯でかみ砕き服毒するためのものでしょう・・・まぁ死んでいるので、残っていて当然ですが、4人全員なら、生存している犯人も当然仕込んでいるはず・・・」
「・・・(自殺防止・・・)」
何も言わないロレーヌにブロードは続ける。
「ヤバイと思いましたよ、捜査課の人間が現れれば、取り調べの前に死なれるかもしれませんからね・・・正直手遅れかと思ったのですが・・・」
ブロードはポケットから毒袋を3つ取り出し続ける。
「捜査員に連行される中、まだ生きていました・・口を開ける様に言うと3人とも素直に応じる始末・・・この通り簡単に回収出来ました」
「・・・良かったじゃない・・っで、質問は何なの?」
「いえいえ、私の考えすぎだったようです、所長さんはこの毒袋の存在を本当にご存じなかったようなので・・・(少なくともあなたはね・・・)」
「あらそう、ならこれで終わり?」
「あぁ、もう一つだけいいでしょうか?」
「・・事件の事よね?」
「えぇもちろん・・・報告では、もう一人現場に居た人物が居ますのよね、社員さんでしたか・・・今どちらに?」
「・・・さっきも言ったけど、これは依頼された仕事、依頼者に現状の報告をしに行ってるわ、その後まだ仕事するみたいね」
「ベネーさんの所ですね、確かに“現状”と言ういい方からもまだ依頼は完了していないのでしょうが、これだけの事があった後にまだ仕事を?」
「そうね、うちの社員は誰かと違って仕事熱心で真面目なのよ」
「はて、誰の事か見当もつきませんが・・・残念でしたねぇ、その方にも話しを聞きたかったのですが・・・」
「私で充分よ、聞きたかったことって何?」
ブロードはしばし考え込み話し出す。
「ん~・・・まぁ、確かに・・・その方が素直に回答するとも限りませんしね、所長さんにお聞きしますか・・・」
「・・・」
なにも言わないロレーヌにブロードは続ける。
「・・犯人ですが・・・殺す必要ってありました?」
「・・・(まぁ、突っ込まれるとは思っていたけど・・・)」
「あれ?聞こえました?」
ロレーヌはヤレヤレと言わんばかりに言う。
「はぁ・・・生きて連れ帰った犯人は首に魔道具を付けてる、元々犯人グループが監禁していた女性3人に付けていた物よ、魔力操作を封じ、恐らく肉体強度も下げてしまう魔道具・・・私と社員の2人で彼女たちを保護し安全に戻る為には犯人グループ7人は多すぎ・・・たまたま入手した魔道具だけど使わない手はない、3人までなら安全に連行できるでしょ」
それを聞いたブロードは、
わざとらしくポンと手をたたくと言う。
「なるほどなるほど、犯人の逃走、反撃、人質を取られるなどのリスクを完全に排除するには、首飾りの数からあふれた犯人を殺しておくのは合理的かつ必要だったと感じますね、それも事実でしょう・・」
「(それ“も”?・・・)」
ロレーヌはブロードの言い方に違和感を覚える。
「・・・さきほど言いましたが、犯人の遺体を軽くですが確認してます、軽く一目見ただけで、その死因は簡単にわかりましたよ、みんな共通していましたから・・・ただ共通していない部分もありました・・・ほぼ無傷で首だけ落とされた遺体もあれば、足も切り落とされ腕も肉の皮1枚で繋がった状態でかつ首を落とされた遺体まで様々・・・何が言いたいか分かります?」
「さぁ、見当もつかないわ」
「そうですか・・・」
ブロードは一拍置いて続ける。
「・・・これは私の持つあなたに対する人物像と大きくかけ離れてしまっています、恐らくこれを主導したのは社員さん・・・しかし所長と言う立場でありながら社員の行いを許容している・・いや、許容していないのか?」
ブロードが勝手に悩み、
頭に?を浮かべる中ロレーヌは思う。
「(許容してるわけないでしょ!私だって聞きたい!全部、細かく、一から10まで何を考えてるのか!ナトスと言う人物をどう認識すればいいのよ!)」
ボフ!
ロレーヌの拳が椅子のクッションにめり込んだ。
ロレーヌのイライラが表情や態度に出ているのを
感じ取ったブロードは、恐る恐る話し出す。
「き、気になるところではありますね、あ、あなたと社員さんの関係性が・・・しかしまぁそれは事件に関係ない事なので置いとおくとして、やはりこれ以上はその方に話を聞いた方が良さそうだと私は思っています」
苛々しているロレーヌは
ぶっきらぼうに言い放つ。
「あっそ、じゃぁ帰って取り調べでもしたら、まっ犯罪者の話なんて、どこまで信じられるかわかったもんじゃないけどね」
ロレーヌは理解していた。
生きて連行した犯人はあの場で何があったのかを知っている。
ブロードの話にもあったように、
何故か素直に応じる犯人たちは、
取り調べで聞かれたら素直に話すだろうと。
しかし自分はそれを話してはいけない。
犯人たちの証言を認めてしまうからだ。
まだ、犯人たちのでっち上げ嘘で押し通せる。
「被害にあった女性にも事の経緯は聞かなければなりませんが、確かに今はまだそれが出来る状況ではないでしょうね・・・」
ブロードはそう言うと立ち上がり続ける。
「遺体を収容して、私も本部へ戻ります」
「私も会社に戻るわ」
ブロードは振り返りつつ言う。
「事件解明の為、お話を伺いに御社へ行くやもしれません、その際は毛嫌いせず、捜査協力をお願いしますね」
「捜査協力はするは、毛嫌いされても別の理由だから安心して」
間髪入れずロレーヌがそう言うと、
ブロードは後ろ手に手を振りその場を後にした。
「・・・(どうすんのよナトス・・・)」
ロレーヌは大きな懸念があった。
それは保護した女性3人が証言する恐れがある事。
「(・・・バレたら協会処分・・・おそらく倒産は免れない・・・)バカナトス・・・」
ロレーヌは天を仰ぎそう呟いた。




