悪役令嬢はヒロインをいじめていましたが、そのヒロインはというと……
「うわぁ……これ全部食べていいの?」
今日は王立学園の卒業を記念したパーティーが、王宮の一室を利用して開かれている。私マリア・ミュレーズがまさかこんな場所に来れるなんて、少し前だったらまずありえなかったこと。それというのも私はつい最近まで只の平民でした。それが今の私は子爵令嬢です。
何故かって?どうも私の父はミュレーズ子爵様なのだそうです。なんでも私の母は、昔子爵家のメイドとして勤めていた時に、子爵様が手を出したそうなんです。その時に身籠ったのが私なのだそうです。母が亡くなったときに子爵様が私を引き取る際に仰ってくださったことです。
と昔話はそれくらいにして、今は目の前の豪華な食べ物のほうが大事……!ホントどれもすごく高そう。実際すごく高いんだろうなぁ~……これほんとに食べていいの?……いいのよね?
……それじゃあ遠慮なく……いただきまーす。
……うーんっ。おいしい!
すごい……これが貴族様の普段食べているものなんだなー。あ、今は私も貴族か、一応。
同じお肉でも、最高級のものってこうも幸せな気分になるものなのね。
あ、次はあっちのお菓子食べてみようかしら。でもこっちのお刺身っていう東の地方で食べられているって噂の珍味もいいかも。いっぱいありすぎてどれから手をつけようかしら……よし!とりあえず全部食べよう!
「マリア!」
急に私に声をかけてきた人がいた。声の人はそのまま私の方へと近づいてきた。
「やあ、パーティーは楽しんでいるかい?」
「レオン殿下。はい、とても」
彼はレオン・ザッカード第二王子殿下。何故か最近私に声をかけてくることが増えたんですよね。そのせいか周りの人に私に対する態度が……ああ、今も周りの人に視線が私に刺さって……あっ!でも仕方ないですよね。相手は第二王子殿下なのだから、たかが子爵家の庶子の令嬢が意見できるわけないですものね。
「それはよかった。父上に無理言ったかいがあったよ」
「そうなのですか?」
「こうしてドレス姿の君を初めて見たが、とても美しい。本当なら私が直々に用立てたかった」
「そんな恐れ多い。私には学園のお貸りしたドレスで十分です。それにこれとってもかわいいですし」
「ああ、君はなんて心が広いんだ……」
いやぁ、流石に殿下からドレスを用立ててもらうなんてことになったら、周りの特に伯爵以上のご令嬢から、どんな目に会うことやら……考えただけでも気持ち……っと考えるのは辞めよう。
「そうだ、今すぐ君に一緒に来てもらいたいんだ」
「あ、ちょっ殿下……」
殿下はそう言うと私の話を聞かずに、私の腕をつかんで歩いていく。私も殿下の腕を振り払うことが出来ずに一緒になって。
殿下はそのまま、ひとりの令嬢の元へと歩いていく。
私の目の前にいるそのお方は……!
「サラ・シェラザード!貴様との婚約を破棄する!」
殿下が婚約破棄を突き付けたお方は、サラ・シェラザード公爵令嬢様。殿下の婚約者であらせられる、シェラザード公爵家のご令嬢です。公爵家の名に恥じぬその美しさに加え、学園での成績は常にトップです。学園ではいつも近くに友人のご令嬢を連れていらっしゃいます。まさに小説の中に出てきそうなお方です。
そんなお方に殿下は、今なんと仰ったのでしょう……婚約破棄!
まあ!なんて事でしょう!こんなのロマンス小説の中だけかと思ったら実際に起こるなんて!
「殿下!いったい何故――」
「うるさい!貴様がマリアにした事は俺様の婚約者にふさわしくない行為だ!」
なるほど。サラ様がマリアさん?という方に、殿下の婚約者として、ふさわしくないことをしたと。私と同じ名前の人この学園にいたんだ……まあ、マリアなんて名前珍しくないよね。
「マリアに暴力をふるうなど、俺様が絶対に許さん!」
「それは、あの汚らしい平民風情が……」
「黙れ!マリアをそのように侮辱するのは俺様が許さん!」
このままサラ様はどうなってしまうのでしょう……。国外追放?それとも一族まとめて処刑?そんな小説じゃあるまいし、流石にそんなことあるはず――
「貴様の存在はこの国に有害だ!一族もろとも処刑だ!」
あったー……!
「何事だ」
この声は――。慌てて私や殿下以外のこの場の貴族の方全員が臣下の令をとっている。
その声の持ち主である――国王陛下は、騒ぎを聞きつけてこちらにいらっしゃったご様子。
それはまぁ、ここは王城の一室だし。当然陛下の耳に届くよね。
「レオン。この騒ぎはどういうことだ?」
「父上。この女は私の婚約者にふさわしくありません。この女は私のマリアに暴力をふるったのです!そのような者、私の婚約者にふさわしくないので、この場で婚約を破棄しました」
「婚約破棄だと……。サラ・シェラザード公爵令嬢よ。レオンの言ったことは誠か?」
「……はい。殿下の仰ることに相違ありませんわ」
その言葉を聞いた陛下の顔が一層険しくなられました。
「そうか……」
「では婚約破棄を認めてくださるのですね!」
「黙れ。まだ話を聞いていないものがおる。サラ嬢に暴力をふるわれたものの話がな……マリア・ミュレーズ子爵令嬢」
へぇ。サラ様が暴力を振るった方っていうのは、マリア・ミュレーズ子爵令嬢っていうのね。サラ様が平民っておっしゃっていたので、子爵家の庶子の方なのね……え?
