使えない力②
ロレーヌは視界で木々の並びが変化し、
また移動したのを感じ取ると周囲を見渡した。
ナトスの視線の先に、
動かない冒険者を発見する。
ロレーヌは死体がある事に、ある懸念を抱き、
険しい表情を浮かべる。
ロレーヌが一歩死体に近付こうとした時
ナトスが言う。
「言っておくが、近くに3mほどの魔獣が近付いてきているのも感知している・・・気を付けろ」
「・・・あたりを死臭が漂ってるからそれにつられたのかもしれないわね・・・DランクなのかCなのか、ランク章を見ればわかるの、どちらのパーティーか調べたいし、死因も確認したい」
「承知した、魔獣は俺に任せろ」
ナトスはそう言うとその場から姿を消した。
ロレーヌは布で口元を抑えながら死体に近付く。
首元からランク章を引き出すと、
それは鼠色の鉛で出来ていた。
「(“クレイ”・・Cランク・・・)」
ロレーヌは立ち上がり手帳を取り出すと、
ベネーから得ていた情報と照らし合わせる。
「(後発パーティーの転移士・・・)」
「人的なものか?」
背後からのナトスの呼びかけにロレーヌは振り返る。
ナトスはオランアームレッドの死体の上に立っており、
手には胴体から切り離された首がぶら下がっていた。
ロレーヌはその光景以上にナトスの言葉が気になっていた。
それはロレーヌが感じていた“ある懸念”そのものだったからだ。
「・・そうね・・・遺体にある傷からも、鋭利な刃物である可能性が高いわ・・・そもそも魔獣に襲われた場合遺体は残らない、彼みたいに原型をとどめる事はまずないわ・・・」
「・・事件か・・・早急に報告する必要性があるのだろうが、この大猿もこれで3体目・・・ベネーさんの言う通りどこから来ているのか調べる必要もあるだろう・・・」
「そうね・・・だけど遺体をこのままにしては、寄ってきた魔獣に証拠ごと荒らされてしまう可能性もあるし・・・私が回収するわ・・“空間魔法・収納”」
ロレーヌが遺体に手をかざし魔法を発動させた。
「それは人間も収納できるのだな」
ナトスがそう言うとナトスの方に手をかざし
ロレーヌは言う。
「生き物以外よ、スルーしてたけどあなたの足元の生き物以外も収納したいのだけれど、どいてくれる?」
ナトスは魔獣の頭をその場に置くと
その場から飛びのいた。
ロレーヌが魔獣を収納するのを見届けると、
また進行方向を向き言う。
「捜索を続ける」
ナトスは感知範囲を展開すると、
レーダーの様に前方をなぞった。
そしてある方角でピタリと動きを止めた。
それを見ていたロレーヌが言う。
「何か見つけたの!?」
ロレーヌのその言葉は、
ナトスには届いていなかった。
女「ね、ねぇトイレに行きたいんだけど」男「おら!またここに居ろ!」女「いや・・はなして」男「そろそろモーフィスさんが来る頃か・・」男「親のそう取りだ!」男「んだよ、しょうがねぇなぁ」女「・・殺して・・」男「イカサマでもしてんのかぁ」男「誰に売り飛ばしてるんだ」男「えへへへ、またあとでたっぷり遊んでやるよ」女「・・殺す・・・」
「ナトス!ねぇってば!!」
ロレーヌの言葉に気付いたナトスが
技能を解除しつつ言う。
「あ、あぁ・・・犯人を見つけた」
「え!本当に!?」
ナトスは頷き続ける。
「後から一人合流する可能性が高そうだが、現状生きている人間が9人・・・4つの建物が並ぶエリアがあり、その一番大きな建物内に居るようだ・・・おそらく犯人は男6人、そして・・・拘束され、ネックレス以外何も身に付けていない女性が3人・・・」
「女性は裸って事!?」
ナトスは頷き続ける。
「・・・女性たちは、想像通りの行いを、男達から受けている可能性が高い・・・屋外には3人の死体、恐らく男性だろう・・・」
その話を聞きロレーヌは又手帳でベネーからの情報を確認する。
