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銀の天使は未来から来る  作者: 藍空ミーシャ
本編 第1章(ここからは間章が絡んできます)
11/12

天使と悪魔の物語、現在(2) だめだな、ボク

「ここまでシエル君に肩入れするとは思ってなかったな」


 天使レンは、ベッドで寝ているシエルの頬をそっとなでる。

 シエルは、パーティーの途中で頭痛などを訴え、部屋に戻って休んでいる。


「……ん?」


 彼に流れる魔力に違和感を感じる。

 誰かに魔法をかけられたような痕跡がある。

 しかも、精神干渉系の魔法。

 精神干渉系の魔法が使えるのは、レンが知っている限り1人しかいない。


 魔王アベル。


 探し出して聞かなければ。

 なぜシエルに魔法をかけたのか。


 レンが部屋を飛び出そうとした、そのときだった。


「我を探す必要はないよ」


 魔王アベルの声が聞こえたのは。


「……魔王アベル」


 レンは警戒心を隠さないまま、名を呟く。


「そんな警戒心剥き出しにしないでよ。我たち、2000年前はあんなに仲良しだったのに」


「仲が良かったのは過去のことだよ。今は違う」


 アベルが一歩歩み寄ろうとする度、レンは一歩後ずさる。


「シエル君にかけた魔法を解いて」


 レンがそのひと言を発した途端、アベルの顔はたちまち歪む。


「我よりアングランドの王族のほうが大事なのか? ラザク・アングランドにされたことを忘れたわけじゃないだろう?」


「……それ以上は、なにも言わないで」


 レンは俯き、顔から表情が抜け落ちる。

 手で強く耳を塞ぐ。目をぎゅっと瞑る。


 ーー2000年前の話はもう聞きたくない。誰にも話したくない。


 それを見てアベルは、ふわっと笑う。


 ーーほら見ろ。我のやっていることは正しいんだ。


 アベルは歩み寄り、レンの手を耳から取って耳元で囁く。


「我がレンを幸せにする。悪い人間たちは懲らしめてやるから、待ってて」


 レンは、びくっとしてすぐさまアベルの手を振りほどく。


「そんなことより、今すぐ精神魔法を解いて」


「うーん……やだ」


 アベルは満面の笑みで拒絶する。


「むしろ、もっと苦しんでほしいくらいだ。もしもレンが人間を助けようとしていたら、我はそれを徹底的に邪魔する」


 アベルは右の人差し指を立て、手首を2回転させる。

 薄いピンク色の光がシエルに纏わりつく。

 精神魔法だ。


「何をっ……!」


 レンはシエルに駆け寄る。


「我は人間が大嫌いだからね。……いい夢を、シエル・アングランド」


 そう言い残してアベルは掻き消えた。



『もしもレンが人間を助けようとしていたら、我はそれを徹底的に邪魔する』


 レンの脳内で、さっきのアベルの言葉が流れる。

 邪魔されてもシエル君と一緒に未来を変える覚悟はあるのか。

 自問自答する。


 ボクは何のために時を戻したのか?

 ーー大切なものを守るためだ。


 大切なものってなんだろう?

 ーーアングランド王国で過ごした思い出。


 2000年経ってもアングランド王国は大切?

 ーーもちろん、大切だよ。


 ボク1人でやってもよかったのに、何でシエル君の時も戻したの?

 ーー見ていられなかったんだよ。


 何を見ていられなかったの?

 ーーあの子が死にそうになった時、ラザクのことを思い出してしまったから。


 ラザクとシエル君は別の人なのに?

 ーーしょうがないじゃないか。血が繋がっているし、外見もそっくりなんだから。


 ラザクとシエル君を別の人として見れているの?

 ーー多分、見れていない。


 ああ、とボクは思った。

 心にずっと引っ掛かっていたものが取れたような気がした。


 ボクは、シエル君の中にラザクがいるような気がして、シエル君を『シエル・アングランド』というひとりの人間として見ていなかった。

 ラザクに対してできなかったことを、後悔していることを、シエル君に対してする事で自己満足をしている。


「だめだな、ボク……」


 今目の前で苦しんでいるのはシエルであって、ラザクじゃない。

 じゃあ、ボクがシエル君に本当にすべきことはなんだろう。

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