十八になったら競馬で稼ぐはずだった
おっさんを部屋に放り込んで服とかを縄代わりにしておっさんを縛り付けてから、ようやっとアツシくんが死んだことが俺の胸の中にやってきて俺はしばらくの間、啜り泣いて、啜り泣きながらおっさんを何度も蹴った。おっさんは「あふ」とか「ちょ、やめて」とか言いながら抵抗できずに俺に蹴られていた。
俺はおっさんの持っていたナイフをおっさんの足の甲にぶっ刺した。逃げられないように。「ぎゃあ」おっさんが悲鳴をあげるけど一番刺すのに適した時間だから周りの家のやつは寝てるとか塾行ってるとか大音量で音楽聞いてるとか偶然に次ぐ偶然が重なっておっさんの悲鳴はどこにも届かない。血が流れる。きったね。
「ううう。もう二度とサンダルも履けない……」
ばかばかしいこと言ってんじゃねーよと俺はおっさんをもう一発蹴る。
「おっさん、“おっさんたち”って言ってたけどなんかの組織なの? なんで地震起こしたいの」
「…………」
おっさんがだんまりを決め込もうとしたので俺は足にぶっ刺したナイフに触れてぐりぐりと動かした。ぐりぐりぐりぐり。「いだいいだいいだい」おっさんが喚くけどやっぱりその声は俺とおっさんにしか聞こえない。
「わかりました。わかりました。話します! 話すからやめて!」
俺はナイフから手を離してやる。
アツシくんの仇だー! って気持ちになってる俺は正直おっさんを殺したいなとちょっと思っていたんだけど、“おっさんを殺すのはいい結果にならない”という判定に従う。
でも俺は判定を裏切ることもできる、と思う。
「あのね、これだけは最初に理解しておいてほしいんだけど僕はソルジャーなのよ。上の命令を受けて動いてるだけ。責任は命令出してる上の人間に、コマンダーにあるの。それだけはわかってね」
俺はナイフに手を伸ばした。
「やめてやめてごめんごめん悪かったから」
痛いのが嫌なおっさんは「うう、なんでぼくがこんな目に」とか言い出す。
そりゃおっさんがアツシくん殺したからに決まってんだろ。上からの命令だろうが直接的にアツシくん殺したのはおっさんだからだろ。俺は苛立つ。ナイフには触らなかったけど代わりにナイフが刺さってるおっさんの足を蹴る。
「うぎゃあ」
死んじゃう……とかか弱い声で言うけど、じゃあ死ねよ、としか思えない。死んでもまだ三十代でくたびれたおっさんの命が前途洋々なアツシくんの命と釣り合ってない。まあアツシくんは「十八になったら競馬で稼ぐんだ!」って宣言してた若干クズの片鱗があったけど。ちなみに俺が「絶対判定」を使ってギャンブルをやっても外れる。ギャンブルに味を締めてギャンブルで身を立てるような人間になるのはトータルではよくないってことなんだろう。なにこの世知辛い能力。もっと楽させろよ。ところで俺はまたアツシくんのことを思い出して悲しくなったからおっさんを一発殴った。おっさんは「ふぐう」うめき声をあげる。
「んで、おっさんって何なの?」
「ええとね、おっさん達は超能力者の集まりで、ほら、超能力者って全然数いないじゃん。肩身が狭いわけよ。それでわりと虐げられてきたのね。だから集まってなんかしようってなったのよ」
「へえ」
「そしたらね、みんなふつうの人間に恨み持ってるから、人間世界ぶっ壊そうって話になったのね? 実験動物みたいに作り出されたやつもいたし。ああ。ぼくは天然ものなんだけど。そこらへんでぼく、抜けたいと思ってたんだけど、上のやつが恐いのよ。だから抜けられなくて。下っ端やってんの」
「そんでアツシくん殺したの」
「うん。そう。悪かったと思ってるよ」
俺はおっさんを殴ろうかと思ったけどあんまり殴りすぎても話が進まないと思ってやめた。
「ああ、やだなぁ。この子を消すのが失敗したってバレたら怒られるんだろうなぁ。やだなぁ。足痛いなぁ」
「おっさん達って何人くらいいるの」
「さあ。正確には把握してないよ。連絡取り合うのは大抵ネットだし。でも結構いっぱいいるよ。外国にも支部あるし」
「なんでアツシくんが地震のこと知ってるってわかったの」
「仲間内の一人にそういう未来視とか過去視系の能力使ったらそれを共有できるやつがいるの。『ハイジャッカー』って呼ばれてるよ」
「仲間のことぺらぺら喋っていいの?」
「よくないけどきみこわいよ。目が据わってるんだもん」
おっさんはぐすんぐすん泣いててくそうざい。
やだなぁ、やだなぁと繰り返す。
「本拠地とかあるの?」
「あるけど知ってどうするの?」
「アツシくんの仇とるよ」
「えぇ……やめときなよ。あいつらこわいよ。だってモンスター作ったりできるんだよ?」
アツシくんが言ってたけむくじゃらのバケモノってそいつらが作ったのか。
ぶっちゃけ『絶対判定』もやめとけって言っている。でも気が立ってる俺は「ぶっ殺してやるー!」としか思えていない。そのうち判定の方が折れてやれやれ仕方ないなって感じで「じゃあやる中で一番ましな方法を考えよう」の方向へ向かう。
それはともかくとして俺は一旦、疲れたから寝る。




