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「言わんこっちゃない」
炭酸が目に入ったのか、ゴンスケは丸まったまま先ほどよりは弱いものの、ペシペシと尻尾で地面を叩いている。
「水買ってくる、ちょっとこいつ見ててくれ」
「そんなん魔法使えばいいじゃねーか」
マサが呆れている。
「俺、魔法使えねーよ」
「あれ? そうだったっけ?」
「そうだよ。魔力ゼロだぞ」
「いや、テツお前のステータスわかんないから」
「あ、そっか」
「まぁ、水なら俺が魔法で出せるから、ゴンスケこっち向かせろ。とりあえず軽く目すすいだ方が良いだろ」
俺はマサの言葉に甘えることにした。
チョロチョロと空中から水を出現させ、ゴンスケの目をすすぐ。
滲みているのだろう、しかしゴンスケは我慢してされるがままだ。
「よし、こんなもんかな?」
マサの言葉とともに、ゴンスケは軽く頭を振って水気を飛ばすと、何回か瞬きする。
「きゅうるる」
少し甘えるような声を出して、しょんぼりしている。
それなりにショックを受けて堪えたようだ。
「ほら、マサにお礼は?」
俺の言葉に、ゴンスケは少し赤くなった目をマサに向ける。
そして、
「こるるぅ」
と、一声鳴いて頭を下げた。
「おー、すげぇ。どうやってしつけたんだ?」
「怒られた時とお礼言う時に頭下げるのは、ほら親戚とかから旅行のお土産貰うのみたり、うちの親の夫婦喧嘩見て覚えたっぽい」
「お前が教えたんじゃないのかよ!!」
ゴンスケの頭を撫でながら、楽しそうにマサが言った。
俺の両親は喧嘩するほど仲がいいを地で行く。
ゴンスケの横でギャースカ騒ぐのも珍しくない。
「教えなくても覚えるんだよ」
「はー、ドラゴンってほんと頭良いんだな」
マサが撫でていた手を引っ込める。
すると、ゴンスケは今度は俺のことを見てくる。
「くるるぅ」
「とりあえず、もう二度とすんなよ」
しゅん、と項垂れてしまった。
「そういや、ドラゴンってたしか霞みたいなのも食うってきいたんだけどなんだっけ?
精力や生命力吸い取るのは、エロい魔族だし」
「ゴンスケが食べてるのは、基本キャットフードと畑でとれた野菜だ」
「いや、そういうんじゃなくて、なんだったかな?
あ、そうそう、魔力だ魔力。
ドラゴンって、高純度な魔力が大好物らしい」
「なんだよ、高純度な魔力って?」
「神気とも言うんだったかな。
魔力にも種類があるらしいんさ、神殿とか行くと調べて貰えるらしいんだけど。
牛肉に例えるとA5ランクな極上の魔力を保持してるやつが種族問わずに稀に生まれるらしい。
んで、ドラゴンはその魔力が大好物なんだとさ」
「稀って、確率どれくらいなんだ?」
「テツみたいな人間種族だと六十億分の一。
他の種族だともう少し上がって、一千万分の一くらい?」
「宝くじ当たるより低いのか」
俺のつぶやきに、マサが返す。
「あーあ、宝くじ当たんないかなぁ」
「宝くじ当たったら、なにするよ?」
「うーん、するというかしないというか」
「なんだ、それ?」
「宝くじ一等当たったら、だけどな。
遊んで暮らすか、ごろごろして暮らす。
つまり、就職しない」
「あ、いいな、それ」
「だろ、天才的な発想だろ」
「でも、そうだよなぁ。宝くじ当たったら奨学金申し込まなくていいんだもんなぁ。
大学にしろ、専門にしろ、金かかるし」
「そうそう、奨学金とか言いつつ、アレ借金だからなぁ」
「借金しない、となると就職が現実的なんだよなぁ」
ため息をついて、俺はゴンスケを見た。
ゴンスケは俺の反応を伺っている。
「…………ゴンスケって、珍しい種類なんだよな?」
俺の言動を察したマサが、肩を掴んでくる。
「やめろ、テツ、それ以上はいけない」
「ん? 何が?」
「目がマジだったぞ」
「そんな、ネットオークションで売ろうとか思ってないぞ」
「…………」
「も少し芸を仕込んで動画投稿して、再生数で稼げないかなぁとか考えただけだ」
「やめとけやめとけ、アレだって広告収入だ。
どんなに頑張っても人気者並みに稼ぐには時間と才能が足りねーよ」
「ですよね~」