「私っ!」
ついこの場にふさわしくない声を挙げてしまった私が見たのは、私に集まる周囲の人々の視線の数々。
「そなたがサラ嬢がいじめを受けていたというのは誠か」
……いじめ?
サラ様が……私を?
それって…………
「……一体何の話をしているのでしょうか?」
「マ、マリア?あの女が怖いのかもしれないけど大丈夫。俺様が側にいるから」
「そもそも私。サラ様からいじめなんて受けていませんが」
「あ、貴方何を言っていますの?わたくし、貴方にたくさん嫌がらせしましたわよ?」
マリアの発言に、ついいじめを行った張本人であるサラもつい確認をとってしまう。
「嫌がらせですか……?」
私は学園でのことを思い出しているけど……駄目だ。思い当たることが何一つない。
「ほら、貴方の頭から水かぶせたり、お腹蹴とばして上から踏みつけたりしたでしょ?」
頭から水をかぶせたり、お腹蹴とばして上から踏みつけたり……あぁ!
「あれいじめなんですか!てっきり私へのご褒美かとばっかり……」
「へ?ご褒美……?」
「はいっ!私がいい成績をとると、そのたびにしてくるので、てっきりいい成績をとったご褒美にしてくださったのかとばっかり……」
「どうしてそう考えになりますの!」
「だってすごく気持ちよかったから」
「は!?気持ちよくって貴方何言ってますの……」
私が自身の性癖に気付いたのは実は子爵家に引き取られた時だった。子爵家の方からは多分歓迎されていなかったんだろう。特に奥様と義妹からは。
二人は私と顔を合わせるたびに「汚い」「平民風情」と仰います。それを聞くたびに下腹部がビクッてするので、何か病気でも掛かってしまったのかと思いました。
その時に、教育係から出された課題を調べるために、子爵の書斎へ赴いたときに、何気なく分厚いカバーがしてある本が1冊ありました。タイトルは経営に関する内容でしたので読もうといたしました。
……そのカバーはカモフラージュで中身は全く別のものでした。
その内容というのが、登場人物の男性が女性から鞭で傷つけられたり、罵倒を受けるたびに、悦んでいるといった内容でした。
「だってサラ様から罵声を浴びせてくださったり、足蹴にしてくれたり、今までの人は誰もしてくださらなかったから……」
子爵家の方々は口で罵ってくるだけで、手を出してきませんでした。最初のうちはそれでもよかったのですが、次第に満足できなくなってきて。学園に入ったらロマンス小説みたいに誰かいじめてくれるかなと期待していました。
でもどの令嬢も子爵家の方々と同じで、口で罵ってくるだけで直接手を出してきませんでした。
そんな時です。サラ様とであったのは。
サラ様は中間考査で私の成績が偶々上位になったときに、私の前に現れて罵倒した後に私の頬を叩き、その拍子に倒れた私を何度も足蹴にしてくださいました。
その後、殿下が何故か近づいてきましたが、私と殿下の一緒にいる姿をサラ様が見てからは一層激しくなって……
もう私、サラ様以外では満足にイクこともできません。
「はぁはぁ、思い出しただけで身体が興奮してきました……サラ様!いつものように私を罵ってください!」
「嫌ですわ!近づかないでこの変態!」
「あぁ、もっと……」
「ひぃ……!こっち来ないで!」
あぁ、そうやって汚らしい者を見る目もまた興奮します!
ちなみにレオン殿下は、この事件で廃嫡となりました。
「なんで貴方がここにいますの!」
サラ様の声は何時聞いても興奮します!
私の目の前にいるのはサラ様。ちなみに私が今いるのは公爵家です。なんで公爵家に私がいるかって?
実は学園を卒業した私は、サラ様の側付きになることが出来ました!まさか公爵様と話が会うなんて思ってもいませんでした。それにしても公爵様と奥様の関係がそんなだったとは……意外と私と同じ人っているんですかね?
「さあ、サラ様。王妃様のお茶会に行くドレスに着替えましょう」
「ちょっとなんか手がいやらしいですわよ……」
「いえいえ~気のせいです。さあさあ!」
「絶対に嫌ですわ!誰か、誰かいませんの!」
「お召し物脱がせますね……」
「触らないでくださる!」
バチンッ!っとキレのいい音がしました。サラ様が私の頬をビンタしました。
……あぁ!この罵倒!それにキレのいいビンタ!……やはり最高ですわ!
「気持ちいい……っ。つい濡れてしまいました……もう我慢できません!サラ様!もっと激しく!」
「なんでこんなことになりましたのーーー!!」
実は登場人物と舞台はそのままに、キャラ設定を変更した話も考えてたりします。
気が向いたら書くかも……