「(失踪している冒険者は全部で7名、うち女性が3人・・・遺体の数はさっき見つけたクレイを含めると男性4人・・・)で、でも何でこんなことに?犯人の目て・・」
「関係ない・・・」
ロレーヌの言葉を遮るようにナトスが言うとそのまま続ける。
「ロレーヌ・・・犯人の処遇に関しての一切を俺が判断する、それを飲んでくれないだろうか・・」
ロレーヌはナトスの発言の意味が何となく理解できた。
ナトスの表情が冷酷に見えたからだ。
「あなた・・まさか・・・」
「・・因果応報・・・目には目を、歯には歯を・・・それ相応の報いは、受けるべくして受けてもらう・・・」
ロレーヌはナトスがやろうとしている事が何なのか、確信に変わる。
ナトスは犯人たちを生かしておかない、殺すつもりだと。
そしてそれを必死に説得しようと試みる。
「だ、駄目よナトス、あなたの気持ちには感謝するわ、この世界の女性の為、殺された
冒険者の為、そこまで怒りを露わにしてくれたこと、その優しさに・・・でも犯人は生かして捕らえる、その目的を、事件の全貌を解明するための証人でもあるの」
「ロレーヌ・・・」
ナトスは冷酷な表情のまま続ける。
「俺は犯人に微塵も興味がない、何の為にこんなことをしたのか、事件の全貌等どうでもいい、犯人を目の前にしてその手の問答を一切しないし、する気も無い・・・もっと言うなら、今ここでお前とのこの問答も不要と思えている、俺の気にしている事はただ一つ、お前が俺の要求を飲むのか飲まないのか・・・」
ロレーヌは不穏な空気を感じ取りつつ、
ボスであるシェンターの言葉を思い出していた。
シェンター「ふぉっふぉっふぉ、まぁ一見難しそうな相手に見えるかのぉ・・」
シェンター「簡単なのはそうじゃのぉ・・要求を飲んでやる事かのぉ」
シェンター「そもそもそんなに要求はしてこんじゃろ、よほどのことが無いとのぉ」
シェンター「・・恐らく自身の“美学”とも言える何かに触れる時かのぉ」
シェンター「主義主張の元要求が飛んで来るやもしれんのぉ・・」
シェンター「ん?何故要求を飲むのかじゃと?」
シェンター「ふぉっふぉっふぉ、それこそ簡単じゃ、そもそも敵う相手じゃなかろうて」
シェンター「要求と言う形を取る事自体、弱者への配慮・・・それほどまでの強者・・」
そしてロレーヌは気付く。
“それを飲んでくれないだろうか”
「(・・前もってのお願い・・・ナトスからの要求・・・た、確かに意味がない、私の目の前でナトスが犯人を殺しにかかっても、それを止める術がない・・・私への配慮・・・ナトスはこの場に私を置いていくべきかどうかの判断をしている・・・因果応報・・ナトスの“美学”・・・)」
何も言わずロレーヌの回答を待つナトスに
ロレーヌは一拍置いて答える。
「・・飲むわ、私は口出ししない・・・」
それを聞きナトスは切り出す。
「犯人たちのいない建物に飛ぶ、必要なものを入手しよう・・」
ロレーヌはそれに頷いた。
~樹海内廃墟~
~屋外~
「おい!まだか!さっさとしろ!」
4件並ぶ廃墟郡の外で、犯人の一人が声をあげる。
その男は手に持っているロープを少し引っ張ると、
それに後ろ手で拘束された女性が言う。
「ご、ごめんなさい・・もう少し・・・」
女性は草むらにしゃがみ込んで、
用を足すふりをしていた。
「もうすぐ迎えが来るんだ!時間かけんじゃねぇよ!」
「は、はい・・(・・モーフィスとかいう奴が来たら多分終わり・・・私たちの捜索がされていたとしても、もう探せない・・・時間がない・・・もう7日・・そもそも捜索されてない?・・・どちらにせよこのままじゃ終わり、ならいっそうの事・・・)」
女性は限りなく可能性は低いと思いつつも、
男の意表を突き、走って逃げる事を考える。
女性は目を閉じ、意を決すると、
立ち上がろうとした。
フワッ。
その瞬間毛布のような柔らかいものに、
身体が包まれるのを感じた。
「え?・・」
