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「で、ここには主に三種類のドラゴンが生息していると言われてる。
ゴンスケと同じ、遥かな古代にはこの世界を支配したとされる神龍種。神話の時代には魔神の乗り物だったと伝えられる黒竜種。んで、伝説にある大地の女神と契約を交わしたと伝えられる、地竜種」
そんな云われがあったのか、知らんかった。
まぁ、中央大陸の神話やら伝説なんて、東大陸じゃメジャーじゃ無かったしなぁ。
「俺の狙いは、黒竜種な」
「ドラゴンってどう見分けるんだ?」
「もう見た目から違う。ゴンスケは神々しい白い体だろ?」
俺は、近くの泥であそび始めたゴンスケをみた。
神々しいとは、お世辞にも言えないくらい泥んこである。
「黒竜種は、体が夜空のような闇色、もしくは黒色で、なんかラメっぽい感じでキラキラしてる」
「へぇ」
「で、めっちゃ気性が荒い。
だから、竜種の中でも一番ペットには向かない」
うぉい!
なんで向かないやつを捕まえようと思ったんだ。
「ん? なんで神龍種は、ロードドラゴンとかゴッドドラゴンじゃないんだ?
おもしろい、響きだなシェンロンって」
俺はなんとなく気になって、そう聞いてみた。
「あー、そっか、そうだよな。まぁ意味は同じだからその辺のことは気にしなくていい。
で、ここにはいないらしいけど、面白いのが北大陸にいる黒銀竜種。
これ、どんなドラゴンかわかるか?」
「あ、名前なら知ってる。たしか北大陸の神話に出てくるでっかい狼だ」
「そう、神話の元ネタになった竜。まぁ、どっちが先だったのかはぶっちゃけわからないんだけど。
その黒銀竜種は名前の通り狼の姿をしている。
名前の表記にあるとおり、黒銀の毛並みをしためちゃデカい狼だ」
「狼なのに、ドラゴン?」
「な? おもしろいだろ?」
「矛盾というか、なんというか、なんか納得いかない」
「なんで?」
「なんで、ドラゴン扱いなのかが」
「うーん、それな。ほんと、それな。
ちなみに、この黒銀竜種、相手を主と認めればすんごい、懐くんだよ。
ウチのマカミ、見るか?」
「ま、まかみ?」
「俺が飼ってる黒銀竜種の名前。マカミって言うんだ。ちょっと前に勝負して、負かしたら懐かれたんだよ。
話を聞いたら、群れから追い出されたとからしくてさ。
で、連れ帰って飼ってる。
人間にも化けれるから、留守番にはもってこいでさ」
ドラゴン飼ってるなら、わざわざ新しく狩る必要ないんじゃ。
こいつの意図がいまいちわからん。
レイはデジカメを取り出すと、画像を見せてきた。
そこには、獣耳のついた女性が映っていた。
なんて言うか、キリッとした女性だ。
あと、どちらかと言うと中性というか、男役をしている女性のようにも見える。
「ヅカのディスク見せたらさ、ハマって最近ずっとこんな感じなんだよ」
ヅカってなんだろう?
カツラのことだろうか。
いや、会話から連想するにドラマかなにかのキャラかな。
「服もせがまれたからさ、作った」
すげぇな、このバカ万能だ。
バカなのに。
俺はもう一度、画像に視線を落とす。
と、ゴンスケが興味を持ったのか、横から泥だらけのまま覗きこんできた。
じぃっと、画像を見て。
人間バージョンに姿を変える。
それから、むむむ、と自分の服装と画像のなかのマカミの格好を見る。
「むぎゃぁ」
「お、ゴンスケ、どうした?」
レイも不思議そうに、声をかけた。
「ぎゃう、ぎゃっ、ぎゃっ!」
あ、もしかして。
「こんな格好してみたいのか?」
俺の言葉に大きく頷く。
「あー、姉ちゃんのお古にはこんなの無かったしな。
母さんの好みにもあわないだろうし」
というか、これ執事服だからコスプレ用になるんだが。
「ぎゃっ!」
ゴンスケは、尻尾を矢印にして画像を指し示す。
それから俺を指して、最後にゴンスケ自身を指した。
あー、はいはい。買えってことね。
「わかった。ずっと籠の中でいい子にしてたもんな。
旅行が終わったら買ってやるよ」
パァっと、ゴンスケの顔が明るくなった。
目も輝いている。
「将来、女の尻に敷かれるなコレ」
おい、聴こえてるぞ、レイ。
「…………つーか、ドラゴン飼ってるならここに来なくても、わざわざ狩らなくても良いだろ」
「うーん、マカミは便宜上飼ってるって言っただけで、なんつーのかな?
ペット扱いじゃないというか」
なんだそりゃ。
「それに、さっきも言ったけど、コイツは狼。
大半の人間が想像する竜とは違うだろ?
マカミはどっちかって言うと犬扱いだ」
ドラゴンを犬扱い、か。
まぁ、俺も似たようなもんだし、その辺は突っ込むとブーメランになるな。
「それにしても、なんでまたその格好なんだ?」
ちなみに、股間にはあの赤ら顔の民芸品が装備されている。
さすがに、ここは、無人島じゃないしサバイバルしてるわけでもない。
なのに、なんでレイはこんな格好をするのか、本当に謎である。
「え、好きだからに決まってんだろ」
馬鹿に説明を求めた自分が馬鹿だった。




