天使の物語・過去(4) 純粋で国より価値がある少女は
「うん!ラザクとずっと一緒にいるよ」
「ありがとう。レンは素直でいい子だね」
ラザクはレンの頭を撫でる。
ラザクに打算的な考えがなかったわけではない。
レンの時と記憶を操る力のおかげでラザクは王になれたのだ。
自分以外の人間にレンのことを知られたら、レンを奪われたら。
すぐさま玉座を追いやられ、自分や、レンまでもが殺されてしまうだろう。
そんなことになってはいけない。
だから、自分とレンが一緒にいて周りに『迂闊に手出しをしてはいけない存在』だということを知らしめることができれば。
自分もレンも守れる。
ラザクの考えなど何も知らないレンは、褒められたことが嬉しくてえへへ、と微笑む。
「早速で悪いけど、これからサマン商団との会談があるんだ」
今までは『待っててね』とラザクはレンに言っていた。
でも、今日からは違う。
「ついてきて」
「……うん!」
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「ようこそ、サマンどの」
「また貴方の国と商談ができることを光栄に思いますよ、ラザク・アングランド国王陛下」
そう言ったサマン商団の長、サマンはラザクに一礼した後、隣に立つレンに目を向ける。
「レン様も以前お会いしましたが、お変わりありませんか」
「ま、まあまあです」
前に会った時には名前だけ聞いて後は興味ない、という感じだったのに。急にどうしたのだろうか。
「では、もうひとつ質問。最近噂の『物を直せる少女』とはあなたのことですか?」
なぜ知っているのだろう。
血の気がひく。
咄嗟にラザクの背中に隠れる。
「……それは肯定、ということでよろしいですね。商団の情報力を舐めてもらっては困ります」
「確認してどうするんだ」
ラザクはサマンを睨む。
「彼女を渡してください」
「断る」
サマンに対しラザクは即答する。
「……そう言うと思いました。彼女と引き換えになら永久的にあなた方に有利な条件での取引を行いますが、どうでしょうか」
「断る」
またもや即答。
「王であるあなたが、自分の国より1人の少女を大事にするのですか?」
サマンは、信じられないといった表情をする。
「国よりも価値のある少女とは……どれほどのものなのか、気になりますね」
サマンの手がレンに触れようとする。
「やめろ!」
ラザクが叫び、手から青白い光が溢れる。
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サマンの手が実際に触れることはなかった。
ラザクが時を戻したのだ。
ラザクの部屋で、ラザクは告げる。
「もう……だめだ。レンは俺の部屋から出ないでくれ。サマンのところにも俺ひとりで行ってくる」
そう言い残し、ラザクは部屋から出る。
「っ……!!」
レンを襲う静寂が、数日前までのひと月分も合わせて限界を超えた。
また一緒に過ごせると思ったのに。
どうして、どうして、どうして。
もう時を戻す気力もなかった。
ただ人がいないところを目指して、窓を開けて空を飛ぶ。




