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レイン・デイ マザー・グース  作者: 晴羽照尊
6/8

EPILOGUE‐B.S.


 七月四日(木曜日)


「俺と久米方くめかたもがみが似ているって?」

「そうだね。まるで鏡写しみたいに、よく似ている」

 円子えんこはなんでもないふうに言い切った。俺に言わせれば、たしかに似ている部分もあるが、それはほんのわずかだろう、というところで、またわずかな部分的相似くらい、どんな人間間でもあるものだ、という感じだ。

「どのへんが?」

 だから言う。一体全体あの奇天烈な人間と俺がどう似ているのか。

「平等なところだよ」

 円子は簡潔に言った。簡潔に言われても解らない。

 だが直近で心当たりがあった。

「アンドロイドの件なら、違うと思うぜ。久米方は誰でも助けたい、って気持だったんだろうし、俺は、役に立ったから助けてやろう、って思っただけだからな」

「その感情もまた相似だが。……私が言っているのはそもそも、そのアンドロイドを人として見ている、という点のことだよ」

 円子は言う。今日も床に寝転がり、マジックで紙になにかを書いている。あれが妄言なのだろうか?

「人としてなんか見てねえ。俺はアンドロイドとして助けてやろうと思っただけだ」

「見殺しにはできない。と?」

「ああ」

「つまり死なせたくない、という意味だね?」

「まあ、そうだな」

「それだよ」

 円子は姿勢をあげて、座り込む。俺を直視した。

「アンドロイドが壊れることを『死ぬ』と表現する。それだよ。世界を平等に見る瞳。人も動物も昆虫も。はたまた植物や無機物にさえも同じような目を向けられる。君たちはちゃんと食事の前に「いただきます」を言うタイプだろう?」

「だがあんな人型のアンドロイドなら、みんな死ぬって言わねえか? それに俺は直近でもっと精緻なアンドロイドを見てるし、なおさらな」

「もっと精緻なアンドロイド? そんなものがこの町にあるのか?」

 本気で言っているらしかった。とぼけている感じがしない。

「いや、あめだよ。あれはおまえが造ったのか?」

 俺が言うと「ああ」と、なにかを思い出すように言って「そうだったそうだった」と続いてなにかを納得したらしかった。

「すまない。ちゃんと言ってなかった。天は人間だよ。理紫谷りしたに天。私の実子だ」

 俺はぽかんとする。

「いやだって、おまえ『人工生命体。試作Aタイプ』って。しかも実子? ちょっとなに言ってるか解らねえ」

「落ち着けよ、少年。言い方は悪かったが嘘はついてないぞ。人間なんてみんな『《《人工生命体》》』だろう。試作ってのは文字通り、《《試しに作った》》ってだけだ。なに、私からだったら君たちと同じ『世界を平等に見る瞳』を持つ子供が生まれるかと思ってね」

 まあうまくはいかなかったわけだが。と、円子はなんでもないふうに笑った。

「そういう瞳を持っているのは地球上の全人口を見てもごくわずかでね。しかも、二十歳未満でできるだけ近くに住んでいるふたりを探す必要があった」

 やはり、なんでもないふうに言う。だけど、その目は至極真剣なそれだった。

「二十歳未満ってのは?」

 少々頭が痛かったが、俺は聞いた。

 俺が気になったワード。それを指摘する。

「西暦二〇〇〇年以降の生まれ、という意味だ。言い換えるなら、《《産まれた瞬間に脳にマイクロチップを埋められ》》、《《その記憶や思考をすべて管理されている者》》」

「……へえ」

 俺は円子の言葉を自分に馴らすために間を空けた。

「やっぱり俺は、一昨日、たまたまおっさんに呼び止められたわけじゃなかったんだな」

 円子の言葉を疑う気持ちがとうに麻痺している。だが現実を受け入れるにはまだ俺の頭は正常だった。

 そしてこうも思う。体内にチップを埋め込むくらい、とっくにマウスなどで行われているはずだ。だったらなにも、おかしいことはない、と。

「おっと、いちおう極秘情報だから、あまり言いふらすなよ? 政府もいつ公表しようか迷ってるらしい。まあ、そりゃそうだろうね。当初は『二十歳になったら順次』と決めていたそうだが、いざその二〇年目が近付いてくると、やれ時期尚早だの、やれ本人が現実に耐えられないだの、もっともらしい理由を言い始めた。そんなことは二〇年前から解っていたことだろうに」

「二十歳……二〇年……つまり来年の一月一日に、初の、チップを埋められて生まれた誰かが、それを自覚するのか」

「いや、いま知ったんだから。君がひとり目だ。名も知らぬ少年」

 円子は俺にマジックの先を突きつけて、得意げに言った。

「それで、もうひとつ。……ふたりってなんだ?」

「うん?」

 すっとぼけやがる。たぶんこいつの頭脳なら、いまの言い方でもすぐに理解できただろうに。

「どうして俺と久米方もがみ、ふたり必要だった? その、『世界を平等に見る瞳』を持つ者がさ」

「ひとりだと道を見失うからだ。たとえ神であってもね」

 神。と言った。その神とは、一昨日言っていた神のことか?

「つまり、片方が神になる。そしてもう片方が、……それを調整するエンジニアってところか?」

「私としては、調律する指揮者、と表現したいがね」

 円子は覚束ない動きでマジックを振った。

「まあ、やることは簡単だ。ただ生きて、爆発的に広がる世界を、のんびり観光でもしてくれればそれでいい。そのとき感じる感情や、残る記憶が、きっと神を微修正してくれる」

「俺に永遠を生きろと?」

「いやいや。そこまで強制はしないさ。死にたきゃ死んでくれ。だけど、子孫を残してほしい。君と天の子なら、またそれ以降の直系卑属なら、きっと君の代役になるだろう」

「待て。なにかいま、不穏な単語が紛れていたぞ」

『君と天の子』? 天ってのは理紫谷天のことか? 雨じゃなくて?

「そのために君に引き合わせたんだ。最初に言ったろう。『アメちゃんを《《やろう》》』って」

 こいつは頭がおかしい。いまようやく解った。本人の同意もなく娘をくれてやるなど正気の沙汰じゃない。

「ちなみに天も了解している」

 了解していた。頭がおかしいのは母娘そろってだ。……いや、俺もか。『それならいい』なんて考えているようじゃ、同族だ。


「俺がやるのか」

 疑問というよりは、言い聞かせるように、俺は言った。

「頼めるかい?」

 きっとその答えも、円子には解っていただろう。


「まあ、暇だしな」

 俺は答えた。




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