第一部エピローグ:シェンター
~異世界メジューワ、リデニア国首都クヨトウ中央街~
~ノウビシウム邸宅~
「おかえりなさいませ旦那様」
「うむ、王将官邸に寄っておった、遅くなったのぉ」
帰宅したシェンターをリジディが出迎えた。
シェンターの様子を見たリジディが気遣う。
「・・お疲れの様子ですが・・・どのように致しますか?」
「少々話疲れただけじゃ・・・先に飯にするかのぉ、このまま向かう」
「承知しました」
「して、首尾はどうじゃ?・・」
食堂へ向かう道中、
シェンターがリジディに質問を投げかけた。
「はい、本日午前中にオフィームがロレーヌ様へ依頼書を手渡すとすぐに行動されたようで15時前には会社設立の登記簿をお持ちになりました、スピーダム様にすぐに連絡するとオフィームが前もって連絡していたようで準備が出来ていたようでした、ナトス様ミノア様の身分証は、17時頃私がロレーヌ様への依頼書とナトス様への依頼書と共に設立された会社へ手渡して参りました」
それを聞いたシェンターは笑みを浮かべて言う。
「ふぉっふぉっふぉ、皆優秀じゃのぉ、そう言えば社名は何になったのじゃ?」
「はい、“S&S”だそうです、サーチアンドシークの略称だそうです」
「なるほどのぉ・・探し物は“対象”と“術”・・・ふぉっふぉっ、なかなか良いのぉ」
程なくすると食堂に到着し
リジディが言う。
「では準備してまいります」
「うむ」
シェンターは椅子に座ると
物思いにふける。
「(ふぉっふぉっふぉ、ナトスはどんな顔をしたかのぉ・・近くで見れないのが残念じゃが、まぁ良い、わしの誠意である事は伝わっとるじゃろ・・・しかし、神のなせる業とは言え、すべての記憶を消し去り無かったことにするなどわし話許さんぞ・・・徹底的に抗わせてもらうぞ神よ、最後の“特異点”たるナトスとミノア・・このメジューワに刻み込ませてもらう、その痕跡、爪痕を・・・まぁそれでも忘れてしもぅたらしょうがないがのぉ、ふぉっふぉっふぉ)」
シェンターは昨晩、ナトスとの話の中で、
神の使徒である彼らに恐怖した。
その気になれば一瞬で自身を消し去りかねないほどの力、
気が付いたらこの世に居ない、そんな相手を目の前にしていると
自覚していたからだ。
ナトスとミノアも“特異点”。
神の理論で行くならば、彼らとの関りもまた“特異点の爪痕”。
その痕跡事滅するのであれば、
協力者になろうとする自分やソロルはどうなるのかと。
言葉通りなら、“特異点”と関わった自分たちは跡形もなく消滅。
シェンターは心底恐怖した。
しかし、それで後れを取るような人物ではなかった。
前後の話から違和感を覚えるシェンターは
その後の話の中で一つ一つ丁寧に思考を伸ばしてい行く。
少なくともナトスは、
協力者となった仲間の安否を気にしていた。
臆病者ゆえの思考。
シェンターはそこに関して
一つの確証を持っていた。
だとしたら理不尽にその生命を奪い去る様な手段ではないはず。
そしてシェンターはたどり着く。
“特異点”と関わったと言う記憶自体が消滅するのではないかと。
そもそも神は記憶と言う曖昧なものを
関りとみなしていないのではと。
「旦那様、お待たせ致しました」
シーラが夕食を持ってシェンターに声をかけた。
「うむ・・」
シェンターはふとシーラの顔を見て考え込む。
「・・・」
その視線に気づいたシーラは
シェンターに恐る恐る質問する。
「え?・・えぇと・・私、何か失礼を働いてしまいましたか?」
「ふぉっふぉっふぉ、そうではない、シーラはいくつになったかと思ってのぉ」
その問いにシーラは笑顔で答える。
「わたくしは19になりました」
「(ミノアと同い年・・・)例えばのぉ、わしがお見合いの話を持ってきたら会ってみるかのぉ?」
その話を聞いたシーラは驚いた表情をしつつも
頬を赤く染め、まんざらでもないように言い出した。
「えぇ!?わ、わたくしにですか?まだ19だし全然そんな・・・男性とお付き合いしたいとは少しは思いますが、でもホント、少しです少し、まだ見習のペーペーだし、旦那様のご紹介ならそれなりの人物・・・わたくしなんか釣り合わないと思いますし、あっでもアンシーよりは全然出来る方だし、そんな話があっても悪くはないかもと個人的には思いますが・・」
「ちょ、ちょっと待つのじゃシーラ!例えじゃ、たとえ話じゃ」
「え?」
シーラがキョトンとしてると
後ろから怒気を纏った声が響く。
「シーラ・・」
ビック!
シーラが恐る恐る後ろを振り返ると、
そこにはお茶を持ったリジディが立っていた。
「お茶を忘れていましたよ、シーラ・・・戻りが遅いので私が持ってきましたよ?」
「す、すまんのぉわしが変な話を振ったからじゃ・・」
「す、すみません・・で、では、失礼します」
リジディがお茶をテーブルに置くと
シーラはそそくさと引っ込んで行った。
シーラ「(なーんだ例えばか・・ざーんねん)」
リジディ「(ったく、最近の若い奴らは・・・)」
シェンター「(は、話をする相手は間違えんようにせんとなぁ・・・)」