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更新頻度遅いですし文体なんか固いです。感想くれたらうれしいですへんしんします。
絵だけで二十万。絵だけで二十万。このお金で何ができるだろう。特に趣味がないがゆえにたまったお金だからそこまで煩悶することはないのだけれど、私はケチだから、やっぱり考えてしまう。海外旅行に行けたんじゃないのか、とか。叙々苑で超高級な焼き肉を食べれたんじゃないか、とか。ありきたりの、貧乏人が贅沢と聞いてすぐに想起するような妄想ばかりが頭の中を占める。特にそれらに興味があるわけではないのだけれど。
お金を振り込むと、心まで軽くなった気がする。ソシャゲのガチャに課金したときみたいに、お金をたくさん使った時特有の、あの感じ。この脳汁が出る感覚を味わうために私は、私たちはお金を使うのだろう。
納期は一か月後。私の推しの絵師が、私の要望に応えて、私の為だけに絵を描いてくれる。可愛い女の子の絵。現実世界には存在しない髪肌の艶で、現実世界には存在しない目の大きさで、現実世界には存在しない顔の小ささで。電子世界に存在する彼女らを見るたびに私は溜息をつくばかりだ。あまり女として美を求めていない私でも、やはり本能として永遠に保たれる完璧な美には憧れてしまうのだろうか。
だから。
だから私は、彼女らに少し近づくために、二十万円を払ったのだ。
一限の授業には二、三分程度遅れていくようにしている。ドアを開けると、数人の生徒が黒板に数学の解答を板書していた。私たちの数学の授業のスタイルは、教師がグループと問題を指定し、彼らはグループで力を合わせてその問題を解いて板書する、それを教師が添削するというものだ。なぜ数学をグループワークで解かねばならないのかが分からない。それになぜ生徒のゴミみたいな計算一辺倒の解答を板書させるのかが分からない。まぁ先生はそれを添削するだけだから楽だろうが。
よく見ると今板書をしているのは私の班のようだ。班員は私を一瞥し、また自身の解答を書く作業に勤しむ。その眼には何の感情も浮かんでいない。さぼりやがってと言われないのは、私がそういうやつだと認識されているからと、あとは別に仲良くないからだろう。高校は中学とは違い意外とクラスの関係が希薄だ、特に二年や三年では。席に着くと後ろの水無月が話しかけてきた。
「重役出勤、三角?」
「まぁね。ねむいだるい。数学予習やってなかったから助かったよーみんなやってくれて」
「私に言うべきことじゃない気がするけどね」
「みんなにも聞こえてるでしょ」
クスクス。
笑いあう。空気読めないでしょ私、スタイル。非難というか、軽蔑されることも多いが、意外とこのスタイルを貫いていれば、文句は言われないものだ。特に私みたいに、実力が伴っていれば。
数学は得意だ。勉強自体がそもそも得意だが、数学は特に。一応公立高校の中では県内で一番賢いうちの高校の中でも、多分一番か二番目にできる自負がある。まぁそれはセンスではなく、中学校の頃から地道に勉強を頑張ってきた成果なのだが。
だが、誰が地道に努力した天才を好きになるだろうか。だから私はとりあえず、学校内では数学の天才を標榜している。実際数オリなどに出たら全くもって本当の天才とは太刀打ちできないけど。
「ハイじゃあ授業を始めますんでね、まずは198ページの大問7の解答から」
教師が生徒の板書を赤のチョークで添削していく。
カツカツ、カツカツ。
モールス信号みたいだ。
実は教師の奥さんが人質に取られていて、先生はチョークの音で私達にそのことを伝えようとしているとか死ぬほどくだらないことを考えていると、授業は終わった。恐ろしく時間の無駄だ。いつもなら内職で塾の勉強をするのだが、流石に月曜日の一限からやるモチベーションはない。青春の浪費。今頃底辺高校の人たちは学校をサボって睦言を交わしているのかなと思うとやるせない気持ちになる。
四限が終わり、昼休みに入るチャイムが鳴るのと同時に教室後方のドアが開いた。誰に話しかけに行くか迷っていたので、彼女、日下部さなのもとへ歩みよる。
「遅いじゃん。寝坊?」
「そー。マジ眠いよね。三時とかまで星奈とかと通話しててさ。さぼろっかっておもったけど、まぁ、何となくね」
「やっばー。まぁ別に来なくてもよかったけど」
「そーかな。まぁ正味、出席日数的なこともあるよね」
うーん。
今のは、「来なくてもよかったって、私が来なくてもよかったってことか、授業がゴミだから来なくてもよかったってことか、どっちなの?」ってつっこんでほしかったなぁ。
まぁ、どうでもいいけどね。
彼女は髪を掻く。彫りの深いロシア人みたいな顔立ちに、陸上で焼けたらしい肌。髪は入学当初は茶色だったが、染め直してないのかだんだん黒に戻ってきている。総じて、まぁ美人だ。しかも陽キャ。このクラスの、紛うことなき一軍トップである。
「ゆーて三角も遅れたんじゃないの?」
「私はいいの。遅れじゃなくて重役出勤だから」
軽く日下部は笑う。
「三角、ご飯食べよ」
「食べよ。ってか来てすぐにご飯食べるってのがやばい」
「まぁ最近太ってきたのは認めざるを得ないかなぁ」
快活に笑う日下部。どう考えても太ってない体が良く言うよ、と思う。ガチの陸上選手の彼女の体にはほとんど脂肪がない。
「というか、そんなにプロポーション気にしてる女子リアルであったことないんだけど。日下部が初かも」
「言うほどそう?」
「そーだよ。制服の上からだったらそんなにスタイルでないし。そんなん気にしてるのtiktokとかinstagramとかで水着姿晒してる人だけだって。日下部みたいな」
「いや、そこまで晒してないけどね」
多少の嫌味なら日下部は笑って受け流す。優しい。やっぱり、一緒にいてて楽な友達は、面白い友達より重要なのかもしれない。彼女を見ているといつもそう思う。コミュ力が高くて、優しかったらモテるなんて美人は楽だなぁ。
なんて思わないけど。