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炭酸飲料を喰らった時、ゴンスケは少しだけ飲んでしまっていたらしい。
昼間、俺は学校、両親は共働きのため家にいるのは祖父母だけになるのだが、畑仕事から戻ってきた二人が目にしたのは祖父のビール缶を一本だけだが飲み干して、スピスピ眠るゴンスケだった。
学校から帰った俺は、ゲンコツでタンコブを作り家から締め出されてるゴンスケと遭遇した。
「人のものを勝手に飲んだらダメ、わかったか?」
こってり絞られたらしいゴンスケは涙目である。
「ゴンスケだって、自分のご飯ボスに取られたら嫌だろ?」
こくこく、とゴンスケはうなづいた。
ボスというのは、たまにウチに侵入しキャットフードを食い逃げしていく野良のボス猫だ。
何回目かの脱皮、もとい進化してポンと同じくらいの大きさになった時、ゴンスケはボスと喧嘩してコテンパンに負けたのだ。
図体ばかりデカくなったが、そんな経験をしたためかボスのことを警戒している。
「よし、じゃあ、謝りに行くか」
そうして俺はゴンスケを引っ張って、祖父母へ頭を下げに行ったのだった。
それから数日後のこと。
祖父の晩酌のお酌を、何故かゴンスケが務めることになっていた。
ビールよりも清酒の方がゴンスケの口には合ったらしい。
使っていないスープ皿をゴンスケ用に下ろして、祖父が与えていた。
それを父が羨ましそうに見る。
「それにしても、ゴンスケがドラゴンだったとは」
俺が呟くと、祖父が難しい顔をしている。
「家くらいデカくなると、ちょっと問題だよなぁ。
家畜小屋は離れてるし、そうなると、あの自転車小屋を開けるか」
「変身魔法覚えさせれば、サイズは変えられるらしいし。
人型に変身させることも出来るらしいよ、じいちゃん」
「誰が魔法教えるんだ?」
祖父の返しに、俺は悩む。
目下、悩みの種はそれだった。
ウチの祖父母は魔法は義務教育程度だったら使えるが、変身魔法となると専門か大学に行って教わる上級魔法の一種だ。
残念ながら祖父は高卒、祖母は中卒である。
時代が時代だったらしく、本当は勉強したかったらしい祖母はしかしそれが許されなかったらしい。
父は大卒だが、平日はしごと、休みは寝ていたい派で教える時間がない。
母は魔法は使えるが、教えるのは苦手らしく先生には向かない。
つまり、誰も教える者がいないのだ。
「あ、そうだ、タカラに連絡したら?」
母がそう提案する。
タカラというのは、俺の姉だ。
姉も遺伝的には父似のため人間種族である。
しかし、魔族と天使のハーフである母の魔力をそのまま受け継いだからか昔から魔法は得意だった。
今は進学して他県の大学に通っている。
他県のため、絶賛一人暮らし中だ。
「そういや、姉ちゃんにペットが増えたこと教えた?」
俺は母へ訊ねる。
「言ってないよ。帰って来た時驚かせようと思ってたから」
夏休みと年末年始くらいしか姉は帰ってこない。
と、話題に出していた矢先の事だった。
家電が鳴った。
「こんな時間に誰だ?」
取ろうとしたら、切れた。
ワン切りである。
不思議がったゴンスケが俺の横にやってくる。
その背にはいつの間にか、ポンが乗っていた。
構わず、俺は着信履歴を確認する。
姉の携帯端末の番号が表示される。
「噂をすればってやつか」
きっと電話代をケチったのだ。
こちらから掛けろということだろう。
リダイヤルの操作をして、姉へ電話をかけ直す。
二回のコール音の後、姉の声が聞こえてきた。
『遅い!』
第一声がこれである。
『誰も携帯出ないし!
携帯電話なんだから携帯しときなさいよ!!
っとに、ウチの家族は使えない!!』
「携帯の方に掛けてたのか?」
『そうに決まってるでしょ!
あんた、ドラゴン飼ったならなんで言わないの!!』
「あれ? なんで知ってんの?」
『SNSで、あんたらが写ってる動画がトレンド一位になってたの!
モザイク掛かってたけど、ドラゴンとイチャコラしてたのがあんただってすぐわかったわ!!』
なんで現実の姉はこうなのだろう?
それこそラノベに出てくる優しい姉が欲しかった。
キーキー喚き散らす姉に言うと後が怖いので言わないが。
というか、イチャコラってなんだ。