2話
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6限の授業が終わった。チャイムが鳴り響いて、寝ていたみんなの頭が上がる。まるで死者蘇生の呪文だ。進学校でこれなんだから、底辺高校とか、どんな授業風景なのだろう。まったく、日本の凋落は火を見るよりも明らかだなぁと将来を憂いてしまう。
HRを待つのもだるいしなぁ。
「日下部、もう帰らない?」
日下部の席まで行って、早退を持ちかける。
「えー今日は無理。あたし今日帰りに星奈とかとスタバ行くから」
「まじかぁ。部活は安定に行かないでしょ日下部」
「今年に入って3回しか行ってないって」
「もう8月なんだけど……」
残念、とだけ言い残し私は席に戻る。
私は星奈に優先順位で負けたのかぁ。
まぁ、あちらの方が先約だし、仲いいし、陽キャだしで私を優先する意味がないんだけどね。
星奈と日下部、それに私は1年の時に同じクラスだった。そのクラスはほかのクラスと比べてかなり魔境で、言い方はちょっとあれだけどtiktokerもどきみたいなリア充女子が、進学校なのにもかかわらずやたらと詰め込まれていたのだ。
登校初日、教室に入ろうとすると中からBTSの曲が大音量で流れてきた時から嫌な予感はしていたのだ。扉を開けると、教室の後方で騒いでいる数名の女子と、各々孤独に席に着く数名の女子の対比を見たときの私の感情を察してほしい。
あ、もうクラス内のカーストって決まっているんだな、となぜか冷静に考えてしまった。現実逃避でしかないが。
私のコミュ障具合からしてあの輪に混ざることは不可能と即座に判断したのはいいのだが、流石にあの委縮しきった有象無象になるのもこの後の生活を鑑みるに不味いだろうと考え、横にいる適当な女子に話しかけ、私の高校生活はその時スタートしたのだ。
なんやかんやあってその陽キャ集団とはうまく付き合うことができたのだが、その中で一人だけ苦手意識を抱いているのが星奈だった。
なにしろ陽キャすぎる。
波長がちょうどπだけずれているのだ。そもそも私の喋りは自虐ネタ、もしくは突っ込み待ちの自慢話ばかりなので、陽キャとの会話相性は最悪なのだ。
あーあ。一人で帰るのもあれだしなあ。
「三角どしたん、先帰るの?」
「うん、水無月どうせ部活行くでしょ」
「そりゃ行くもんだからね」
「間違いない」
水無月は、ソフテニだっけ。あそこは皆仲が良さそうで羨ましい。なんて、外部から見た感想ほどあてにならないものはないけど。
「三角バド行かんの?」
「んー。気が乗らない」
「いっつもじゃん」
「なんで高校にもなって運動しなきゃならないか意味不明すぎるんだけど。私痩せてるからマジでスポーツとかカロリーの無駄すぎ」
「うわー痩せてる自慢うざーい」
「そのかわりチビだから」
「ちっちゃくてかわいいねー三角ちゃんは」
「うわー背の高い自慢うざーい」
頭をなでてくる水無月の手を振り払う。155センチあるから、そこまで人権がないレベルにチビというわけじゃない。ただ、私の周りにいる人たちがやたら大きいだけだ。日下部なんて172センチある。本人は意外とコンプレックスらしいが、私からすると羨ましい限りだ。
「帰るわやっぱ。先生来て、言われないと思うけど私に何か言及されたらなんか適当に水無月誤魔化しといて」
「わかった、実家燃えたっていっとく」
「消防動くて、迷惑youtuberじゃないんだから」
Lineで部活のグルに、『早退したため部活休みます』とだけ送り、私は教室を出た。
一人、電車を待っている。
一人は好きだ。気楽だから。
一人は嫌いだ。寂しそうだから。
あくまで一人が嫌いな理由は他者に依存していて、だから無敵の人みたいに他者の目を一切気にしない存在に、私はほんの少しだけ憧れを覚える。
私の現在の立ち姿は、ボッチに見えないだろうか。
男でも女でも、かっこよくてかわいい人は、一人だけで行動していてもそこには憐みの目はまとわりつかない。寧ろそれはプラスの評価を下される。
私の顔は、客観的に見ても悪くはないはずだ。良くはないけど。ただ、滲み出す自己肯定感の低さがどうしようもなく醜さを引き立てている。