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始まりの夜


深い森の奥にある静かな街でカラスが鳴いた。

月明かりのささない、じめじめとした深夜だ。

この街の北北東の木々に、おおよそ二十四名のチェイ=リゴッティ(史実では1890年〜1990年に開発されたセミオートライフル)を武装した兵隊が身を隠している。隊長であるヨル・ゲンスイ少佐は双眼鏡でとある一軒を偵察している。


ヴィクター・ウェンズデイ、偵察されている家に一人暮らしをしている少女だった。この家は、街の中でも一際大きいのだが、一人暮らしをしている少女にとっては不必要な広さであった。その少女は布団につき、もう寝ようとしている所だった。


こんこん、こんこん。

玄関の扉を叩く音ではない。少女は目を覚ます。すると寝室の大窓に、金髪で、ボブショートで、ぱっちりとした青眼の少年がふらふらと、屋根に足を掛けてぶら下がっており、ピースサインを見せた後に喋り出す。

「やあ!」よく見ると少年には翼が生えていた。

「こ、こんばんは」

「開けてもらってもいいかな」

「……いやよ」ウェンズデイにとっては、その少年は天使のような風貌なのだが、不審者には変わりない。

「じゃあ、仕方ないね。誘拐する前に自己紹介をさせてもらうね。僕の名前はロバート・ウォルトン。これからよろしく!」軽々しい口調だった。


鍵をしていた大窓は勝手に開き、ウォルトンは寝室へ、ひょいっと突入する。ウェンズデイは恐れ、ベットから飛び出て、後退りする。しかし壁に背中が当たると、恐怖で膝から崩れ落ちてしまった。ウォルトンが言う。

「大丈夫、悪い僕じゃないよ!」作り顔の笑顔だった。無理やり手を掴み、優しく引っ張る。ウェンズデイはその手を払い除けると、次は玄関の方から爆破音がした。ウォルトンが呟く。

「思った以上に早いな」その声はウェンズデイに聞こえていなかった。もう一度、手を掴むと、次は強引に引っ張り出した。

「話は後だ、逃げるよ!」そう言われ、ウェンズデイをお姫様だっこし、二階の大窓から飛び出した。


立ち止まっていればじめじめとする空気も、突風のごとく走り抜ければ、それは爽やかな風のようだった。月は見えないけれど、どこかで見えているかのような、そんな空気感にウェンズデイは包まれていた。

「ねえ、あなたたちは誰なの!」ウォルトンはウェンズデイの顔を見て、少しだけ考えた。

「僕達は、君の父親を探しているんだ」

「父親?」ウェンズデイは自分の父親を知らない。目を覚ました時には、誰も居なくて、一人だった。

「ああ、君の父親さ」ウォルトンは走る。

「ねえ、羽があるなら飛べばいいじゃん。もしかして……重い? ……私」

「ははは、軽いさ」そう笑うと、ウォルトンは、ぽいっと上に投げる。浮遊感、まるで飛んでいるかのようだった。

「やめ、やめて! ……で、誰なの。ウォルトン……だっけ。それと扉を突き破ってきた人たちは」

「簡潔に言えば、僕らはさっき言ったように君の父親を探していて、ヴィクター・ウェンズデイの保護が目的、彼らはパリストン特殊警備隊、かな」

「……特殊警備隊が、なんで私を?」

「……やはり、君は何も知らされていないんだね」ウォルトンは励ますかのように笑みを見せるのだが、ウェンズデイは頭が付いて行っておらず、慈悲の意味を理解できていなかった。するとウォルトンは耳を手の平で抑え、会話を始めた。無線連絡だろう。相手は五キロ先のフォースEだ。彼女の声は抑揚がないのだが、冷たい宝石のような美しい大人の声だ。もちろんウェンズデイには聞こえていない。

「ウォルトン、敵は何人くらいだ? 一人で対応出来そうか?」

「無理だね、相手が素手だったら余裕なんだが、全員がコッキング式を持ってる。たぶん敵は十五以上、三十以下。二十までなら余裕なんだけどね」

「……そう。それで対象は無事?」

「もちろん! 指一本触れさせてないよ」

「手記、手掛かりと言うべきか、足跡の方は?」

「さあ。そこまで時間なかったから確認は出来てないよ」

「じゃあ、そういうことか。じゃあ予定通り落ち合い、プランBでいく」

「りょーかい」そこで無線の連絡は切れた。


そこから六分が過ぎ、茂みに入ると、一人の女性が現れた。ウェンズデイとさほど年齢差があるようには思えない、若い顔の作りなのだが、両脚は義足であり、目は虚に光がない。人間のようには思えない、そんな風貌だ。明るい水色の髪の毛は長く、もじゃもじゃとパーマがかかっている。首には飛行士が使うようなゴーグルがあった。

その女性がウォルトンに話した。ウォルトンはウェンズデイを降ろす。風が茂みを揺らした。

「お疲れ様、ウォルトン。私の名前はフォースE。あなたはヴィクター・ウェンズデイ、誤差なし。本人確認いたしました」ウォルトンが言う。

「驚かないでね、たぶん驚くから」ウェンズデイはどっちだよ、と思った。フォースEが言う。

「それでは一時離脱、ベルナール号は帰還します。変形、注意」そう言うと彼女は、歯車がギチギチと回るような音が鳴り始め、翼が生え、小型双翼機に変身をする。もちろんウェンズデイは驚く。無理もない、不気味な虚な少女がいきなり機械になるのだから。それを見ていたウォルトンは笑う。

「じゃあ乗ろう!」

「ねえ、どこへ行くの!」

「飛行船ジャン・コルトー号さ」ウェンズデイは彼らが信用できる人間なのか、不安になっていたのだが、断った所で、玄関を爆破して入ってきたパリストン特殊警備隊に捕まるだけだ。彼らよりは信用できるのだが若さゆえの優柔不断が、その一歩を遅らせた。するとウォルトンがまた手を掴む、今度は最初のように優しかった。

「行こう、信じてほしい!」

ウェンズデイは、こくんと頷いて、その手をまた握った。


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