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バスやら電車やらを乗り継いで、そして途中の宿に二泊ほどしてやってきたのは、中央大陸のなかにありながらいまだ人跡未踏だと言われている、土地だった。
広大なその土地には、森があり、山があり、谷がある。
自然公園と呼称されており、この中央大陸に溢れる魔物の発生源と言われている場所らしい。
しかし、誰が管理しているわけではない。
一応、中央大陸にあるウィスティリア国の中にある土地らしいが、管理するには広大過ぎて放置しているというのが正直なところだとか。
この自然公園では、時折魔物、それこそドラゴン等の大量発生が確認される。
しかし、その原因はいまだわかっていないらしい。
「基本、ここなら魔物の討伐やり放題なんだわ。
でも、結構高レベルな魔物も出るから、初心者向けじゃないんだけどな」
そんな場所に一般人を連れてくるんじゃない。
「アハハ、まぁそう言うなって。
それに、魔力皆無にも関わらず悪者を退治できるやつを一般人の括りに入れるのはどうかと思うぞ。
それに、討伐経験はあるんだろ?」
「?」
俺は意味がわからずに、とりあえずゴンスケをキャリーバッグから出してやった。
途端に本来の姿である、空飛ぶデカい蛇姿へ戻る。
「くぅるるるる~。グゥあるるるる~」
ゴンスケは、身体を伸ばしたあと俺に絡みついて甘えてきた。
「よしよし、良い子だったな」
途中の宿でも出してはいたが、やはり基本放し飼いだったからか相当キャリーバッグでの移動はストレスだったようだ。
「で、話を戻すけど討伐ってなんの話だ?
そう言えば、今更だけど、なんでテロリストのことも知ってたんだ?
アレは秘密にされてて、表には出てないはず」
俺は、ゴンスケを撫でながら今更過ぎる疑問をぶつける。
すると、ニシシと笑いながらレイは返してきた。
「さて、何故でしょう?」
まるで、クイズの出題者みたいだ。
「ヒントなら、今までお前とやり取りした場所や会話の中にあったりするんだよなぁ」
うわ、性格悪いなこいつ。
そんなやり取りを逐一覚えてるほど、俺は頭がよくない。
声には出さず、そう考えた時、
「討伐に関しては、お前の家だと駆除っていってるんだったっけ?」
実に楽しそうに、レイはそう続けた。
そこで、わかった。
「あー、喫茶店の井戸端会議。婆ちゃんか爺ちゃん、いや母さんの話を盗み聞きしたのか」
そう、あの店は俺が産まれる前からあり、父も常連だが家族も友人知人とゆっくり話をする時なんかに利用しているのだ。
そして、意外と話し声はよく聞こえたりする。
聞こうとさえ思えば、たとえば奥様方の旦那への愚痴もよく聞こえてしまうのだ。
「正解」
討伐に関してはわかった。
家族の誰かが、綺羅星でお茶をした時に会話していたのを、レイは聞いていたのだ。
レイは、マスターと知り合いで、さらに食材が足りないと手に入れて納品するくらいにはあそこに出入りしている。
マスターのことを師匠と呼んでいて、ジルさんとも知り合いだから別に変なことではない。
変なのは、やはりテロリスト、あのホテルでの一件を知っていることだ。
これは、あの時に人質になった人達にも口止めがされているはずで。
さらに、王様、俺が住んでいる国の一番偉い人が直々に情報操作をしたのだ。
残るのは、父だが。
あの人が一番、その件に関しては神経質になっていた気がする。
だから、いくらなんでも口を滑らせるなんてことは無いだろう。
では、どこかから情報が漏れたのか?
わからない。
こればっかりは、本当にわからない。
「俺は、冗談は言うけど嘘は言わないんだ」
レイは呟くように、そう言った。
たぶん、これもヒントなのだろう。
でも、
「あっそ、教えてくれないなら別にいいや」
俺は面倒なので、考えることをやめた。
「えー、もう少し聞くもんじゃね?」
「いや、まぁ、気にはなるけど。
でも、知っても知らなくてもどうでもいいし。
それに、お前は言いふらすような奴じゃないし」
「ほうほう、なんでそう思った?
言いふらさないって」
「田舎は、言いふらされたらあっという間に拡散するんだよ。そういうもんなの」
俺が言うと、納得したようだった。
「あ、たしかに。なるほどなぁ」




