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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

即興短編

飛鳥と真夏

 春雅はるみやび飛鳥あすかの可愛さはまるで妖精だ。


 彼女が舞台に立つと空気が色づき、彼女が動けば観客の口から夢色の息が漏れる。


 長い黒髪をサラサラと揺らして、その細い指先は銀色の未来を指し示す。


 永遠の少女と清らかな娼婦の棲む瞳の奥から幻獣のベビーを撒き散らし、瞬けば揺れる睫毛が星を辺りに浮遊させる。


 小さな顔は中学生の頃の面影をいつまでも残し、最近少しほうれい線が気になり始めたが、誰もそんなものよりも燦めくばかりの彼女のオーラばかりを見つめていた。





 常田ときた真夏まなつはグループの中でもとうが立っていた。


 おまけに顔がでかく、口もでかい。


 色白ではあるがオイリーで、笑うとあっちこっちにシワが目立つ。


 面倒見のいい優しい性格と言うことの面白さで人気はあるが、可愛さで春雅はるみやび飛鳥あすかに勝っているところは何もなかった。


 それでも蓼食う虫も好き好きで、常田ときた真夏まなつがグループで一番好きだ、一番可愛いという人もいた。


 しかし当の常田ときた真夏まなつは、思っていた。


春雅はるみやび飛鳥あすかになりたいな』


 しかし彼女は彼女であった。


 どう頑張っても彼女は常田ときた真夏まなつであり、春雅はるみやび飛鳥あすかにはなれないのだった。






 20年後──




 常田ときた真夏まなつは48歳になっていた。


 若い頃とあまり見た目が変わらず『美魔女』などと呼ばれている。


 自慢は身体の健康で、一度も重い病気をしたことがないどころか、虫歯もない。


 昔のファンからは変わらず「真夏ちゃーん」と憧れを込めた声援を貰い、若いファンも増えているという。




 その横に、猿型の宇宙人のようにくっつき、痴呆老人のような無表情を顔に浮かべて立っているのが現在の春雅はるみやび飛鳥あすかである。


 41歳になっていた。若い頃からあったほうれい線は育ちに育ち、白いブルドッグのようになってしまった。


 それを嫌って重ねた整形手術がたたり、もうその顔は人間には見えない。


 すらりとしていたスタイルも今は支えきれないのか猫背になり、手の指は枯れ枝のように萎れていた。


 髪型は若い頃からずっとサラサラ黒髪ロングなので、まるでエイリアンがかつらを被っているようだ。


 ほとんどのファンはとっくに離れていたが、中には同情の目で見守り続ける人もいる。






「私は昔、こんなに可愛かったんだよ」


 そう言いながら昔の写真を誰かに見せる時だけ、春雅はるみやび飛鳥あすかの顔は可愛いおばあちゃんのように輝く。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼い頃から大人びた顔立ちの人は、十代くらいまで『老け顔』だと嘲られがちですが、いずれ逆転します。 早くに成長しきると、20代以降もあまり変わらないように見えるのです。 そして、「可愛い…
[良い点] 人生年を取るまで何が起こるか分かりませんね…。 そして20年後飛鳥の描写の容赦のなさ! ゾクッときました。 [一言] 浸れる思い出がある、というのが飛鳥もまだ救いがあるのかもしれません…。…
[良い点] 歳を取ってから輝く人っていますよね。 人間の美しさとは何かを教えてくれる作品です。 [気になる点] ほうれい線。 [一言] 読ませていただきありがとうございます。
2022/04/21 07:31 退会済み
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