女性が困惑すると、
後ろから女性の声が聞こえる。
「頑張ったわねアーシャ、もう大丈夫よ」
シュ。
アーシャと呼ばれた女性は、
後ろ手に縛られていたはずのロープが切られたのを感じ
目の前で両手を確認した。
その後、聞き覚えのある声に
恐る恐る視線を向ける。
「・・あ、姉御?・・・」
アーシャは消え入りそうな声でそう言うと、
身体に掛けられた毛布を握り、涙を浮かべる。
そしてロレーヌの胸へ飛び込み、
泣き叫ぶ。
「ロレーヌさん!わたし、わたし・・・」
「大丈夫!何も言わなくて良いから、今はただ助かった事だけを考えなさい」
ロレーヌはアーシャを抱きしめつつ、アーシャの言葉を遮ったが、
感情の高ぶったアーシャは続けようとする。
「わたし!こいつらに!この男達に・・・はっ!」
アーシャはその瞬間近くに居たはずの犯人の事を思い出した。
血の気が引くのを感じつつ、
アーシャは恐る恐る犯人の方を確認した。
「!?」
犯人「・・あ・・・が・・・・」
アーシャの目に、信じられない光景が映る。
犯人の男は目に見えない大男に
首でも絞められているかのように
空中でもがき苦しむ姿と、
その犯人を静観する
銀髪の男。
「大丈夫よアーシャ、後は私達に任せて」
「・・・」
状況がわからないアーシャが絶句していると、
ナトスはアーシャに視線を向け不可解な行動に出る。
背中の“忍刀”を抜きアーシャの足元に突き刺した。
「これは“忍刀”と呼ばれる武器、もう一本弟が所持しているが、それは異常に切れ味が良くてな、切られた本人は痛みも無く、切られた事に気付くことなく死に至る・・・」
何の話か分からないロレーヌもアーシャも
頭に?を浮かべていると、ナトスは続ける。
「・・しかし、俺の持つこれは違う・・・切られた本人に、生きている事を後悔する程の激痛を与える・・・こいつの自殺防止は既にしてある・・・」
それを聞きロレーヌは悟る。
「ま、まさか・・・」
アーシャもナトスの意図を理解する。
アーシャは地面から“忍刀”を抜き取ると、
空中で悶える犯人の近くへ歩み寄る。
「ア・・」
ロレーヌはアーシャの行動を制止しようとしたが、
ナトスとの約束を思い出し口を閉ざした。
いや、それ以上にアーシャの受けた苦しみを考えると、
とても静止する事等出来なかった。
アーシャは“忍刀”を振り上げると、
男目掛けて切りつけた。
「お、重い・・」
見た目以上に“忍刀”が重かったのか、
アーシャは手元が狂い、
“忍刀”は男の右足、脛あたりをかすめた。
「!!・・・が!・・あ・・がが!・・・あぁ・・」
犯人の男はこの世の終わりの様な表情を浮かべ
痙攣を起こし泡を吹きだした。
「はは・・なに?ちょっとかすめただけなのに」
アーシャがそう言うとナトスはアーシャに近付き
“忍刀”を返せと言わんばかりに手を差し出した。
アーシャが素直に応じ、ナトスに手渡すと、
ナトスが言う。
「この後面白い物を見せてやろう、今は他の女性の救出を急ごう」
ナトスは“忍刀”を鞘に戻すと続ける。
「アーシャと言ったか・・他の女性もそうだが、魔法を駆使して逃げる手段を取らないのは、そのネックレスが原因か?」
アーシャはナトスの言葉を聞き、
思い出したように首飾りを取ると地面に捨てた。
「こ、これのせいで皆魔力を封じられてたの、最初に拉致られてた子は転移士だけど逃げられなかった・・・」
「・・魔道具・・・」
ロレーヌがそう呟くと、
ナトスが言う。
「・・・この魔道具はここにあるものと、残りの女性が付けられているもので全部か?」
アーシャはナトスの質問にしばし考え答える。
「・・・もう一つあった・・」
アーシャはロレーヌにすがるように続ける。
「ロレーヌさん!リリーが・・・私のパーティーメンバーの女の子が危ないかもしれない!」
「ちょ、ちょっと、どういう事」
「・・・」




